1.3.9 n:Drifting Island!
「よいしょ、よいしょ。」
「Tir-tir♪」「Looluloo♪」
現在、フレンドシップ号の乗員は六名。友魔師の少女、ケット・シー、ロック・ゴーレム、トーチ・ラーク、ウンディーネ、ビルダー・ビーバー。オールを漕ぐのは専らロック・ゴーレムの仕事である。今は少女が漕いでいるが、ゴーレム種は疲れにくいので適任ではあるだろう。トーチ・ラークは定期的な周囲確認、ビルダー・ビーバーは船の整備、ウンディーネは時折水を操って船を進ませるがどれもそれほど忙しくない。
「Nhyarw……」「Beave……」
端的に言おう。少女ら一行は遭難していた。気づいていないらしいが。それもそのはず、目的地もなく、海図もなく、海流に任せてただふらふらと水上を漂っていたのだ。現実ならとっくにその命は尽きていただろうが、食料は釣りで手に入り、水もウンディーネや少女が産み出せる。どちらも特段必須というわけではないが、それでもこの代り映えのしない旅路の中では必要だったのだろう。しかしその限界がビルダー・ビーバーやケット・シーの中で訪れていつつあったときのことだった。
「Tirit!」
「ん? 大きな島を見つけた!? よし、じゃあそこに行ってみよう!」
トーチ・ラークの示す方向に、ロック・ゴーレムが船をこぎ、ウンディーネとビルダー・ビーバーが水を操って速度を上げる。暫くぶりの陸地、船も釣りもある程度日数が続けば飽きも覚える。特にケット・シーは戦いたくて疼いていた。釣りに乗じて現れるモンスターには慣れてしまったようだ。
「ん~ なんか暗い島だね~」
「NHYARW!」「ーー!」「Tir-tir♪」「Looluloo♪」「Bebeave!」
「そうだね! とりあえず上陸だ~!」
一行の前に現れた島は木々に覆われているだけでなく、全体的に靄がかかり、どんよりとした空気を出している。
[LUTTEEER!]
「え、何?」
[KTKTKTKT]
「NHYARW!」
「ほ、骨!」
木陰から現れたのはハープーン・スケルトン。一応第二エリアの一部にも出現するのだが、少女はこれがはじめての出会いである。普通夜にしか出現しないのだが、深い霧のおかげかどうか、昼間から出現したようだ。
ハープーン・スケルトンはその名を誇示するかのように銛を振り回し、ケット・シーと大立ち回りを演じる。筋肉がどうたら、視界がどうたらなどと考えるのは時間の無駄である。とはいえ、数瞬の剣戟の末に、ケット・シーの蹴りによって吹っ飛ばされた骸骨の体は、大木の幹に当たってバラバラに崩れ落ちた。
「ふぃ〜 クー、ありがと!」
「NHYAR!」
[.........KTKTKTKTKT]
「ーー!」
ケット・シーと少女が向かい合って語らう中、いつの間にか復活したハープーン・スケルトンの銛をロック・ゴーレムが防ぐ。
「Beave!」「Tirit!」「Loo!」
その動きに呼応するかのように、新たなハープーン・スケルトン三体が姿を現した。合計四体。ケット・シーが一体、残りの友魔が二体を受け持ち、少女が最後の一体と戦う。
「え? 復活するの?」
「ーー!」
「あ。頭壊せばいいの?」
その後もわらわらと湧いてくるハープーン・スケルトン。だが、ロック・ゴーレムが対処法を発見してからは問題なく倒されていく。ハープーン・スケルトンに限らず、スケルトン種は頭蓋骨を攻撃し破壊しなければ倒せず、すぐに復活してしまう。
「えっと〜 ルルは回復をお願い! クーと私はとりあえず倒すから、イワンとトリィ、ビートで頭壊しちゃって!」
本体の体力はさほどなく、簡単に壊せてしまう。対して、頭蓋骨の耐久力はそこそこあるから、まずはバラバラに崩し、それから頭蓋骨を壊せばいい。
「-----!!!」
〈ロック・ゴーレム「イワン」のLvが25に達しました。進化します。〉
〈「イワン」はメテオ・ゴーレムに進化しました。〉
「進化!? 今〜!? ちょっと待って~!?」
少女は突然のことに戸惑って焦っているが、実を言えば、この進化、かなり特殊である。ロック・ゴーレムは進化分岐が多く、通常進化が三つ、そして特殊な進化が六つ用意されている。通常進化は建築・運搬向けのブロック・ゴーレム、近接戦闘のメタル・ゴーレム、魔法を扱えるジュエル・ゴーレムの三つで、それぞれ土砂などの雑素材、金属、宝石のどれを最も多く食べたかで分岐する。それに対して特殊な進化は「奇妙な石」とそれぞれの固有素材を食べる必要がある。正確には「奇妙な石」を食べることで固有素材を食べるように変化するのだ。
メテオ・ゴーレムはその名の通り、隕石をモチーフにしたゴーレムだ。進化に必要な固有素材は「星空の破片」。特殊進化の固有素材の中で最も希少性が高く、そもそも存在すら知らない人が大半だろう。そんな素材を惜しげもなくロック・ゴーレムに与えたことが、デルタらから注目される理由にもなったのは前述の通りだ。
そんなこともあり、メテオ・ゴーレムはかなり優秀なモンスターだ。まず、飛行が可能であり、名を体現する落下攻撃は広範囲かつ威力も高い。だが、そんなことより遥かに大きく、目立たない特徴は自身の適性でない属性のスキルを覚えることがあるという点だ。プレイヤーはSPの節約などの恩恵がないが、そういったスキルを覚えることはできる。対してモンスターはそれらを覚えることはまずない。BOSSに関してはその限りではないことも多いが、少なくともフィールドに出現するモンスターにはない。だが、メテオ・ゴーレムは適性の土・金以外の属性スキルをいくつか覚えることが可能で、ポテンシャルはかなり高い。もっとも、それを活かせるかはプレイヤー次第だが。
「--- -----!」
[LUTTEEEEEEEEEER!]
