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第22話 光の王国・禁断の切り札

 僕らが新たな仲間を迎えて盛り上がっていた頃、アストラリア王国諜報部は悲しみのどん底に沈んでいた。表向きは平穏を装う王都の裏側で、確実に歯車が狂い始めていたのだ。先日のサイクロプス出現の際に撲殺されたコードネーム「い」から「お」の四名は、もはや帰らぬ人となっていた。隠蔽魔法で姿を隠していたこと、魔物やアズマ一行が入り乱れて戦って身体が四散したことなどにより、遺体回収は難航し、蘇生もままならなかったのだ。


 葬儀を終えて、諜報騎士団本部。壁には亡くなった「い」達の遺影が飾られ、一層の悲しさを醸し出している。沈黙が支配する部屋では、誰もが目を伏せ、言葉を失っていた。コードネーム「あ」ことミランダはかろうじて一命をとりとめたが、身体中が包帯だらけで痛々しい。団長のイノカワは重々しい沈黙を破り、ミランダに語り掛ける。


「『あ』よ。改めて聞こう。アズマとダークエルフの様子はどうなっている?」


 ミランダは痛みに顔を歪ませながら、立ち上がり敬礼した。


「はっ!ご報告します。現在、なんとまた仲間が増えた模様です」


 団長は額に手をやり、頭を抱えつつ質問を続ける。彼の顔には、この状況に対する深い疲労と苛立ちが滲んでいた。


「素性はもう洗ったのか?」


「どうにか突き止めました。まず最初の魔法使いと思われる女性ですが……隣国の公爵令嬢ユリシアの可能性が高いです」


「そんな馬鹿な?ド田舎で幽閉中のはずだ」団長の声が僅かに上擦る。


「脱走したのかもです。ただ、リュミエール王国側は『そんな事実はない』との回答でした。事実を隠蔽しているのかと……」


 ミランダは報告を続けながら、この情報が国家間問題に発展しかねない危険性を痛感していた。


「本人だとしたらヤバすぎるぞ。真正のテロリストを仲間にしたことになる」


「更に先日冒険者ギルドに新たなパーティー登録がありました。新メンバーは、あのSランクパーティーの副リーダーだったアシュレイさんです」


「はぁ?」団長は信じられないという顔で目を丸くした。「彼女は将来はうちの宮廷魔術師になるはずの天才だぞ?どうしてまた?」


「詳しくはわかりません。ただ、噂ではSランクパーティーを追放された反動で闇堕ちしたとか」


 団長は激しく机を叩き、椅子から立ち上がった。怒りの振動が部屋全体に伝わる。


「パーティーリーダーのカイルは何をやってるんだ!?」


「現在行方不明です。隣国に亡命したとの未確認情報も……」


 イノカワは窓の外の光を睨みつけるように遠くを見た。その目は、闇に包まれた現状に対する絶望の色を帯びていた。


「恐ろしいことになりつつあるな。闇の勇者アズマに邪神の巫女イリス、爆弾令嬢ユリシアに闇落ちした天才補助魔導師か……」


 報告を受けて、遂に団長のイノカワは決断するのだった。それは、王国が長きにわたり隠蔽してきた非常手段を使うことを意味していた。


「部下『あ』よ。着いてこい」


 そう言われて、二人は人通りが途絶えた騎士団庁舎の地下エリアへ降りていく。その足取りは重く、しかし迷いはなかった。


* * *


 どーん!地下深く湿った空気が満ちる中、イノカワが巨大な墳墓らしい場所の大扉を開ける。古びた石の軋む音が、静寂な闇の中で重々しく響いた。扉がぎぃーと大きく開くと、中の部屋には豪奢な棺が安置されていた。ミランダは周囲を警戒しながら、団長に問う。


「あのー、ここは?諜報騎士団にこんな場所があるなんて初めて知りました」


「そうだろうな。ここにはアストラリア王国の影・禁断の切り札を収監している場所だ」イノカワの声は、地下の冷気のように冷たい。


「収監?収監とおっしゃいましたか?」ミランダの喉が渇く。


「そうだ。こいつを監視付きで解き放つ。実働は三年ぶりだ。本当は使いたくない代物だ」


 ミランダはごくりと喉を鳴らす。墳墓は漆黒の闇に包まれ、団長と自分が手に持つ魔法燭台の弱い光だけが、石の壁に奇妙な影を落としていた。


 イノカワが低い声で呪文を唱えると、棺の蓋が横にスライドした。二人がのぞき込むと……棺の中には、わずかな灰色の粉しかない。イノカワはナイフを取り出し、自分の左手を軽く傷つける。ポタポタと流れ落ちる鮮血。


 棺の中の灰が生き血を得て、まるで時間を巻き戻すように身体を構築していく。実にお約束通りの吸血鬼の復活だった。形作られたその身体は、見た目は12か13歳くらいの少女だ。日本で言うところのゴスロリに身を包んだ、真っ白な肌に黒髪の儚げな美少女だった。少女はゆっくり目を開け、身体を起こす。ミランダはその光景にただただ恐れおののくばかりだった。


「団長!この娘って真正の吸血鬼……闇の眷属ですよね?どうしてここに?」


 少女は棺を飛び出し、イノカワの前に完璧な動作で跪いた。


「我が主。何なりとご命令を!」


 団長は大きく頷き、少女に命ずるのだった。


「三年ぶりだな。仕事ができた。貴様の力を借りたい。コードネーム『わ』よ」


「お任せください。今回はどんな奴をぶっ殺せばよろしいでしょうか」


* * *


 イノカワとミランダは、コードネーム「わ」と呼ばれる少女を引き連れて地上へ戻る。まだ日も高い正午近くだ。降り注ぐ太陽は光の女神の祝福のようだった。イノカワは明るい日向をスタスタと歩く。吸血鬼の少女はどこからともなく取り出した真っ黒のサングラスをかけてイノカワに続いた。ミランダは愕然とする。


(この子……太陽を克服してる!?)


「こいつはこの王国のどぶ攫い係だ。転生者だった俺の爺さんが編み出した禁断の戦法。闇をもって悪を征す。アズマのパーティーメンバーとして送り込むには丁度いいと思わないか?」団長は不敵に笑う。


「確かに属性は闇ですし、強さも申し分ないかと」ミランダも、その冷酷な計画に背筋が凍る。


「送り込むだけでなく、こいつに始末もさせる。『わ』は特殊な魔導術式でコーティングされている。故に『光の武器』を操ることができるアンデッドだ。こいつは通常の武器では死なず、闇属性の攻撃も無効。そして闇を切り裂く光の武器で邪悪な存在を葬り去る」


「ではこの少女で、『い』達の仇を取るのですね?」勝利への道筋が浮かぶミランダ。


「そういうことだ」イノカワが自信をもって頷く。


 こうして光の王国アストラリアの禁断の切り札が動き出したことを僕たちは知る由もなかった。

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