第14話 この人当たりなんですか??
僕はイリスと共に冒険者ギルドに「パーティーメンバー募集」の張り紙を出した。ギルドの掲示板は、冒険者たちの欲望と事情が渦巻く場所だ。高難度討伐、護衛依頼、短期高額――それらの紙片の中で、僕らの募集要項はやけに現実的で、逆に浮いていた。
『高給優遇・賞与あり・週休二日・残業手当・交通費支給』。八億円の貯金があるんだ。これくらいの出費は痛くも痒くもない。むしろ、ちゃんとヤバくない人材を雇って、僕の命が助かるなら安いものだ。条件だけ見れば、夢のような職場のはずだった。
しかし、応募は誰も無かった。掲示板の前を通る冒険者たちは、張り紙を一瞥しては、何も言わず視線を逸らしていく。その動きが妙に統一されているのが、逆に不気味だった。大宴会で僕に「加入しようかしら?」とか言ってたお姉さんも「いや……やっぱり無理です」と言って逃げて行った。
きっと僕の背後にいるイリスの闇のオーラ、あるいは「アズマに関わるとロクなことにならない」という冒険者界の不文律を感じ取ったのだろう。誰も来ない掲示板の前で、僕は座り込んだ。石造りの床の冷たさが、妙に現実的だった。
「仕方ないね。今日はこのくらいにして解散しようか?」と僕はイリスに尋ねた。
「そうですね。ご主人様は訓練場へ?」
イリスは尋ね返してくる。その声音には、いつもの明るさの奥に、ほんの少し心配が混じっていた。
「うん。魔剣でステータスを上げてもらっても僕の実力じゃないからね。イリスを護れるよう、素の自分を鍛えとこうと思って」口にしてから、ようやく自分の覚悟を再確認する。
イリスは目をうるうるさせて「ご主人様!ふぁいとです!私はもう少しここで待機してみようと思います。お帰りの際に迎えに来て下さいませ」とエールを送ってくれた。その笑顔に、少しだけ背中を押された気がした。
「うん、わかったよ」僕は冒険者ギルドの紹介で訓練所と呼ばれる「町道場」へ通い始めたのだ。コミュ障とヘタレを治すためにも、もっと強くなりたかった。
* * *
そんな僕らを物陰から、王国諜報部、コードネーム「あ」ことミランダ・ソリスが見つめていた。
(今だ!今こそ潜入するチャンス!アズマは抜けた!ダークエルフ一人なら!)
敬虔な光の女神を信奉するミランダは、勇気を振り絞った。上司の鬼のような催促に背中を押され、ついにイリスに話しかける。
「あの!冒険者ギルドからの推薦(王国諜報部の指令による)で来ましたミランダと申します!是非パーティーに加えてほしくて!よろしくお願いします!」
ミランダは紹介状を渡し、平身低頭する。イリスの目が赤く光った。闇の女神ディスフィアとチャネリングしたのだ。
「残念ですが、お引き取り下さい~」イリスは冷たく言い放った。
「え?ええぇー?何でですか?仲間がいなくて困ってらっしゃるって聞きましたけど?」ミランダは絶句する。
イリスは冷めた目でミランダを観察しながら、「うーん……ミランダさんでしたっけ?うちのカラーじゃないんですよねー。光の女神様のご加護を受けてらっしゃいます?」
「まあ……そうですけど……この国じゃ普通ですよ?」
「普通の方はお断りしておりますのでー」
ミランダは二度目の絶句。このダークエルフ……やはり邪悪なんじゃ?精一杯の勇気をあっさりと踏みにじられた彼女は、半泣きで退散するのだった。
イリスは心の中でディスフィア様に尋ねた。(ディスフィア様、あれでよかったのですか?)
《あれは危険な香りがプンプンしとった。それに、あの娘では面白くない。それより来るぞ、上玉が》
イリスがにやりと笑う。(楽しみです)
* * *
街のチンピラから情報を引き出したユリシアは、喜色満面の笑みを浮かべた。闇の勇者アズマと邪神の下僕イリス。光の加護が得られないのなら、闇に縋ればいい。犯罪者の烙印など闇の女神なら消し飛ばしてくれるはず。超ポジティブお嬢様に迷いはなかった。
そして何より自分に金貨を施してくれたあの少年……きっと彼が闇の勇者アズマなのだろう。(なんとなく縁を感じるの)ユリシアのハートは、真の愛かもしれない恋の予感に高鳴っていた。今まで高貴な身分による結びつきしか知らなかった人生。自分の事を心から気遣ってくれた少年の笑顔が忘れられない。
もう一度会いたい。そしてもし叶うなら、魔法の力を取り戻したい。その時はその力を闇の勇者に捧げよう。彼女の足は、アズマとダークエルフが住むという郊外の賃貸住宅へと向かっていった。夕闇がだんだんと迫って来る。
アズマの家を探し当てたユリシアの前に、屈強な男たちが数人現れた。手に手に刺股……奴隷商の手先だろう。
「凝りませんわね?また返り討ちにあいたいみたいね?」ユリシアは挑発した。
雑魚Aは刺股を構え、「今日こそ捕獲するぜ!かかれ!」と叫ぶ。数人の男たちが襲い掛かる。さすがに劣勢になる・・・多勢に無勢。(こんなところで……私はもう負けたくないのに……!)ユリシアは内心で焦燥した。
* * *
その時だった。キラリ!輝く魔剣が、ユリシアを押さえつけていた刺股を両断する。彼女を取り巻く襲撃者たちの輪に果敢に飛び込んだのは、吾妻良一郎こと闇の勇者アズマだった。
「こらー!僕の家の前で乱暴狼藉なんて許さないぞ!」僕は精一杯の勇気を出して叫んだ。
僕の声に呼応して後方からイリスも叫ぶ。「そうよそうよ。早く退散しないとやっつけちゃいますよ!」
だが襲撃者たちはたじろがない。プロの人さらい集団だ。僕はユリシアの前に立ち魔剣を構える。
「お姉さん大丈夫ですか?ここは僕らに任せて」
「あなた?闇の勇者アズマね?」ユリシアは目を輝かせて僕を見つめた。
「ははは。自分じゃ闇のなんとかって名乗ってないんだけどなぁ」
僕は乾いた笑いを漏らしながら、襲い掛かる襲撃者たちをズバズバ切り伏せていく。彼らは、僕が最強の【魔剣】を握っていることを知らない。剣が触れるだけで、彼らの装備は簡単に両断され、身体に切り傷が入る。
「うぉーおおーこいつ見かけによらず強い!」雑魚Bが呻いた。
「ぐはぁー駄目だ!退散するぞ!逃げろ!」雑魚Cの叫びと共に、彼らは逃げ出した。
逃げて行った方向で、イリスの闇の呪いが襲う。逃げた先に現れた闇の底なし沼にハマって沈んでいく彼ら。「あああー沈む!動けない!助けてくれー!」ずぶずぶと闇に消えていく光景を見て、僕は背筋を震わせた。
「たははは。イリスの闇魔法は相変わらずエグイなぁ。これどうなるの?」
「うーん……ずばり言うとディスフィア様への供物です」イリスはにっこり笑った。
(くっ!可愛い……けど怖いよイリス)
ユリシアが僕に近づき、上目遣いで言った。「あの……助けてくれてありがとう……ですわ」
「お姉さん……この前の?元気出たみたいでよかったです」僕が言うと、ユリシアは(きゅん)と心をときめかせた。
「わたくし……お二人にお願いがあって参上しました。名前を、ユリシア・フォン・グロースハイムと申します」
(なんか来た。この人がもしかして大当たり!?)
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