メテオ・ゴーレムの落下攻撃はわらわらと集まってきたハープーン・スケルトンの群れを、隠れていた木ごとなぎ倒してしまった。それはある意味で惨状と呼ぶにふさわしい光景であった。そしてわらわらと復活しようとする頭部をケット・シーらが的確に潰していく。
「わ〜 どうしよう。なんか・・・すごいね。」
「ー!」
「イワン!! おめでとう!!!そして相変わらずカワイイ!!!」
メテオ・ゴーレムの見た目はロック・ゴーレムとさほど変わらない。色や模様が多少変わり、サイズが少し大きくなったくらいだろう。
「NHYAR!」「Tir-tir♪」「Loooo♪」「Beave!」
[LUTTER!]
「う〜ん、さっきから聞こえるこの声は何なんだろうね。地面から響いているような気がするけど、何か埋まってるのかな?」
「ーーー!」
「ま、いっか。木もたくさん持って帰っちゃおう!」
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「敵、だよね?」
「NHYARW…」「ーー」「Tirit!」「Loo!」「Beave!」
少女一行が発見したのは島の中央、木々が無くなり、開けたエリアでスケルトンたちに囲まれる形で静かに座る骸骨。明らかに他の個体とは異なる雰囲気とは反するように、その手に握られているのは釣竿と思しき何かであった。骸骨であるにもかかわらず、白髪と白髭が生え、肩や腰には蓑と思しき服の残骸を纏っている。
「よ〜し。先手必勝! イワン、【メテオインパクト】!! クー、【ストームエッジ】!! あんど~ 【スピアーレイン】!!!」
熱と質量の一撃が蠢く骸骨の身体を砕き、風の刃と水の槍がそれらすべてを塵と変える。しかし、その中央に座す釣竿を持つスケルトンにはダメージを受ける様子がない。戦闘開始前にはダメージを一切受けない仕様だ。
[ふむ。随分手荒なご挨拶だな?]
「え・・・あ・・・しゃべっっったぁぁぁあ!!!」
[そう驚くでない。]
「えっと・・・ごめんなさい?」
[ふはははは。謝る必要などない。この身が朽ち果てて幾星霜、我は待っておったのだ。かの日のように、悪餓鬼を誅し、帰城しようではないか!]
「え? やっぱり敵?」
[我が名はアイル・クリーク。心優しき悪童よ。姫と再び相まみえるため、死んでくれい!]
骸骨が釣竿を振るう。釣り糸の先端についている針は錨かのごとく巨大に変化し、少女たちへ襲いかかる。それを受け止めるメテオ・ゴーレム。けれど針に絡め取られ、遠くに飛ばされてしまう。
「イワン!!!」
「NHYARW!!!」
代わりに肉薄するのはケット・シー。先ほどの失態を挽回するべく、骸骨に斬りかかる。とはいえ、先のスケルトンの様に打ち勝てるほど弱い相手ではない。本来武器ではない釣竿だが、さながら槍かのごとく巧みに操り目に見えぬほどの攻防を行う。
「えっと~ どうしよう。う〜ん、とりあえずルルと私で回復して、トリィとビートは残りのスケルトンをお願い! イワンはどこまで行っちゃったんだろう?」
今まで少女が戦っていたBOSSはどれも巨体であり、鈍重であった。しかしアイル・クリークと名乗ったこのBOSSは人型であり背丈もさほど大きくはない。そしてケット・シーとの戦いは天と地を駆け回るように激しく素早い。今までのようにスキルを撃てば命中し体力を削れる、そんな相手ではない。そしてそんな状況でもあれば、当たらないこともあるし誤射もありえる。
[がっ! なんだこの痛みは!!]
