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第43話 奴隷人魚解放戦線

 謎の集団の襲撃を退けた後、峠道は奇妙な静けさに包まれていた。先ほどまで魂を殴りつけていた魔声は消え、残ったのは呻き声と、鼻を突く汗と血と魚の匂いが混じった空気だけだ。僕らは二手に分かれ、気絶した隊商の人々を介抱する者、捕縛した男たちを監視する者とに分担した。


 そして、アシュレイの「テイムスキル」によって完全に行動を制御された筋肉達磨たちは、岩場の一角に正座させられていた。異様な光景だ。山賊でも兵士でもない、全身から湯気が立ちそうなほどの肉体を持つ男たちが、妙にお行儀よく並んでいる。僕はアシュレイ、ノワールと共に、その中心に立つ。


「リーダー、答えなさい」アシュレイの声は、戦闘中とは別人のように冷えていた。


「あなたの名前と正体は?」


 筋骨隆々の大男は、一瞬だけ目を伏せ、そして覚悟を決めたように顔を上げる。


「……わしの名はウンチョウと申します。人魚族の戦士長にして――『奴隷人魚解放戦線』の首領です」


 その言葉に、空気がわずかに張り詰めた。


「奴隷人魚解放戦線……?」僕は思わず、相手の体を上から下まで見回す。


「……あんたら、その姿で本当に『人魚』なのか?」


 ウンチョウは一瞬、きょとんとした顔をした後、「むん!」と、意味不明な気合と共に上半身に力を込めた。血管が浮き出た上腕二頭筋が盛り上がり、岩でも砕けそうな隆起を描く。


「どこからどう見ても、立派な人魚じゃないですかっ!」


 そのあまりに一点の迷いもない断言に、僕の膝から力が抜けた。


「……美しくも儚い、僕の描いていた人魚のイメージを返せぇー!!」


「アズマくん、まあまあ……」アシュレイが苦笑混じりに宥める。


「男の人魚なんて、だいたいこんなものよ」


「そうですわ、マスター」ノワールも、なぜか納得したように頷く。


「荒波を泳ぎ、魔物と渡り合う種族ですもの。これくらいのバルクがないと、生き残れませんわ」


 女子陣のフォローが、逆に僕のロマンを的確にえぐってきた。


「……百歩譲って人魚だとして」僕は気を取り直し、問いを重ねる。「なんで二足歩行して、こんな山の中にいるんだ?」


「わしらは半精霊族ですんで」ウンチョウは淡々と答える。「水中と陸上で、体型を自在に変えられます。なんなら――水中での“真の姿”、お見せしましょうか?」やけに誇らしげな顔。


「いや、遠慮しときます」即答だった。


 ウンチョウ以下、男たちが一斉に「ガーン!」と肩を落とす。


***


 アシュレイは、そこで一気に本題へ踏み込んだ。


「世間では、人魚は絶滅したと言われているわ……だが、あんたたちは生きている。仲間はどこにいるの?」


 一瞬、ウンチョウの表情から陽気さが消えた。歯を食いしばり、低く唸る。


「……ほぼ全て、でさぁ。海軍提督レキシントンに捕らえられ、奴隷にされております。……わしらが逃げる間にも、仲間は海に沈んでいきましたでさぁ」


 その言葉は、重かった。「わしらは、かろうじて脱走できた少数派にすぎません」


「それで――」アシュレイの声が低くなる。「山賊まがいの真似をして、力を蓄え、仲間を救おうとしていた?」


「その通りでさぁ!」即答。


 だが、次の瞬間、ウンチョウの顔が歪んだ。テイムによる支配に、何かを抗っている。


「……まだ疑ってるのか」僕が呟く。


「ええ」ノワールが静かに補足した。「催眠で探る限り、私たちをレキシントンの刺客だと疑っているようですわ」


 無理もない。王国に楯突く者は、常に「粛清される側」なのだから。 だから――証明する。


「アズマくんどうするの?」


「イリス、来てくれ。ディスフィア様を降臨させて、この人たちの筋肉を“元通り”にしてあげて」


「さすがご主人様! ナイスアイディアでございますー!」


 イリスの瞳が赤く燃え、空気が軋む。闇の女神の気配が、確かにそこに“降りた”。


《フハハハハ! 人魚どもよ、我らにひれ伏すがよい!》


 山が、震えた。僕は一歩前に出る。


「見たまま、聞いたままだ。僕は闇の勇者アズマ。闇の女神の使徒にして――アストラリア王国の巨悪を滅ぼす者だ」


「なんだって!? ダークエルフ……邪神の下僕だと!?」


《人魚族よ。わしらは、海軍提督レキシントンを叩き斬りに来た。協力せよ。さすれば、力を授けよう》


 闇の鎖が解かれ、黒い霧が男たちを包む。


「うぎゃぁああああ!!」


 悶絶。絶叫。だが、それは破壊ではなく――再構築だった。


「……もう少し優しく回復できないんですか」


《わしらに一度刃を向けたのじゃ。このくらいで許してやっておるわし、優しいじゃろ?》


 霧が晴れた時、そこにあったのは――以前よりも一回り、否、それ以上に鍛え上げられた肉体。


「……はっ!筋肉が……元に……いや、キレが増している!?」「女神様万歳!!」「ありがてぇありがてぇ」 歓喜の咆哮が山野に響く。


 そこにアシュレイの一喝。「全員、整列!」漢たちは即座に並ぶ。


「ディスフィア様の御力よ。感謝しなさい」


「へへぇ……! 闇の神威、しかと受け取りました!」「疑って申し訳ねぇ!」


「それじゃあレキシントン討伐、協力してくれるかな?」僕は微笑む。


 ごっつい人魚たちが笑顔で答える。 「「「いいともーー!!」」」


「軽い……」ノワールが思わずのけ反った。


 ウンチョウは胸を張る。「わしらは、救いを待っていたんでさぁ。それが邪神であろうと――構いやしません!」


《ああ?わしを邪神呼ばわりすると、もう一度シオシオにするぞ?》


「へへっー申し訳ありません!! 我ら一同・・心より忠誠をお誓いいたします!!」


 こうして――僕らは、最高に暑苦しい私兵団レジスタンスを手に入れた。


「改めて聞かせてくれ。奴隷にされた人魚たちの居場所と――レキシントンとの因縁をね」


 僕の瞳に、闇の勇者の光が宿る。物語は、ここから本当に“海=解放の舞台”へ向かう。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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