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第46話 魔大洋へ

 海軍大佐ワスプから「人魚保護区への招待」を受けた夜。僕らは、港町イーストフォーク郊外の一角に潜ませていたノワールと隠密通信を繋ぎ、静かに出陣の準備を整えた。表向きの衣装や装備はそのまま。だが、見えない部分にだけ、刃と魔法を忍ばせる。魔剣は再びイリスの収納魔法の奥底へ。全員の装備や僕が厳選した地球産のグッズもだ。――あくまで僕らは、放蕩若旦那一行。敵の懐へ、無防備に飛び込む“獲物”でなければならない。


 翌朝。港の鐘が低く鳴り響く中、海軍からの迎えの馬車に揺られて、僕らはイーストフォーク軍港・第一埠頭へと降り立った。「……っ!」その瞬間、息を呑んだ。視界いっぱいに広がるのは、鉄と魔法の巨獣たち。広大な港を埋め尽くすように、巨大な甲鉄艦が何隻も停泊していた。


 僕は転生前、広島県呉市――海上自衛隊の基地がある街に住んでいた。海軍や軍艦という存在には、多少なりとも馴染みがある。だが、これは別格だ。この世界の戦艦は幕末期の装甲艦に近い無骨なフォルム。 蒸気機関の煙突に似た構造物、厚い装甲が全体を覆い、舷側にずらりと並ぶ砲門。


 それだけなら、まだ理解の範疇だった。問題は――魔法だ。船体の随所に刻まれた魔導紋。装甲の継ぎ目を走る淡い光。まるで艦そのものが、生き物のように脈動している。


「良一郎様、あれは魔法動力炉によって推進していますわ。燃料は魔結晶です」


 ユリシアが、あくまで観光客然とした口調で耳打ちする。砲門の奥に見えるのは、火薬ではなく魔力集束陣。――攻撃魔法を、砲撃として叩き込む兵器。その威力は計り知れない。この世界の艦船技術にも、確実に“転生者の知恵”が混じっているみたいだった。そしてそれは、間違いなく大量破壊・大量殺戮のために洗練されていた。こいつらはただ戦うための船ではない。『海を支配するための浮かぶ城』だ。


「おはようございます、アズマ殿。ようこそ我が海軍基地へ」


 数名の部下を従え、ワスプ大佐が現れる。完璧な敬礼。余裕の笑み。その奥に、底知れぬ冷たさを隠した顔。


「おはようございます、大佐殿! いやぁ、今日のクルーズが楽しみで昨夜は眠れませんでしたよぅ!」


「ダーリンたら、人魚人魚って……わたくし寂しいですわぁん」ユリシアが頬を膨らませ僕に絡んでくる。


「まあまあユリちゃん、これもコレクションのためだからさー機嫌直してよ」僕はちょっと困り顔で彼女をなだめる。


「大佐殿、首尾よく契約が成立しましたら、残金は即座にお支払いします。主人の願い、どうか叶えてやってください」


 アシュレイの執事口調に、ワスプは腹を抱えて笑った。


「はっはっは、お任せください。きっとお気に入りの『商品』が見つかります。では、こちらの艦へ」


 案内されたのは、居並ぶ戦艦の中でもひときわ巨大な最新鋭艦。艦首に刻まれた王国の紋章が、朝日に鈍く光っていた。


***


 出港してから三日。 航海は、あまりにも順調だった。甲板には日よけの天幕が張られ、白いクロスのテーブルが並ぶ。 潮風の中、腕利きの料理長による海鮮フルコースが供される。まるで、貴族の優雅な海上遊覧。 途中で名所だという島なども見たりして穏やかな航海だった。艦内では水兵たちの態度も高位の上官に接するがごとく丁寧だし、僕らは大金持ちの若旦那を遺憾なく演じていた。


「あの大佐、案外いい奴なのかなぁ……」そんな、致命的な油断が脳裏をよぎった瞬間だった。


 ――バコォーン!! 


 轟音と共に、貴賓室のドアが外側から蹴破られる。


「何をするんだ! 僕は上客だぞ!」


 叫び終えるより早く、屈強な水兵の拳が視界を埋め尽くす。


「ぐはっ……!?」


 顔面に走る衝撃。口内に広がる鉄の味。


「うるさい! 立て!」


 屈強な水兵に左右から腕を掴まれ、床を引きずられる。抵抗する素振りすら許されず、アシュレイたちも剣を突きつけられて甲板へと連行された。上甲板。そこに立っていたのは――笑顔を完全に捨てたワスプだった。


「アズマ殿、クルーズは楽しかったかな?」


「大佐……何をするんだようぅ(涙目)」


「ハハハ!エチゴの若旦那ご一行とはここでお別れだ。……王都の大貴族と昵懇だろうが、この海の上じゃ関係ないんでね。人魚人魚と派手に騒ぎおって、迷惑なんだよクズどもが」


 その声はまるで最初から、こうする予定だったかのようだ。


「えーん……人魚を売ってくれるんじゃないのかよう!」僕はガチでヘタレたセリフを言うばかり。


「手を離しなさい!無礼者!」ユリシアは怯えた芝居の中に、本気の怒気を混じらせる。


「大佐殿!金ならいくらでも出しますから!助けてぇ―」アシュレイは金をチラつかせての命乞いだ。


「ご主人様~怖いですぅー」イリスとトラ子も涙目でふるふる震えている。


(僕以外はみんな演技だけど・・・)


 だが、ワスプはそれを一瞥もせず、淡々と告げた。


「人魚の件は海軍のトップシークレット。余計な詮索をするバカは、ここで『海難事故』になってもらう。遺体も上がらない不運な事故だ」


 手際は、異様なほど慣れていた。ロープが手首に食い込み、足元には重い鉄塊。冷たい金属の感触が、はっきりと“死”を伝えてくる。僕らはロープで手足を縛られたまま舷側に一列に並べられる。部下の水兵が僕のお尻を海に向かって蹴飛ばした。


「あばよ、若旦那。……海の魔物のエサになりな!」


 ――ドボォーン!!


 甲板が遠ざかる。空が反転し、青がすべてを覆う。次々と、仲間たちが落とされてくる気配。水音。泡。沈んでいく影。足元の重りが、容赦なく身体を引きずり下ろす。


 ぶくぶくぶく……。


 手足は縛られ、肺が焼けるように痛む。音が消え、世界が遠のいていく。


 (……ちょ、待って。これ、ガチで想定外のピンチじゃない?頼む……作者様……ご都合主義でもなんでもいいから、なんとかして……ぶくぶくぶく……)


 意識が闇に沈む寸前。ふと、思い出した。――僕らは、人魚を探していた。この、底知れぬ魔大洋の中で。

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