第34話 組織拡大へ
僕らに踏み込まれ、違法な奴隷売買について白状し始めたサラトガ伯爵(50)の話は、正直に言って予想外だった。夜襲の緊張が一段落し、壊れた扉の前で即席の「事情聴取会」が始まっている。豪奢な屋敷の奥の間。絨毯の上には戦闘の痕跡が残り、壁には僕が叩き飛ばされた凹みがそのまま残っている。
そんな惨状の中で、伯爵は観念したように椅子へ腰を下ろし、深いため息を吐いた。
「元々、日本で弁護士をしていてな……不慮の事故で死んで、気が付いたら転生していた。もう20年以上前の話だ」
伯爵の語り口は落ち着いていて、言い訳じみた焦りも、保身の色も薄い。それが逆に、話の信憑性を高めていた。
「チートガチャで『現代日本から生活用品などをお取り寄せできるアイテムボックス』を貰った。最初はスーパーの生活用品を売り歩いて、小銭を稼いでいただけだ」
スーパー。その単語を聞いた瞬間、僕の頭に「日本食のグルメが無双する光景」がフラッシュバックする。異世界に来てまで、地味に強いチートだ。
「やがて法知識と人格を買われてな。王国の官僚になり、子供のいなかった伯爵家に養子に入った」
淡々と語るが、その裏には相当な苦労があったはずだ。転生者としての優位性と、異世界の貴族社会の理不尽。その板挟み。
「法務官として違法奴隷問題に直面したが……上位貴族の圧力が凄まじかった」
そこで、伯爵は苦く笑った。
「正義を通せば失脚。下手をすれば事故死だ。だから……せめて私財を投げうって、一人でも多くの獣人を救おうと、買い取るしかなかった」
屋敷に侍る獣人たちへ、ちらりと視線を向ける。
「買い取った獣人は領地の荘園で働いてもらい、この屋敷には選りすぐりの可愛い子をメイドとして置いている」
……いや、言い方。だが、その言葉に嫌悪や怯えの反応はなかった。むしろ、誇らしげな空気すらある。
この世界における獣人の立ち位置は、どうやら地球で言うところの「大航海時代の黒人奴隷」に近いらしい。アストラリア王国から大海を隔てた先、通称「魔大陸」。そこには数多の部族国家が存在し、獣人や人間や亜人が入り混じって暮らし、獣人はその中でも特に武勇に秀でた種族だという。
――つまり。テンプレ異世界でよくある「虐げられ、救われ、主人公に惚れて従う」あの構図が、そもそも成立しない。サラトガ伯爵を守るように仁王立ちするトラ子さんは、卑屈さの欠片もなく、鋭い目で僕を睨んでいる。そこにあるのは、従属ではない。完全に「仲間を守る戦士」の顔だ。……なんだこれ。獣人テンプレ、完全に破壊されてない?
***
「どうしよう? この人、日本人の先輩転生者だしなぁ」僕は頭を掻きながら言った。「協議! 協議だぁ」 自然と円陣が組まれる。僕、イリス、ユリシア、アシュレイ、ノワール。夜襲の余韻が残る屋敷の中で、妙にのんきな作戦会議が始まった。
――数分後。喧々諤々の末、結論はひとつ。「この有用な先輩を、仲間に引き入れる」満場一致だった。僕は一歩前に出て、サラトガ伯爵に向き直る。
「僕の名前は闇の勇者アズマだ。……今日から、僕の仲間になってもらいます!」
「突然だな、おい!」伯爵は椅子ごと後ろにずっこけた。
「僕もこの世界に転生したのはいいけれど、チートガチャでは大外れを掴まされ、気が付けば闇の女神の勇者になってます。よろしくお願いします」
「君が例のダークエルフを引き取ったっていうアズマくんか。まあ、一度会って話をしようとは思ってたけどな」
「そうなんですよ! 僕を騙してイリスを売りつけた奴隷商……あいつは先日ぶった斬ってきました!」
「斬った? 昨日会ったけど? ピンピンしてたよ?」
僕はニヤリと笑う。
「ふふふ……あいつ、アンデッドにして僕の部下にしてるんです。なのでもう獣人を攫うのは止めさせました」
「凄いな。どうりで雰囲気が違うと思ったよ。今まで私に売った奴隷の安否とか聞いてくるから、おかしいとは思ってたけど」
「可哀そうな獣人さんがいたら、魔大陸へ送り返してあげたいと思いまして」
その瞬間だった。獣人メイドたちの表情が、ぱっと明るくなる。希望が灯った顔だ。
「……その話は本当なのか?」トラ子さんが、信じられないものを見る目で僕を見た。
「ええ。いずれですが」僕は真っ直ぐに言う。
「僕はこの世界をぶっ潰して、イリスと堂々と……誰にも後ろ指をさされず『いちゃラブ』出来る世界を作りたいんです」
一瞬、沈黙。
次の瞬間――「おおぉーアズマくん! 君は凄いな!」サラトガ伯爵が立ち上がり、感極まったように叫んだ。
「私もそうなんだ! トラ子は私の娘でな。亡き妻は獣人だ」
「そうなんですか!?」思わず声が裏返る。
「僕より先に歪んだ性癖を具現化した先輩として尊敬します!」
「いやぁーそれほどでも……って、褒めてる?」
「褒めてますよー」
「まあいいけどな」伯爵は苦笑し、少しだけ真剣な顔になる。
「私も今のままじゃ先行きが不安だった。……家族と獣人メイドたちと、いずれ魔大陸へ渡りたい。その条件で、協力させてくれ」
「もちろんです」僕は即答した。
そのやり取りを聞いて仁王立ちしていたトラ子さんが、僕に急接近してくる。
「闇の勇者アズマ……お前は私たち獣人をどう思ってるんだ?私はパパの娘なのにこの国だと一生奴隷の身分。ダークエルフと同じ嫌われ者だ」
「僕は獣人だから亜人だからって差別するような世界は嫌いだ。あと、獣人の子は結構タイプです」
それを聞いた彼女は身体をフルフルと震わせると、怖い顔から一転して満面の笑顔で抱きついてきた。
「きゃあー可愛いー!パパ!私この子とお友達になりたいー!いいでしょ?」
娘の豹変に顔をしかめる伯爵だったが、しぶしぶ承諾する。「色々と複雑な気持ちだが……善良な日本人そうだし大丈夫かな?アズマくん、娘をよろしく頼むよ」
「戦力!戦力としてお引き受けしますー」僕はトラ子さんの爆乳の谷間で鼻血を出しながら叫ぶのだった。「獣人のぱふぱふ……しゅごい……ガクッ」
「ああぁーご主人様~!!!」「アズマくんしっかりしてー」「ダメよ♡良一郎様ぁー」「マスター……免疫なさすぎです」
こうして、僕の「闇のネットワーク」に、『王国法務官の権力』『現代日本の物資チート』そして『善良な(?)ど変態転生者と最強クラスの獣人戦力』という、あまりにも歪で、しかし頼もしすぎるピースが加わったのだった。
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