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第31話 謎の処刑騎士現る

 翌日、拠点の館にて。ノワールがこれ以上ないほどの満面の笑みを浮かべ、僕に報告を持ってきた。


「マスター! 実に食いでのある、いい『クズ』がおりました」


「へぇー、どんな人なの?」  


 僕は10歳の子供の姿で、高い椅子に座って足をぶらぶらさせながら聞き返す。視界が低くなったせいで、ノワールを見上げる形になるのが少し落ち着かない。


 僕の小さな体に対して、ノワールの冷静かつ獰猛な目線が余計に威圧感を増す。子供の姿の僕には、彼女の存在感がまるで全身を覆う影のように重く、ぞくりと背筋が震える。


「このアストラリア王国の大貴族、ネブラスカ侯爵です。こいつが王都の色々な悪徳商人と結託して、立場を利用し、私腹を肥やしてます」


「うーん……私腹を肥やしてる程度じゃ、斬り殺すまではできないかもなぁ~」 現代日本人としての倫理観が残る僕は、まだどこか踏ん切りがつかない。


 そこへ、イリスが背後から僕の肩を揉みながら、耳元で囁くように励ます。「ご主人様~、民の血税を啜って肥え太る貴族なんて、斬られて当然の輩ですよー! むしろ社会の掃除ですぅ!」


「そうは言っても、僕らも闇取引や脱税で儲けてるし……」僕が自分たちの棚上げ具合に苦笑いしていると、ノワールが眼鏡の奥の瞳に、獲物を定める蛇のような冷酷な光を宿して付け加えた。


「マスター、ご安心ください。こいつも『同業者』ならまだマシだったのですが……他にも色々と悪い事ばかりやってるんです。慈善事業に見せかけて孤児院を経営してるんですが、そこの子供たちを闇ルートで奴隷商人に売り渡したり、逆に攫った外国の子供たちを輸入して、性癖の歪んだ変態貴族に売り渡したり……もう、反吐が出るクズっぷりです」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の心の中の「良心回路」が怒りで沸騰した。熱く、血が沸き上がるような感覚が胸を打つ。「なんだって? ……そんな輩は、生かしておいちゃいけない……かなぁ?」


「良一郎様! そいつは貴族の風上にもおけませんわ。官憲が手を出せない相手なら尚更です。……わたくしの魔法で、塵一つ残さず成敗いたしましょう!」ユリシアが杖をギュッと握りしめ、青白い炎のような魔力をパチパチと漏らす。


 杖先から漏れる光は、まるで小さな雷のように館の空気を震わせる。光が指先から溢れ、僕の胸の奥に「正義を行う力」が染み渡るのを感じた。


「はいはーい、アズマくんの処刑人コスチューム一式は用意しておいたわ。飛び切りの奴をね」アシュレイがウィンクしながら、何やら巨大な、重々しい金属音のする荷物を運んでくる。


「ノワールちゃん、いつ襲うのがいいかしら?」


「そうですね……早くて今夜にも、また大規模な奴隷売買の取引があるみたいです。場所もちょうどいい具合に王都の喧騒を離れた、奴隷商人の別荘。……絶好の処刑日和ですよ」


「わかったよ。斬る斬らないは現場の状況で判断するとして、そんな悪党に苦しめられる人や子供たちがいるなら見過ごせないな。みんな! 手伝ってくれるかな?」


「「「「おおっ!!」」」」


 アシュレイが軍師のような手際で、面白がるようにテキパキと差配を始める。「アズマくんはこれから衣装合わせを。……ふふ、ちょっと大きいけど可愛いわよ。イリスとユリシアはアズマくんの従者として現場のサポートをお願いするわ。二人のコスチュームもバッチリ準備してるから。私とノワールは裏方ね。忍び込む準備や、事後の後始末とかやりましょう。では、取り掛かるわよ!」


