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兄弟のおかしな日常ー自由研究の真実とは?!

作者: かがりかい


(また何かやらかしたな)


 母の顔が般若みたいになって、弟が叱られているのを眺めていたら、どうにも可哀想になってしまった。何をしたのか知らないけど、まあ話くらいは聞いてやるか。


 空はまだ明るかったが、居間は弟のすすり泣きで少し暗い雰囲気だった。二時間近く叱られているらしい。腹の底から少し腕組みしてため息をつく。


「何をやらかしたんだ?」


 鼻をすすりながら弟は俯く。目は赤く腫れている。


「学校の女の子に、悪口を言っちゃった…」


(何を言ったのか気になるが、問いただすとまた泣き出しそうだな)


(まあ…聞くけど)


「何言ったんだ?」


 弟は言葉を選び、震える声で答える。


「その子が僕の自由研究をバカにしてきたんだ。だから言い返しただけなんだよ」


 一瞬で気持ちが収縮した。自由研究をバカにされて逆ギレ、って……どれだけヤバいこと書かれてるんだ、俺の自由研究って。


「見せてみろよ。」


 弟は不本意そうに、机から一枚のプリントを引き出した。


 表紙には「夏休みの自由研究 お兄さん観察レポート」と走り書きがある。


 ページをめくると、そこには驚愕の記録が並んでいた。


 俺の夏休みの行動が、時間割のように克明に書かれている——朝7時、起床。7時15分、朝食のパンを一口食べる。7時30分、食器を洗う(所要時間:6分32秒)。午後2時、近所のパン屋に立ち寄る(買う量:3斤)。夜10時、就寝(平均睡眠時間:8時間5分)。


(何これ……一日じゃなくて、一日毎日の記録が全部あるんだけど)


(しかもいくつかのパターンに分けて分析してる。実験材料かよ)


 ページのあちこちには図やグラフ、観察メモが挟まれている。俺が高校の補習をサボった日に関する二次分析まである。しかも「被験者A(兄)行動パターン:3種」とか書いてある。


「これ、母さんに見られたんじゃないのか?」


 弟はまた鼻をすすった。


「見られた……みたい。お母さん、お父さんとか学校の先生とか、いろんな人に見せちゃった…」


(こいつ……俺を実験台にして自由研究を作り上げていたのか)


(そして拡散してる……)


 想像してみろ。家族会議で「兄の一日」について真剣に討論されている図。心底、底知れぬ恐怖が胸に広がった。


「で、女の子には何て言ったんだ?」


 弟は目を逸らして、ぽつりと言った。


「お前も観察してやろうかって言ったら、泣いちゃった…」


(はあ?)


 解説しよう。弟の「観察してやろうか」は、要は「いつも何してるのか見てやるよ」という悪ふざけだったらしい。 


 相手の子は恐怖して泣き、保護者に話が伝わり、自由研究のレポートが家庭に回覧され、それが教師に行き、補習サボりの事実がバレて――結果:俺が叱られた。


「結局なんて言われたんだ?女の子に」


「その子が『お兄さんの夏休みの1日を自由研究にするのって頭おかしいんじゃないの?』って言ったから、僕が『じゃあ観察してやろうか』って言ったんだ…そしたら泣いた」


(もうどう返したらいいのかわからない)

(被害者って言っていいの、俺?)


 その後、母にレポートを見られ、補習サボりが発覚して大目玉を食らった。俺は、なぜかこの日、家族の前で最も叱られる立場に立っていた。


 弟はまだ鼻をすすりながら、「ごめん」と小さく言った。


「次からはちゃんと先生に相談しよう。自由研究はもう少し匿名でやれ」


 僕はそれだけ言って、弟の頭を軽く撫でる。彼は照れたように顔を上げ、少し笑った。


 母の般若はまだ居間の隅に居座っているが、今日はそれでも何とか丸く収まりそうだった。


(結局、俺が一番被害者だな)


 そう心の中で呟きながら、僕はもう一度レポートの最後のページをめくった。そこには小さなメモがあった。


「追加実験:お兄さんに朝ごはん作らせると家族の幸福度が+17%」


(……くっそ、やるなコイツ)


――僕は笑いを堪え、皿を洗いに台所へ向かった。



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― 新着の感想 ―
極上の自由研究となっています 末は博士か……と言ったところでしょう
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