第32話 ショタ一郎が斬る!
王都郊外、深夜の静寂に包まれた高級別荘。その一室で、ついに戦いの火ぶたが切られた。僕は愛馬である幽霊馬から飛び降りると、背中の魔剣『マンイーター』をすらりと引き抜く。10歳の身体には重すぎるはずの剣が、今は羽のように軽い。
夜気は冷たく澄み、磨き上げられた床に月光が淡く反射している。ここが貴族の安寧の象徴であるほど、これから始まる暴力との落差が際立っていた。心臓の鼓動がやけに大きく感じられる。
「はああぁっ!」 襲い掛かってくる屈強なボディガードの脳天を、あえて刃を立てず、魔剣の平で思い切り叩き伏せる。剣を振るった瞬間、手応えとは別の“吸われる感覚”が指先を走り、背筋がぞくりと粟立った。
バコーン! 「ぐはぁーっ!?」
叩かれた相手は、斬られてはいない。だが、接触した瞬間、魔剣の呪いが相手の生命力を根こそぎ貪り喰らう。屈強だった男の顔が瞬時に土色に変わり、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。魔界の上級悪魔グレーターデーモンが鍛え上げたという、対人特化の魔剣。人間相手に使うと、恐ろしいほどに強い。魔剣が微かに震え、まるで満腹を喜ぶ獣のように存在感を主張してくる。
「峰打ち! 峰打ち! 峰打ちだぁーー!!」僕は快感すら覚えながら、次々と向かってくる敵を物理と呪いで無力化していく。恐怖よりも昂揚が勝ち始めている自分に、薄々気づきながらも、もう止まる気はなかった。
右隣では、忍者装束に身を包んだイリスが、ディスフィア様直伝(?)の邪神パンチとキックで敵を文字通り「消し飛ばして」いた。黒い影のような彼女の動きは、音もなく、しかし猛烈な破壊力を秘めている。左隣のユリシアも、同じく忍者装束でプチ爆弾魔法を量産し、敵の足元にばら撒く。ドカンドカンと小規模な爆発が連鎖し、精鋭たちは慌てふためき、火花と煙の中でのたうち回っていた。統率の取れた防衛網は、もはや原形を留めていない。
「……残るは、あんたたちだけだ」家臣やガードマンをすべて掃除し終え、僕は魔剣を低く構えてゆっくりと歩を進める。 「悪党どもめ! 許さないぞ!」一歩進むごとに、相手の呼吸が乱れていくのが分かる。
重低音のドラゴンボイスに、ネブラスカ侯爵は顔を引きつらせながらも開き直った。「貴様~、名を名乗れ!」
僕は堂々と名乗る。「桃から生まれた桃太郎!」・・・ウケないなぁ。(すまん)
「桃ってなに? それはともかく、我ら貴族に盾突くとはいい度胸だ。……このわしに手を出して、タダで済むと思っているのか!」
この期に及んでまだ地位や名誉をひけらかす男を見て、僕は心の底から哀れに思った。一瞬、命だけは助けてやろうかと迷い、魔剣をわずかに下ろした。その刹那――。
「死ねぇい!」侯爵が隠し持っていた魔法剣を抜き放ち、僕の首を狙って斬りかかってきた。光の加護が刻まれた業物が、青白い軌跡を描く。だが、僕の身体は思考よりも速く、反射的に動いていた。
ズバーーーン!! 「ぎゃあぁぁぁー!」 判断は一瞬、だが結果は取り返しがつかない。
魔剣の黒い閃光が、侯爵の身体を真っ向から両断する。斬った瞬間、相手の生命エネルギーが魔剣を通じて、濁流のように僕の身体へと流れ込んできた。脳が痺れるほどの、とてつもない快感が胸を突き抜ける。理性が溶け、感覚だけが支配する。
「愚かな……。成敗!……って、まだ斬るつもりじゃなかったのにー思わず斬っちゃったようー」(涙)
「ご主人様、ナイスふぁいとです!」
そして僕は、ガタガタと震える悪徳商人に矛先を向けた。その脂ぎった顔を間近で見た瞬間、僕とイリスは同時に顔を見合わせた。嫌な記憶が、一気に蘇る。
「あ! こいつ……僕にイリスを売った、あの時の奴隷商じゃん!」
「ご主人様! この男……私が売れ残ってるからって、ご飯をくれなかったり、セクハラしてきたり……思い出すだけでも辛いですぅー!」
……。うん。僕の可愛いイリスをいじめていた奴なんて、問答無用で斬ってヨシ!