 こうして、僕ら一行は「初の獲物」を仕留めるべく、闇に紛れて動き出したのだった。


***


 その日の夜。王都の外れ、深い森に囲まれた豪商の別荘に、一台の豪奢な馬車が到着した。現れたのは、王国でも指折りの大貴族、ネブラスカ侯爵。脂ぎった、いかにも「腐敗」という言葉が似合う風貌。過剰な装飾に彩られた金糸銀糸の衣服が、かえってその卑しさを引き立てている。


 侯爵はこの別荘で、館の主人である豪商と密談をするらしい。極秘の取引なのか、周囲を固める護衛は少数精鋭。お供や接待も最小限だ。……僕らにとっては、願ったり叶ったりの状況である。侯爵と商人の二人は、奥の間の一室でヴィンテージのワインを傾けながら、下卑た顔で密談を開始した。


 しかし、彼らが会話を深める前に、別荘のすべては僕らによって支配されていた。アシュレイさんが放った広範囲状態異常魔法『スリープ』。無色無香の眠りの霧が建物全体を包み込み、屈強な護衛も、給仕のスタッフも、吸い込まれるように深い昏睡状態に陥っていく。


 静まり返った館内。忍び込んだ僕とイリス、ユリシアは、壁越しに悪党たちの醜い会話を耳にする。


「ネブラスカ様……例の入札の件、何卒宜しくお願い致します」


「ふふっ、まあ私に任せておけ。それより、例の物を頼むぞ。……『鮮度』の良いやつをな


「お任せください。若く健康で見栄えの良い少年少女を、近日中に必ずお届けに上がります」


「ふむ、それだけか?」


「いえいえ、それだけではございません。こちらもお納め下さい」


 商人が奥の金庫から、ずっしりと重い宝石の詰まった革袋を取り出し、テーブルに並べる。カチカチと宝石同士が擦れ合う音が、彼らの強欲さを象徴している。


「お主もワルよのう……」


「いえいえ、侯爵様にはかないません」


 部屋に下卑た高笑いが響き渡る。……その時だった。どこからともなく、地響きのような、不気味な馬蹄の音が建物の中に響き渡る。


 バァーン!!


 豪快な音を立てて扉が木っ端微塵に粉砕された。そこに飛び込んできたのは、漆黒の息を吐き出す幽霊馬に跨り、禍々しい魔剣を背負った、漆黒のフルプレートアーマー騎士。その姿は先日、僕が倒したSランクモンスター、デュラハン(首なし騎士)そのものであった。中身を失って床に転がっていた甲冑をアシュレイが回収し、霧散した幽霊馬をノワールの闇の力で再構築したのだ。


 中身は10歳の僕なので、サイズは本来ぶかぶかのはずだが、霊的なパワーを秘めたこの鎧は、昆虫の外骨格のように僕の動きに連動して機能している。顔は完全にバイザーで覆われ、隙間からは青白い魔力の光が炎のように漏れる。見た目は不気味で、そして……自分で言うのもなんだが、めちゃくちゃカッコいい。僕は仮面の下から、魔法的に増幅され、聴く者の魂を震わせる『ドラゴンボイス』で吠えた。


「貴様らの悪事も、それまでだ!」


 謎の騎士の乱入に、侯爵と商人は泡を食って椅子から転げ落ちる。 「ひいっ!? 者ども! 出あえ、出あえい!」 「こ、この侵入者を始末しろ! 殺せ!」侯爵たちが悲鳴を上げると、隣室で待機していた、眠りの霧を運良く逃れていた少数精鋭の部下たちが、わらわらと武器を手に現れた。


 だが、僕も一人ではない。背後から、漆黒のジャパニーズ忍者装束に身を包んだイリスとユリシアが、音もなく影から躍り出る。「イリさん! ユリさん! ……やってやりなさい!」僕の重低音ボイスに、二人が無言で深く頷く。


 胸の高鳴りと、緊張が交錯する。夜の闇と館の静寂が、血塗られた世直しの舞台に完璧な劇場を作り上げていた。 さあ――血塗られた世直しの、戦闘開始だ!!

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


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