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第12話 邪神会議はダンシング

 冒険者ギルドの窓口は、いつも以上にざわついていた。視線が集まり、ひそひそと囁きが交差する。その中心にいる自覚はあったが、正直、落ち着かなかった。僕を担当しているいつもの受付のお姉さんは、顔を引きつらせながらも、僕に深々と頭を下げた。その仕草は事務的でありながら、どこか畏敬すら滲んでいる。昨日までの距離感とは、明らかに違っていた。


「アズマさん、おめでとうございます……こちらが報酬の金貨八千枚です。すべての金貨を用意できなかったので、七千九百枚分は預金としてお預かりいたしました」


 僕らは、ずっしりと重い金貨百枚と、真新しい貯金通帳を受け取った。手に伝わる金属の冷たさと重量が、現実を容赦なく突きつけてくる。金貨一枚の価値は僕の体感で日本円で十万円くらいだろうか。計算が合った瞬間、思考が一瞬フリーズした。


 金貨八千枚は……約八億円!?宝くじ当たった!?いや、僕が命を懸けた(死んでた)だけの報酬だ。僕は喜びで顔がほころぶ。まあ僕は何もしてない(死んでただけ)けどなー。


 その後、ギルドの慣習に倣って「大盤振る舞い」を敢行し、冒険者仲間と大宴会を開いた。酒と肉の匂いが立ちこめ、笑い声と酔っ払いの怒号が入り混じる。昨日までとは別世界だ。


「やったなーアズマ!お前はやる男だと思ってたぜ!」


(いやいや、お兄さん・・・昨日まで魔物を狙う狩人の目をしてましたよー)


「王都にまた新たな伝説が生まれたな!アズマ万歳!」


(くぅー先輩ってば、僕をぼっちなのを知ってても全然無視してたよねーずっと)


「素敵よ!アズマさん……私……あなたの仲間になってもいいけど」


(ええぇー?お姉さん・・眼が$マークになってますけど……お金目当てですよね?)


 ギルドマスターまで駆けつけてきた。普段は滅多に姿を見せない人物が現れたことで、場の熱気はさらに加速する。


「アズマくん、君を見誤っていたよ!イリス嬢のことも更に大目に見るからな!これからもうちのギルドで活躍してくれ!」


 僕は引きつった顔で、「はははは(乾いた笑い)……適度に頑張ります」と返す。背中に突き刺さる視線の数が、さっきより明らかに増えていた。


 周りの冒険者仲間たちの手のひら返しをひしひしと感じる。はっ!これが「金」かっ!金の力凄いなぁ。昨日まで王都の危険人物扱いだったのに。


「ご主人様!渡る世間は金次第ですよっ!」


「いやー……なんか違うぞ、イリス」


* * *


 その夜、自宅のイリスの部屋。昼の喧騒が嘘のように静まり返り、ランプの灯りが柔らかく部屋を照らしている。イリスは机の上にワインとパンを並べ、楽しそうに宣言した。


「では、ここに第二回『世界征服会議』を開催いたします!」


《わぁーい!》


 現世に降臨している闇の女神ディスフィア様がぱちぱちと拍手をする。実体はないはずなのに、場の空気だけは完全に支配されていた。


「えーと……イリスさん。いつから世界征服を目標にしたのさ?しかも第二回目って?一回目はあったのかい?」


「はい!一回目は、ご主人様を如何に奴隷商館におびき寄せるかが議題でした!」


 ディスフィア様がドヤ顔をしている。(ように見える)


《イリスよ、あれは実にチョロかったのうー》


「そうでしたねー。でもご主人様がダークエルフ好きなおかげで合流できて嬉しいですー」


「ん?んん?僕ってもしかしてディスフィア様からもハメられてました?」


《そう悪く解釈するでない。お主は選ばれたのじゃ!世界を服従させる闇の勇者に!》


 イリスが目をキラキラさせて頷く。


「ご主人様、カッコいいですぅー!」


(どうしたものか?間違いなく僕はテンプレ的勇者コースから外れまくっている)


《そう悩むな。今は活動資金を得たことで次のステップに進むのじゃ》


 僕はしゅぱっ!と手を上げる。


「あのー、これだけのお金があれば、田舎でスローライフ出来ると思います!もう冒険者なんてヤクザな商売は止めて、田舎暮らしを満喫しませんか?」


「それも素敵ですーご主人様~。二人で悠々自適生活なんて憧れちゃいます!」


 ディスフィア様がわなわなと震えている。(ように見える)


《何を言っておるのじゃ!このヘタレが!男なら志を高く持て!王国の一つや二つ蹂躙してこその男であろうが!あぁ?やる気見せろや?》


「いやいやいや、ディスフィア様!今は異世界転生ものはスローライフが流行してるんですよ!村を経営したり、農地を耕したり、日本の食材で魔物を手懐けたり、そういう路線で行きましょうよ~」


* * *


 きらーん!ディスフィア様の目が光る。その瞬間、僕の身体は宙に浮き、見えない力で喉が締め付けられる。


「ぐはっ!」


 死ぬー!死んでしまうぞーこれ!イリスが慌てて止めに入る。(イリスさん、ガンバですっ!!ぐぇー)


「ディスフィア様~もうお止めください!ご主人様も悪気があった訳ではございません。単に『ど』の付くヘタレなだけですからー」


(イリス……それは褒めてないぞ)僕は涙目になる。


 ディスフィア様はやれやれといった風情で、僕を解放した。空中から床に叩き落とされる。


《良一郎よ。資金はあるのじゃ。仲間を探せ》


「ゲホゲホ……え?仲間ですか?」


《わしの神託じゃ。近々、なかなかの上玉がやって来る。この機を逃すでないぞ》


「やりましたねご主人様!いよいよパーティーもより賑やかになりますよー!」


(闇の女神が言う上玉がどんな人物なのか?嫌な予感しかしない)


《良一郎、何か言った?》


「いえ……どんな人なのか楽しみだなぁーって」


「可愛い女の子とかだといいですねー。一緒に踊れますから!」


《ふふっ……期待するがよい。わしの力で色々とヤバいのを引き寄せておいた。後は良一郎が大当たりを引き当てるかじゃ……》


(ううっ……嫌だなぁー僕は田舎でイリスと二人、いちゃラブしたいのにー!)

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