第27話 快進撃! 闇の勇者たち
王国諜報部の監視の目は、実に見事に逸らされていた。ノワールの送った「意外に大したことなさそう」「いつでも始末できる」という虚偽報告は、王国側に致命的な安心感――という名の「慢心」を与えたのだ。部屋の隅で緊張感なく指示書をめくる騎士団長の背中には、まさかノワールが裏で完全に掌握されているとは思いもよらない安心と慢心があった。
そして、自らの切り札に絶対の自信を持つ諜報騎士団長ヒデオ・イノカワは、執務室で鼻歌を歌いながら新コスチュームの図案を広げていた。
「ふふふ……。次は、わが祖父(初代転生者)が最も愛してやまなかった『体操服&ブルマ』で行こうじゃないか。……『あ』よ!」
「はっ、ここに」呼び出されたミランダの前に、イノカワは自信満々に一枚のスケッチを突き出す。
「このデザインのコスチュームを直ちに作成し、光の加護の術式を組み込むのだ!」
「……。…………はっ、直ちに着手します」
ミランダは絶句した。指先が震える。これは単なる衣装作成ではない、悪夢のような儀式に似た依頼だった。その手に握られた図面には、現代日本の学校教育から消え去ったはずの、あまりに食い込みの激しい紺色の布地が描かれている。
(……うわぁ、何これ。食い込みが物理法則を無視してる。最悪。よかったー、これを着ろって言われるのが私じゃなくて本当によかった……)
「『あ』よ……何か言ったか?」
「いえ! 素晴らしい、時代を先取りしたハイセンスなデザインだなぁーと!」
「ハハハハハ! やはりお前には分かるか! 伝統と機能美の融合だからな!」
高笑いする上司の背中を見ながら、ミランダは心の中で、イノカワの秘密兵器である「わ」に対して、かつてないほどの深い同情と「合掌」を捧げるのだった。心臓の奥がちくりと痛む。これが、彼女が背負う運命か……。
***
その一方で、僕らアズマパーティーは破竹の勢いで快進撃を続けていた。ただし、表向きは「そこそこ」の活躍に留めている。【キメラボディ改】という強靭(で、中身が闇属性な)肉体を得て、魔剣の切れ味が一段と冴え渡る僕は、冒険者ランクをAにアップさせていた。身体能力と反射神経が跳ね上がった感覚は、前よりも確実に自分を強く感じさせ、思わず拳を握りしめた。
イリスも僕のオプション扱いでAランク。実際はSSランク以上の邪神パワーを秘めているが、彼女は「ご主人様の隣にいられれば満足ですぅー」とニコニコして僕の腕にしがみついている。その笑顔は戦場でさえも安心をもたらす。
爆弾令嬢ユリシアさんは、EランクからDランクへ。
「何ですのこの評価は! 街一つ消せるわたくしが、なぜ新兵扱いなんですの!?」
「ユリシアさん、落ち着いて。君の場合、魔物より周囲の地形を消しちゃうからだよ……」
不満たらたらな彼女だが、成果よりも「被害総額」の方が大きいため、ギルド側も慎重なのだ。
そしてパーティーの実質的なリーダー、元Sランクパーティーの屋台骨だったアシュレイさんは、当然のSランク。彼女の完璧な采配がなければ、僕らはとっくに路頭に迷うか、ギルドを爆破して指名手配されていたことだろう。
最後にノワール。彼女は騎士団の調整が入っているらしくBランク登録だ。だがその実態は、世界最強クラスの不死者。物理無効の身体に桁違いの魔法耐性を備えた、まさに「歩く装甲板」である。
僕らはクエストの成果を冒険者ギルドには過少報告し、余った換金アイテムを闇の商会に流すという、脱税全開のグレーな手法で荒稼ぎしていた。金貨の山の反射光が、薄暗いダンジョンの奥までギラギラと照らし出す。僕はその光景に圧倒されつつも、どこか遠い目をしてしまう。