この世界ではフレンドリーファイアという概念は無い。爆破などをのぞいて自身の攻撃が味方に当たることは無い。そして逆に治療スキルが敵に当たることもない。しかし一部の例外はある。一つはモンスターが治療を受け入れた時。それは例えば【テイム】だったりで役に立ち、傷ついた個体を手当てすれば当然【テイム】の可能性は高まる。
そして受容・拒絶にかかわらず死霊系統のモンスターは治療スキルの対象になる。このとき、治療スキルを受けると逆にダメージを受けてしまう。代わりに毒などの状態異常は無効化されてしまうが、当然このBOSSもそれは同様だ。ダメージ自体は大した量ではない。しかしこの僅かな間隙をケット・シーが見逃すことはない。
「NHYARW!!!」
「回復するとダメージ受けるんだっけ。そういえばそんなことが図鑑に書いてあった気もする! よし、トリィ【エアロヒール】! ルル【ヒールソング】!私も【バブルヒール】!」
三つの治療スキルがバラバラに放たれる。ケット・シーに当たったところで通常通り回復するだけだ。【ヒールソング】は広範囲に効果があるのでどちらの意味でも効果は期待できるだろう。
[糞餓鬼どもがあっ!!! 大人しく我に誅されておればよいものを!!!]
暫しの剣戟の後、回復がうざったくなったのだろうか。衝撃波を放ちケット・シーを吹き飛ばしたアイル・クリークの背から、巨大な白い翼が生えてくる。第二形態だ。翼を持つ骸骨の漁師、中々な絵面だが、その意味は大きい。
「わ! 飛ぶの!?」
[大人しくしておれよ。すぐに海の藻屑と変えてくれるわ。]
アイル・クリークが遥か上空で明らかな貯め動作に入る。掲げた釣竿を中心に空気が渦を巻き、暗雲が空を覆い、黒い稲妻が天を裂く。ケット・シーは【エアステップ】こそあるが、そこまで飛行能力があるわけではなく、トーチ・ラークは攻撃力に乏しい。そして他の面々の攻撃は届かない。今まで通りなら。
「イワン! お願い!!!」
「ーーー -----!!!」
巨大な隕石が骸骨漁師の上空から飛来し、地面に叩き落したのだ。無論メテオ・ゴーレムによる一撃である。そのチャンスを見逃す少女らではなく、治療スキルで動きを抑えつつ、数分後にはアイル・クリークは塵と化したのだった。
「やった〜! クー、イワン、ありがとう!!! トリィもルルもビートも頑張ったね!」
今回の戦闘で目立った活躍のないビルダー・ビーバー。だが仕方がない。そもそも造船特化のモンスターであるし、治療スキルを持たず、攻撃力では進化組に劣る。だが、この経験によって戦闘向きのスキルを習得するかもしれないし、いっそ生産系に特化するかもしれない。それこそがこのゲームの魅力である。
「お〜 釣竿だって! なんか凄そうだよ!!!」
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「荒波の釣竿」
区分:道具/釣竿
効果:
レアな魚・アイテムが釣れる確率上昇(大)
釣り速度上昇(中)
釣れた魚の数が二倍になる。
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「魚が二倍取れるんだって!!!」
「NHYARW!」「Looloo!」
[LUTTEEEEEEEEEEEEER!!!]
「え? 何?」
さて、お気づきの方がどれくらいいるのかはわからないが、アイル・クリークのモチーフは浦島太郎である。悪童、釣竿、城、姫、白髪と髭。最終段階での白い翼は、一説に浦島太郎が変じたとされる鶴が由来である。玉手箱を開け、老人となり、骸と化してなお乙姫に対する愛憎に囚われた浦島太郎、そんなコンセプトのBOSSである。
だが、浦島太郎の物語において欠かすことのできない存在が見当たらないようである。
「え? 動いてる?」
地が揺れ、波が立つ。この島は移動している。たしかに少女らは漂流の末この島にたどり着いた。しかし、この島もまた漂流しているのである。背に居座り続けた男を姫に近づけぬために。そしてその男が倒れた今、戻ることができる。今度は少女をその背に乗せて。
この島の正体はアイランド・タートル。
過去に子供により虐められていた亀は島と見間違うほどに大きくなってしまった。
浦島 → 島 浦 → isle creek → アイル・クリーク




