第11話 アストラリア王国諜報部の憂鬱
話は少し遡る。アストラリア王国――光の女神アストレアを国教とする大陸有数の強国だ。白亜の神殿が王都の中心にそびえ、朝夕には祈りの鐘が鳴り響く。その音は民を安心させる象徴であり、同時にこの国が「正義」を掲げている証でもあった。
国民には優しいので、自由業である冒険者たちも多い。酒場や宿屋には各地から集まった冒険者が屯し、情報と噂、そして金がめまぐるしく行き交う。王国はそれを黙認し、管理することで秩序を保っていた。
世界的に奴隷制度はあるが、王国では比較的優しい制度で、奴隷に対する虐待は犯罪だったりする。理想論だと笑う者もいるが、それでも他国と比べれば天と地の差だ。年季が明けた解放奴隷も多く、中には能力を生かして役人や大商人になったものもいる。そうした成功譚は、王国が掲げる「光の教義」の宣伝にもなっていた。
またこの国は強力な騎士団によって守られており、警察機構も騎士団直属だ。街路に立つ騎士たちの存在は、治安の象徴であると同時に、抑止力でもある。中でも諜報騎士団はその情報収集能力の高さが大陸随一と言われる。影に生き、影で死ぬ者たち。彼らの存在を知る者は少なく、だがその成果だけは確実に王国を支えていた。
冒険者ギルドとも親密に関係しているこの諜報騎士団へ、先日もたらされたのは「邪神の下僕を従えた転生勇者アズマが現れた」という知らせだった。その一報は、静まり返った執務室の空気を一瞬で凍り付かせた。騎士団長のヒデオ・イノカワ(転生者の子孫らしい)は頭を抱えていた。この黒髪のイケメン青年は、彫りの深い精悍な顔立ちと、騎士として鍛え上げた肉体美に圧倒的な眼力を持つ強面だ。その額に浮かぶ皺は、単なる業務過多のそれではない。国家存亡に関わる直感が、警鐘を鳴らしていた。
そもそもこの国にダークエルフなど存在してはいけないはず。しかし、どこからともなく湧き出てきて、いつの間にか冒険者登録までしたという。手続きの網をすり抜けた事実そのものが、諜報部にとっては屈辱だった。
「このままずるずると居場所を与えていいのか? 邪神の呪いが発動したら?」
団長の声は低く、重い。部屋に集った者たちも、それが杞憂ではないと理解していた。
団長は部下たちを招集し、監視活動を始めることにした。疑わしきは罰せよ――それが諜報部の鉄則である。
「部下『あ』に命令する。『い』~『お』までの諜報騎士を使って、邪神の勇者アズマを監視せよ」
その命令は、半ば当然であり、同時に地獄への片道切符でもあった。『あ』と呼ばれた諜報騎士はただちに一般市民に変装し、他の『い』~『お』の部下も冒険者や露天商などに変装して監視を開始するのだった。彼らは慣れた手つきで役割を分担し、街の雑踏へと溶け込んでいく。
「それにしてもうちの団長……私たちの名前を全く覚えようとしないよねー」
「コードネームにしても『あいうえお』順で割り振るんだからたまらんよ」
緊張の中で交わされる軽口は、彼らなりの精神安定剤だった。
「おいおい、あんまり愚痴ってばかりで仕事しないとまた団長にブチ切れられるぞ」
「冒険者ギルドからの報告によると……初級ダンジョンに潜るみたいだ。追跡しないと」
その言葉に、空気が引き締まる。
「じゃあ俺と『え』で尾行するよ。みんなバックアップ頼む」
「「おおっ!!」」一同で気勢をあげる!
* * *
諜報部の変装した腕利き騎士が、アズマとイリスの二人を追跡していく。追跡は完璧だった。気配を消して距離を取りながら監視する。そんな彼らにもダンジョンの異様な様子がわかる。彼らにも通常とは違う格上のモンスターが襲い掛かる。
「なんだよー出てくるモンスターがいつものレベルじゃないぞ」
「おい!ちょっと待って……ヤバい!」
「うぎゃぁああー!」
「ああぁー『お』大丈夫かっ! 救援だ、救援を頼むー!」
必死に救難信号魔法を発動する『え』。ダンジョン内に集結する『あ』から『え』。すでに『お』は死亡して蘇生待ちだ。
「どうなってるんだ? このダンジョン……奴らが何かの呪いを発動させたようだな」
「どうします? このまま追跡を続行しますか?」
「ここで撤退して、もしとんでもないヤツを召喚したり、王都を壊滅に導くような呪いを発動されてみろ。俺たちも終わりだ」
「犠牲になった『お』のためにも、ここは先に進むしかない! 諜報騎士団の名に懸けて!」
「「おおぉー!!」」一同雄たけびを上げる。
その直後、Aランクモンスターのミノタウロスが出現……背後から迫って来る。
「あ、ヤバい! 逃げろー!」
全員ダッシュで逃げ出す。逃げ遅れた『え』がミノタウロスの大斧の餌食になる。
「ぐはぁあー」 (あああー『え』が……ミンチに……)
「くそっ! 『え』もいずれ遺体を回収して蘇生してやるからな! 今は逃げよう! 任務が先だっ!!」
生き残った騎士たちは満身創痍になりながら、邪神の勇者アズマと下僕のイリスを追跡するのだった。
* * *
そして彼らはダンジョンの最深部、ラスボス部屋にたどり着く。そこで彼らが見たものは、アースドラゴンによって首がすっ飛ぶアズマだった。
「ひぃー!」 目撃した一同がドン引きする。
そして、そのドラゴンを一発で仕留めるダークエルフ。さらには一般的に禁忌とされているモンスターの血肉を使っての蘇生魔法。妖しく蠢く邪神の影と、その力をフルに身に宿すダークエルフの美少女。諜報部員たちは凍り付いた。(色々とヤバすぎるぞこの二人は……)
* * *
命からがら逃げのびて、上司のイノカワに報告する。内容を聞いた騎士団長の決断は、さらに非情だった。
「このままでは王国の崩壊も時間の問題なのかもしれん。奴らの更なる監視と、いざという場合の抑止力がほしい。部下『あ』よ。君を潜入捜査騎士に任命する。冒険者として彼らのパーティーに加わって、直接監視をするのだ」
団長は机を叩く。
「そして、奴らが王国転覆や邪教拡大の行動を取った場合は……直ちに抹殺するのだっ! これは国王陛下承認の特命だ。いいな? 失敗は許されんぞ」
「ひぃぃー! そんな無茶ぶりですよー! 私の能力じゃあんな化け物相手にどうせよと……」
「どうにかするのが君の任務だ。バックアップはしてやる。死ねば骨も拾ってやる。行け!」
こうして一人の諜報騎士が、冒険者ギルドの門をたたく羽目になった。諜報騎士……部下『あ』こと、本名ミランダ・ソリス(20歳)。敬虔な光の女神アストレアの信者である。諜報部員として叩き込まれた斥候としての技術を生かして「盗賊職」として登録。果たしてうまく接近できるのか?
「ああぁー眩暈がする。こんな任務するなら諜報騎士団なんて辞めようかなー」
戦う前から心が折れているミランダだった。
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