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第24話 蘇るゴスロリ

 さっきまで和気あいあいと(?)宴会をしていた新メンバーが、リビングで突如として牙を剥いた。

 笑い声と酒の匂いが残る空間が、一瞬で殺意に塗り替えられる。その落差に、脳が現実を拒絶する。裏切りを予測できなかった自分の甘さを呪う暇すらない。


 あまりに急な裏切り。幸せな酔いも一瞬で冷める展開に、僕らの態勢は一歩遅れる。だが、そこは僕の相棒、ご都合主義の魔剣だ。僕の驚異的な反射神経――という名の、パニックによる全身の痙攣が、ノワールの放つ光のレイピアを寸前で受け流した。


「くっ……痛いっ! 痛いぞ、このーっ!」


 火花が散り、キィィンと高い音が鼓膜を刺す。当たってはいない。だが、至近距離を掠めるだけで、肌を焼くような灼熱の痛みが走った。光そのものが刃になっている。そう直感した瞬間、背筋に冷たいものが流れた。背後で、戦闘態勢に入ったイリスが悲鳴のような声を上げた。


「ご主人様、気を付けて! もう貴方の身体は闇属性になっちゃってますから!」


「……え? そんな……僕は転生者で『中立』属性のはずじゃ!?」


 僕は叫びながら、必死にステップを踏んで追撃をかわす。頭では否定したいのに、身体は妙に剣と噛み合っている。この感覚が、答えなのだろう。愕然とする僕に、イリスはあまりに無慈悲な衝撃の事実を告げた。


「先日の蘇生にマンティコア(闇)を使いましたから! ご主人様はもう立派な闇の【キメラボディ改】なんですっ!」


「そんなー! 僕の清らかな属性を返せぇーー!!」


 僕らの(主に僕の)マヌケなやり取りを見て、ノワールが蔑むように口角を吊り上げ、スッと距離を詰めてくる。


「ちょうどいいわ。このレイピアは光の女神の加護……あぁ、反吐が出るほど清らかで、私にはお似合いだわ!」


 闇属性のはずのバンパイアが、白銀に輝く神器を手に襲い掛かってくる矛盾。眩いばかりの光の刃が、闇に染まった僕のキメラボディを情け容赦なく切り裂こうと空を舞った。


 そこへ、アシュレイの放った桃色の魔力が、オーラとなって僕らを包み込んだ。


「アズマくん! 私の愛情(物理的な魔力増幅)よ、受け取ってぇ♡」


「ううっ……愛情の形が物理的に重すぎる……っ!」


 心臓がバクバクと跳ね上がる。正直微妙な気持ちだが、背に腹は変えられない。爆上げされた身体能力を全開にして、ノワールの神速の剣技に食らいつく。


 さらにユリシアが爆発の魔力を杖に集め、イリスも闇の呪いを開始した。破壊魔法と闇の奔流が、逃げ場を塞ぐようにノワールへ殺到する。


 ――バチバチィッ!