「貴様も成敗!!」 ズバァーンンン!!!
「うぎゃああぁぁぁぁ!!」
躊躇も遠慮も、一欠片の慈悲もなかった。大上段から振り下ろされた魔剣は、悪徳商人を文字通り縦一文字にぶった斬った。 室内を鮮血が舞う。魔剣は久々のご馳走に満足げに震え、再び僕の身体に力強いパワーが注入される感覚があった。
***
戦闘終了後の現場は、まさに「プロの仕事」だった。血と破壊に満ちていた空間は、驚くほど迅速に“なかったこと”へと書き換えられていく。絶命した二人を、ノワールが自らの血を分け与えることで、レッサーバンパイア(下級吸血鬼)として即座に蘇生させる。
その間、昏睡していたボディガードや家臣たちには、闇の治癒魔法で回復させ、バンパイア特有の催眠術で「今夜の記憶」を丁寧に書き換えていく。さらにアシュレイの生活魔法による高速清掃と、壊れた調度品の復元魔法により、激闘の痕跡は完全に消滅した。
数分後、そこには何事もなかったかのように、ワインを酌み交わす侯爵と商人の姿があった。ただし、その瞳には僕への「絶対忠誠」が刻まれている。
「アズマ様……我らに、何なりとお命じください」二人が跪く。僕は、アシュレイさんとあらかじめ練っておいた「事後処理オーダー」を次々に指示した。
やがて二人は、まるで良心に目覚めたかのように和やかに商談を終え、粛々と解散した。その頃、僕らはすでに夜の闇に消えていた。誰にも知られず、だが確実に世界を動かして。
「ふふふ。あの侯爵には、孤児院の待遇を最高レベルにして、さらに私財を支援するように命じたよ」
「ああぁーん♡ さすが良一郎様ですわ! しびれますわ!」
「隠し財産も匿名で慈善事業に寄付させたし、仲間の変態貴族どもの名前も全部吐かせた。近々、そいつらも順番に『成敗』しに行こうかな」
「アズマくん、奴隷商の方も抜かりはないわね?」
「ええ、違法な密輸は即刻中止。今抱えている傷病者の奴隷を全員手厚く保護して救済するように命じたよ。……拒否権はないからね」
「よかったですぅー! そのままだったら死んだり捨てられたりする子もいたはずですぅ!」
「裏の組織も全部吐かせたからね。……次、斬る相手には困らないよ」
「面倒だったら、まとめて爆破しますけれど?」
「まあまあユリシア、それじゃ面白くないわ。やはりアンデッド化で、じわじわと支配圏を拡げていくのが醍醐味よ」
(すっかりアシュレイさんも僕らの仲間――というか、こっち側の人間だなぁ……)
「諜報騎士団の監視を潜り抜けるのはお任せを。あいつらが正体を悟られないよう、わたくしが完璧にサポートいたします」
「ノワール、頼むよ」甲冑姿の暗黒騎士が重厚な声で言うのだった。
***
館に帰宅し、漆黒の魔法鎧を脱ぎ去る。そこに現れたのは、懐かしき17歳の僕の顔だった。若返りの呪いに対して、魔剣が喰らった命の力が作用し、強制的に加齢へと舵を切り戻したのだ。
魔剣に寿命を吸われすぎないよう、これからも注意は必要だが……。正直に言って、悪を成敗するのは気持ちよかった。魔剣の飢えを満たす意味でも、僕の中の「悪魔回路」を解放する意味でも――。
「また斬ろう……。うん」
鏡に映る自分に、僕は不敵な笑みを浮かべていた。
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