第18話 追放された冒険者
討伐任務を終えた僕らパーティーは王都に帰還した。城門が見えた瞬間、張り詰めていた緊張が一気にほどける。Sランクの魔物2体を含む大量の討伐に経験値は爆上がり、回収した魔石や素材は莫大だった。ギルド職員たちのざわめきと視線が、今回の成果の異常さを物語っている。ちなみに僕は相変わらずレベルアップも微増である。(まあ大半の時間は死んでたしね)
しかし、イリスの蘇生により僕のボディは変わりつつあった。宿の部屋で鎧を外した瞬間、嫌でもそれを実感させられる。なかなか筋肉の付かなかった文化系ヲタク男子のボディは、体育会系を思わせる完璧な筋肉質に変わっていた。そして、その相乗効果なのか、声の感じも違ってきたのだ。
ユリシアが目をハートにして僕の声に聞き入っている。視線が妙に熱っぽく、距離感もいつもより近い。
「アズマ……いえ、良一郎様。声を聞くだけで痺れますわ。しゅき♡」
正直、どう反応すべきか分からず、僕は困惑するばかりだ。
「ええー?イリス。これなんか起こってるのかな?」
「思い当たる節はあります!ステータスを確認なさっては如何でしょう?」
僕はそれを聞いて、転生者特典のステータスウィンドを展開してみる。半透明の光の板が空中に現れ、見慣れない項目が視界に飛び込んでくる。そこには謎のスキルが増えていた。
【キメラボディ】 【ドラゴンボイス】 【物干し竿】
「これなんだろう?」
魔法やスキルの勉強をしてきたというユリシアが、興奮気味にスキルの解説をしてくれた。専門分野に触れた時の彼女は、実に生き生きしている。
「良一郎様……凄いスキルですわ!『キメラボディ』は人を超えた強靭な肉体を得たという事です。恐らく蘇生にSランクモンスターを使った影響でしょう」
「それって人間を辞めた感じなのかなー」
「そんなことはないですよ。モンスターの血肉と言っても取り入れたのはちょっぴりですし」イリスがフォローする。
「次のスキル、『ドラゴンボイス』ですが、これも凄いスキルですわ!声に強力な威圧が乗るのです!」
ユリシアの説明によると、ドラゴンの咆哮には強力な威圧効果があり、前に倒したアースドラゴンの血肉で蘇生した僕に、そのスキルが発現したらしい。想像以上に物騒な能力に、背中に冷たい汗が流れる。具体的にはレベルアップすれば、僕の一言で数万の人を怯えさせたり、逆に奮い立たせる効果もあるらしい。
それを聞いてイリスが大喜びだ。
「ご主人様!素敵です!これで圧倒的支配者へ一歩近づきましたね!」
(いやいや、そんなの目指してないしー)
続けてユリシアが言う。
「良一郎様の言葉が前向きであれば皆を励ますように響きますし、後ろ向きなら皆を落ち込ませます。ですので、出来るだけ明るくお話しくださいませ」
「わかったよ、ユリシアさん」僕はぎこちない笑顔を作る。
「あと、最後のスキル『物干し竿』って何でしょう?」イリスが首を傾げる。
ユリシアも頭を抱える。「聞いたこともありませんわ」
僕はなんとなくピンときた。
(つまりアレが一つ目巨人の影響で、思い切りサイズアップするってことか……)
僕はステータスウィンドをそっと消した。
(個人的極秘情報だ。二人には黙っておこう)
* * *
その頃、王都から遠く離れた上級ダンジョンの最下層近く。Sランクパーティー「輝ける探索者たち」の六人パーティーが野営をしていた。アストラリア王国の王都冒険者ギルドでも一、二を争うトップ冒険者たちである。高難度のダンジョンの攻略まであと少しという場面で、リーダーは一人のパーティーメンバーにクビを言い渡した。
「アシュレイ……君をこのパーティーから追放する!」
アシュレイと呼ばれた赤髪の絶世の美女冒険者は、突然の宣告に動揺が隠せない。
「えっ!?どうして私が追放なの?リーダー……どういうこと?」
リーダーはその言葉に頭を抱えながら、申し訳なさそうに理由を言う。
「すまない。今ままでお前の補助魔法や諸事雑用能力、色々と俺たちを助けてくれた事には礼を言おう。しかし、君の素行にはもう我慢できないんだ。ここでお別れだ、アシュレイ」
アシュレイは涙目になる。「そんなー!私が何をしたって言うのよ?私の補助魔法のおかげでパーティーは火力アップしてるし、探索・マッピング・罠解除……野営の事とかも……」
リーダーは冷たい笑みを浮かべる。「ふふふふふ。実はお前の後任は既に見つけてある。補助魔法は出来ても、戦闘能力の低いお前と違って、今度の仲間は補助も攻撃魔法もイケてるんだ」
「そんな……酷いわ、リーダー……!」
「というわけでここでお別れだ。俺たちは帰還させてもらうぜ」
そう言い放つと、仲間たちは迷宮から一気に入口まで瞬間移動する転移魔法アイテムを使用する。
「ちょ……ちょっと待って~!」アシュレイの叫びも虚しく、彼らは野営地ごと消え去って行った。
取り残されたアシュレイも帰還しようとアイテム袋を確認する……しかし袋には瞬間移動帰還アイテムは一つもなかった。
「噓でしょ?あの人たちわざと迷宮地下へわたしを置き去りにしたのね……しかも生き残るためには歩いて地上まで登って来いと?」
本来ならパーティーの補助や支援をするポジションの彼女に、この迷宮脱出は困難なのは間違いなかった。置き去りにした、さっきまでの仲間たちは自分に「死ね」と言っている。
そう思ったとき、涙が止まらないアシュレイ。(意地でも生きてやる……!)そう決意して、来た道を逆に歩き出す。生き残る確率は限りなく低かった。
* * *
僕らが一つ目巨人・サイクロプス2体の討伐報酬の金貨一万枚(預金になってます)を貰った後、パーティーランクはCからAへと急上昇した。これにより、更に上級のダンジョン攻略や危ない任務も引き受けられるようになっていった。
そんな僕らに冒険者ギルドから「強制クエスト」が命じられる。強制クエストは「誰もやりたがらないが、ある程度実力がないと難しい」案件を、新昇格したパーティに割り振る任務だ。これは成功はともかく、必ず引き受けないといけないルールらしい。
僕らに提示されたのは、「上級ダンジョンで行方不明になった冒険者の探索」だった。受付のお姉さんが教えてくれた。
「アズマさん、この案件ですが、おそらくターゲットさんは死体になってる可能性が高いです。無理せずに行ってください。あと、可能なら遺体回収もお願いします」
僕は、鍛え上げられた「ムキムキの肉体」に「ドラゴンボイス」を乗せて答える。
「わかりました!サクッと片付けて来ますよ!」ポージングが決まった。更に・・きらーん!はにかむ僕の白い歯が光る!
だが僕らはダンジョンの底で待ち受ける「上玉」の脅威をまだ知らないのだった。
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