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第29話 魔剣の正体

 翌日、命からがらダンジョンを脱出して帰宅した僕ら一行。イリスの部屋で、僕の「緊急余命対策会議」が開かれることになった。闇の女神ディスフィア様は、屋外でもイリスを介して呼び出せるが、活動時間は限られる。やはり祭壇などの整った拠点が、女神にとっても降臨しやすいらしい。


 窓の外には冬の淡い光が差し込み、灰色の影が部屋の隅に落ちる。僕の心はまだ、昨日の戦闘の緊張でざわついていた。イリスが議長となり、恒例の邪神会議が始まった。


「ご主人様並びに皆さん、昨日はお疲れ様でした。それではこれより、ご主人様の『延命対策』について議論を開始します」


 ぱちぱちと、葬儀場のような湿っぽいまばらな拍手が起こる。僕はといえば、一晩でさらに老け込んでいた。真っ白になった髪を振り乱し、椅子に深く腰掛けて手足を投げ出す。その姿は、真っ白な灰になったボクシング漫画の主人公そのものだ。

 

「ふふっ……燃え尽きちまったぜ……真っ白にな……」


「もうー! 縁起でもないこと言わないでくださいよぅ! まだ望みはあるはずです!」


 イリスが半泣きで僕を揺さぶったその時、彼女の瞳が赤くきらーんと光った。


《ええい、騒々しいのう。何をやっとるんじゃ、おぬしらは》


 闇の女神、降臨。その威厳ある声に、ユリシアがすかさず縋り付いた。


「ディスフィア様~! どうか良一郎様をお助けくださいませー!」


「アズマくんはうちのリーダーなんです。彼が消えたらパーティーは瓦解します。お力添えを!」


 アシュレイも真剣な面持ちで訴える。部屋の空気は一瞬にして張り詰め、窓際の観葉植物の葉すら震えているように見える。


 ……ノワールだけは「まあ、最悪死んでもわたくしがアンデッド化させますから、なんとかなりますよね?」と相変わらず呑気だが、その冷静さが妙に頼もしい。


《一応モニタリングはしておったが、こうなるとは思わなかったのう。アシュレイよ、原因は何だと思う?》


「はい。やはりこの『魔剣』が鍵だと思われます。鑑定眼でも正体が見えません」


「でも、光の女神の手の者が、そんな危険なアイテムを渡すものでしょうか?」


 ユリシアの疑問に、女神は《どれどれ》とイリスの手を借りて魔剣に触れた。魔剣からは黒い霧のような力が立ち上り、部屋の空気をひんやりと染める。


《アシュレイよ、わしの魔力を貸してやる。もう一度鑑定してみよ》


 二人の魔力が重なり、魔剣がドス黒い輝きを放つ。その結果を見たアシュレイが、驚愕に目を見開いた。僕の心臓は高鳴り、汗が額を伝う。何が起こるのか、息を止めて見守るしかなかった。


「ええぇー……これは!? なるほど、そういうことでしたのね……」


「ア、アシュレイさん!? 一体何なんです、僕の魔剣は!」


「……みんな驚かないで。この魔剣の正体は『マンイーター(人喰い魔剣)』よ」


「「マンイーター!?」」


「それって……対人特効、人間殺しの異名を持つ上級悪魔が所有する武器じゃありませんの?」


 ユリシアの叫びに、僕は椅子から転げ落ちそうになった。そんなヤバいものを僕はガチャで引いていたのか!?部屋の空気が一瞬にして重く張り詰め、心拍が耳で鳴る。


《そうみたいじゃな。良一郎よ、この魔剣は当たりではない。むしろ『大外れ』……おみくじで言うなら『大大凶』といったところじゃな》


「そんな……転生の女神様は、そんな危険物を配ってるんですか!?」


《奴らにとって転生者なんぞ『遊び』みたいなもんじゃ。使いこなせればヨシ、使いこなせずに死んでも気に留めぬ程度よ》


 アシュレイが深刻な顔で魔剣の刀身を指でなぞる。黒光りする刃の表面に、まるで意思が宿っているかのような不気味さを感じた。


「この魔剣、人間の血肉や精気を喰うのがエネルギー源みたい。でもアズマくんは優しいから、今まで人間を殺さなかった。……だから、魔剣は代わりに『持ち主の寿命』を吸っていたのね」


「急成長して魔剣の出力が上がった分、消費される寿命も増大した……。そういうことですわね」


「ディスフィア様……どうします、これ?」


 いよいよ寿命の原因が判明したが、解決策がない。僕は床に崩れ落ち、子供のように泣き叫んだ。髪の白さ以上に、恐怖が心の奥底を凍らせる。


「いやだぁー! あと一ヶ月で死ぬなんて! 何のために転生したんだよぉー!」


《ええい、少しは落ち着かんか! わしがお前のような面白い玩具を、そう簡単に死なせるかよ》


「ディスフィア様~! なにとぞ、なにとぞご主人様を!」


《わかったわかった。アシュレイ、ユリシア、こっちへ来い。対策を協議するぞ》


「あの……僕は?」


《魔法も呪いも無学のお前は話にならん。ノワールとお茶でも飲んで待っておれ!》


 部屋の隅でノワールが微笑みながら湯を注ぐ音だけが響く。恐怖と緊張が入り混じる中、僕は少しだけ安堵した。


***


 それから数時間。ノワールが淹れてくれたお茶を十杯は飲み干した頃、ようやく結論が出た。  僕は再びディスフィアイリスの前に跪く。


《それではこれより、『寿命反転の呪い』を施す。良一郎よ、これによってお主は、日々『若返る』ことになる》


「若返る!? そんな人類の夢みたいな呪いがあるんですか?」


「落ち着いてくださいませ。どんどん若返れば、やがて幼児になり、赤子になって消滅しますのよ」


 (……え、怖っ)


「理論上は、死に向かっていた寿命のベクトルを180度捻じ曲げることになります。呪いが発動している間は『老死』することはありません」


《ただし、若返りすぎないよう、今後も魔剣をどしどし使って適度に寿命を喰らわせねばならん。魔剣が寿命を喰うスピードと、呪いで若返るスピードを拮抗させるのじゃ》


 僕は呆然とした。


「待ってください。それって……死なないためにも、消えないためにも、僕は一生この『人喰い剣』を振り続けなきゃいけないってことですか?」


《まあ、そうなるな。頑張れ。リミッターはかけておいてやるが、常に綱渡りじゃぞ》


「ご主人様! 凄い僥倖ですよぅー! これでご主人様は実質的な『不老状態』になったのです!」


 イリスは喜んでいるが、僕はなんだか「ブラック企業への永久就職」が決まったような複雑な気分だった。


***


 その後、儀式によって僕の髪の色は元に戻った。安心した僕は泥のように眠り、翌朝、小鳥のさえずりで目を覚ましたのだが……。


「……? あれ、視界が低い? あと、パジャマがブカブカだぞ?」


 鏡の前に立った僕は、驚愕のあまり絶叫しそうになった。そこには、どう見ても10歳くらいの、くりくりした目の美少年が立っていたのだ。


「ちょ、若返りすぎじゃない!? ディスフィア様ぁー!!」


 僕の悲鳴を聞きつけて、リビングからお姉さんたちがドタドタと駆け込んできた。


「「「きゃあぁぁぁーーー!! なになに!? この子、超可愛いんだけど!!!」」」


 イリス、ユリシア、アシュレイ、さらにはノワールまでもが、目をハートにして僕に群がってくる。 ……昨日までの「余命一ヶ月」の恐怖が吹き飛ぶほど、別の意味で命の危険を感じる朝だった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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