「僕……この世界に何をしに来たんだろう」
「ご主人様~、黄昏れるにはまだ早いですよー。どんどん行きましょう~!」
イリスはなぜかチアガール衣装に着替え、ポンポンを振りながら応援してくれるのだった。その微笑ましい光景は、恐怖と快進撃の間で揺れる僕の心を和らげる。
***
場所はとあるダンジョンの最深部。ギルド発注のクエストをわずか半日で片付けた僕らは、その勢いのままレベリング(経験値稼ぎ)に勤しんでいた。ディスフィア様の「魔物ブースト」が掛かったこの場所は、まさに地獄絵図。無数の魔物が群れ、岩や樹木までが戦場の障害物と化している。だが、今の僕らは以前とは違う。緊張感と期待が入り混じる中、僕の魔剣は全身の意志と一体化していた。
「アズマくん、能力向上バフを掛けたから頑張って♡ はい、愛情注入(物理的な魔力流出)!」
「マスター! 私が盾になります。ズバズバ斬り倒してください!」
アシュレイの放つ桃色の魔力と、ノワールの鉄壁の防御。襲い掛かってくる無限の魔物に対し、僕は魔剣と完全にシンクロしていた。剣が空気を裂く音、魔力が炸裂する閃光、仲間たちの掛け声――戦場全体が呼吸するように生きているかのようだった。
――ズバッ! ビシッ! バキッ! ズバーン!
こん棒を振るうボブゴブリンを両断し、手槍を繰り出すリザードマンを斬り上げ、剣と盾で武装しているスケルトンをバラバラにし、巨体を震わすゴーレムの腕をバターのように削ぎ落とす。魔剣を振るう度に、僕は自分の全身に快感と恐怖が同居するのを感じていた。
「ええぇー……なんか僕、強くない? カッコよくない!?」
敵の攻撃が緩んだ隙に、僕はちょっとドヤ顔で後ろを振り返った。
「ご主人様~カッコいいですぅー!」
「あん♡良一郎様、素敵ですわ~」
「バフのおかわり、まだまだあるからねー!」
「マスター、わたくしが敵を適度に弱らせて(HP一桁まで削って)から回してますので。どんどん倒しちゃってください!」
……あ、やっぱり「完全介護レベリング」だった。ノワールが超神速で敵をボコボコにし、最後の一撃だけを僕に譲ってくれているのだ。けれど今はただ経験値を積んで強くなろう。強くなくっちゃ、この愉快でカオスな仲間たちを護れない。
その時、ダンジョンの空気が凍りついた。奥から現れたのは、幽霊馬に跨り、自分の首を小脇に抱えたSランクモンスター――デュラハン(首なし騎士)だ。暗黒の鎧が不気味に光り、漂う死の気配に息を止める。デュラハンは人馬一体のランスアタックを仕掛けてくる。ギリギリで避けるが馬上槍が掠めるだけで僕の頬から鮮血が飛び散る!
「うおぉぉー!? アンデッドの最上位クラスじゃん! 強いよこいつ、えーん、勝てる気がしないようー!」
「ご主人様! アンデッドに殺された場合は、蘇生に必要な血肉の供給(吸収)がありませんから、死亡はNGですよぅー!」
「いやいや、イリスぅー僕が死ぬ前提でアドバイスしないで! 怖いから!」
「頑張って!良一郎様!私たちが付いてますわ!」
ユリシアが杖を構えて爆発の術式を練り、アシュレイが僕に更なる重層強化魔法を唱える。ノワールは光のレイピアを鋭く突き出した。
「そうだ……僕はもう、一人じゃない!」
恐怖を魔剣の重みに変えて、僕は黒い霧を纏ったデュラハンへと地を蹴った。背後の仲間たちの存在を意識しつつ、心臓が跳ねるたびに、剣の感触が指先に吸い込まれていく。戦場全体が、僕らの快進撃を祝福しているかのように、熱気と魔力の奔流で満ちていた。
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