「ふふふふふ! 私はバンパイアでも最上位の真祖。魔法耐性も桁違いなのよ。このゴスロリ服に施された聖なる結界も破れないわ!」


 ノワールは、スカートの裾を揺らし、高笑いしながら魔法を無効化していく。絶望的な実力差。彼女は優雅な足取りで、一歩ずつ僕を追い詰めてきた。


「一人ずつこの聖剣で屠ってあげる。覚悟しなさい」


「クソっ! なんて怪物だ……えーん! 勝てないよー!!」


 恐怖で涙目になった僕の視界が霞んでいく。


***


 その時だった、イリスの瞳が紅の宝石のように美しく輝く。その身に宿ったのは、この物語の元凶にして絶対的支配者――闇の女神ディスフィア様だ。


《ほほぅ、バンパイアか。闇の眷属がわしたちの敵に回るとは……面白いのう》


 イリスの口から漏れる、地を這うような重低音の神託。圧倒的な「神の威圧」に、ノワールの顔が、初めて恐怖で引き攣った。


「現れたな、闇の女神! 依り代のダークエルフごと、ここで葬り去ってやるわ!」


「……そうはさせない! イリスは僕が守る!」


 彼女は僕の大事な仲間だ! 奮い立たせた勇気とともに、再び火花を散らす魔剣と聖剣。


 だが、この戦いに終止符を打ったのは、やはり規格外の力を宿したイリス(神モード)だった。真っ赤に輝く瞳がノワールを「獲物」としてロックオンする。爆音と共に床を蹴り、一瞬でゼロ距離まで詰めると、常識外れの魔力を握る拳に凝縮させた。


「いっけぇーー! 邪神ぱーんち!!」


「ぐはぁっ!?」


 物理攻撃無効のはずのバンパイアの腹部が、メキメキと音を立てて凹む。光の結界を文字通り「粉砕」したその拳が、ノワールを紙屑のように壁まで吹き飛ばした。


《今じゃ、良一郎! ノワールの心臓を貫くのじゃ!》


「う、うわぁぁぁーー!!」


 僕は半狂乱のまま魔剣を構えて突撃する。壁にめり込み、朦朧としているノワールの心臓へ、魔剣の刃が吸い込まれていく。


どすぅー!!!


 魔剣一閃。ノワールの心臓に深々と突き刺さる。瞬時に身体が崩れ、灰へと変わっていく。彼女は薄れゆく意識の中で無念そうに唇を震わせた。


「馬鹿な……私を倒すなど……貴様ら、一体……何者……なんだ……」


 やがて言葉は途切れ、首もサラサラと灰になって崩れ去る。後に残ったのは、夜風の音と静寂だけだった。


「やった……のか?」「 一体、彼女は何だったんでしょうか……」


《王国の刺客かもな。……よし、真相はこいつに直接聞いてみよう》


***


 僕の名前は吾妻良一郎。今まで掃除当番は一度もサボったことがないナイスガイだ! ……というわけで、僕は女神様の指示により、夜のリビングで「ノワールだった灰」を必死にチリトリでかき集めるという、世にも奇妙な作業に従事していた。


「この灰、どうするんですか? 二度と復活しないように海に捨てるとか……」


《ふふふ、こいつ面白そうじゃ。復活させよう》


 女神様の不吉な提案に、僕、ユリシア、アシュレイの三人が「ヒッ」と声を揃えて後ずさる。


「いやいやいや、こんな怖い子ダメですよ! また起きた瞬間に斬りかかってくるかも!」


《待て待て。こいつは今、一度死んだ。魂を縛っていた王国の術式も、死によってガタガタの状態じゃ。たぶん支配権を上書きできるぞ》


 ユリシアが、恐る恐る灰を見つめて補足した。 「あん♡良一郎様……バンパイアは最初から死んでいる存在。血を与えれば、おそらくまた動き出すかと」


「そうですね……でも復活して敵になるか味方になるか……」アシュレイも不安げに呟く。


《良一郎よ、お主の血を与えてみよ。味方になるならヨシ、敵に回るなら――その時は今度こそ、わしが塵一つ残さず滅殺してやろう!》


 うん……逆らったら僕も灰にされそうだ。 僕はしぶしぶ魔剣の先で自分の手のひらを切り、温かい鮮血を灰の山へと垂らした。するとどうだろう。灰が生き物のように脈動し、血をゴクゴクと飲み込み始めた。そこからは早かった。急速に肉体が編み上げられ、失われたはずの色彩が戻っていく。


 真っ白な磁器のような肌、漆黒の鴉のような黒髪、そしてフリルたっぷりのゴスロリ服までもが完全復元され、ノワールがゆっくりと、重い瞼を持ち上げた。僕は心臓をバクつかせながら魔剣を構えたが――。 蘇ったノワールの瞳には、先ほどまでの氷のような殺意は微塵もなかった。彼女はしなやかな動作で僕の前に跪き、恭しく頭を垂れた。


「……我が主。何なりとご命令を!!」

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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