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第40話 東へ行く一行

 数日後。東の港湾都市イーストフォークへと向かう大規模な商隊が整い、僕らアズマ一行も護衛任務として馬車に乗り込んだ。早朝の街道には、革の軋む音、馬の蹄の乾いた響き、人夫たちの掛け声が重なっている。交易路が動き出す瞬間特有の、金と汗の匂いだ。


 旅の移動手段を確保しつつ報酬も得られる、いわゆる「美味しい仕事」。だが、僕らにとってはそれ以上に、目的地へ自然に近づくための最良のカモフラージュでもあった。数十台の馬車が連なる隊列。幌付きの商用馬車、家畜を積んだ荷車、護衛用の軽装馬車が混じり合い、ひとつの小さな移動都市のようだ。

 

 僕らは他の冒険者たちと協力して、街道の安全を守る。パーティーの表向きのリーダーは、アシュレイさんにお願いした。冒険者としての経験が最も豊富で、現場の仕切りに慣れている。何より、“この一行が普通である”ように見せる役目を、彼女ほど自然にこなせる人はいない。


 今回、彼女は長めの髪をキリリと結い上げ、ハードレザーの鎧に身を包んで「男装」している。肩幅を強調する鎧、無駄を削ぎ落とした所作。普段の絶世の美女ムーブを封印したその姿は、宝塚の男役のように中性的で、鋭く、凛々しかった。


「パーティーが女子ばかりだと、余計な輩に舐められるのよね。わたしは元々男だし、こういうのは任せて!」


「アシュレイさん、カッコいいですけど……綺麗すぎてバレませんか?」


「アズマくん、お褒めにあずかり光栄よ。大丈夫……いざとなったら立ちションして見せるから、まずバレないわ」


「……そういえば、そうでしたね(汗)」


 冗談めいたやり取りの裏で、彼女は周囲の冒険者や商人たちの視線を正確に把握していた。


 アシュレイさんは「ふたなり」だ。かつてディスフィア様に女体化を願った際、僕の不用意な一言のせいで、大事な「男の部分」が残ってしまったという経緯がある。


「結果オーライだったわね。今のこの体、結構気に入ってるの」


「多少の罪悪感はありますよぅ……」


「ふふっ。その罪悪感、いずれベッドの上で責任を取ってもらいますからね?」


「な、何と言ってよいやら……(冷汗)」


 軽口の応酬。その空気があるからこそ、道中の緊張も必要以上に張り詰めずに済んでいた。


***


 意外だったのは、ユリシアとトラ子の関係だ。ずっといがみ合っているかと思いきや、実はかなり気が合うらしい。トラ子は獣人とはいえ伯爵家の令嬢。ユリシアも元上位貴族。育った環境や礼節の感覚が近く、何より二人とも「格闘技好き」という一点で、完全に意気投合していた。


「うぉーりゃあー!」 「はぁーああーっ!」


 一日の終わり、焚き火の明かりが揺れる野営地で、二人の激しいスパーリングが日課となっていた。ユリシアが踏み込み、鋭い突きを繰り出す。だが、その拳は空を切った。


「えっ!?」


 トラ子の新スキル『超神技的足捌』。ユリシアのパンチが当たる直前、トラ子の姿が蜃気楼のように揺れ、次の瞬間にはユリシアの左後方、完全な死角に立っていた。


「ブーメランな、フーック!」 


「ぐはぁっ!?」 鈍い衝撃音。だが殺意はない。


「ごめーん、ユリちゃん! 痛かった?」


「ふふっ……魔術師の『魔法バリア』を舐めないでくださいまし!」


 ユリシアは不敵に笑い、手のひらに圧縮した爆発魔法を込める。


「お返しですわ! 爆発ビンタ!!」


「アウチッ!! やったなー!」


 頬で魔法を爆発させながらも、二人は笑い合っていた。


 それを、イリスが少し離れた場所からニコニコと見守っている。


「終わったら回復魔法ヒールを掛けますからねー。仲が良いのは結構ですけど、ほどほどに」


 僕はその光景を横目に、剣を振る。仲間が強くなる音が、頼もしくもあり、少しだけ焦りも生む。だから今日も、黙々と素振りだ。


***


 夜も更けた頃。諜報騎士団インテリジェンス・ナイツに二重スパイとして潜り込んでいるノワールが、報告のために姿を現した。


「マスター……こちらでしたか」


 遠征モードの彼女は、いつものお気に入りのゴスロリ服を纏っている。闇に溶ける黒とレースが、夜の街道によく馴染んでいた。


「ノワール、ご苦労様。王都の方はどうなってる?」


「諜報騎士団への報告は完了しました。今回の遠征については、奴らには『半分物見遊山のゆるいクエスト』だと思わせてあります」


 彼女の声には一切の迷いがない。


「ありがとう、助かるよ。イノカワ団長とか、監視の目は大丈夫かい?」


「ええ。上手い具合に、王都の精鋭騎士を切り離すことに成功しました。今後の監視は、私とイーストフォーク支部の騎士のみで行うことになります。……あ、ちなみに」


 ノワールが不敵な笑みを浮かべる。


「配下にしたアンデッド貴族を使って、別のスキャンダルをでっち上げましたわ。今頃イノカワは、そちらの対応にかかりきりです。ホホホホホ……あいつに一泡吹かせてやりました!」


「……ノワール、君もだんだん容赦なくなってきたね」


「マスターのためですもの。……さて、私はここで失礼して、一足先に港町を探索しておこうと思います。よろしいですか?」


「ああ、任せるよ」


 ノワールは深々と一礼すると、すぅっと闇に溶けるように消えた。しばらくして、遠くで馬のいななきが響く。僕の愛馬である不死の幽霊馬に跨り、彼女は夜の街道を疾走していった。


***


 素振りを終えた僕に、イリスがタオルを差し出してくれる。


「ご主人様、お疲れ様です。毎日の鍛錬、頑張っていますね」


「ありがとう、イリス。僕にはこれしかないから。……町道場で習った基本の型を繰り返すだけだよ」


「ディスフィア様も、それでよいと仰っています。基本こそが、悪を穿つ礎になると」


 イリスは収納魔法の中に、ディスフィア様を祀る簡易祭壇を忍ばせていた。神と共に旅をするという異常さが、もう当たり前になっている。


 夜風が心地よい。僕はふと、彼女の手を取った。


「イリス。この仕事が落ち着いたら……二人でデートしよう」


「はいっ……! 嬉しいです、ご主人様!」


 月明かりの下、僕らは静かに笑い合う。だがその行く手には、王国の誇る鉄壁の海軍と、何やら不穏な「人魚」の影が待ち受けていた。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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