幼馴染もいます
「オマエ、ランクいくつだ?」
「一応、900です」
「900ぅ? んだよアタシより上じゃねぇか」
「えと、この前の経験値二倍であげまして」
「ま、すぐ追い抜いてやんよ」
そんなわけで、二周年記念マルチガチャを引いた。結論から言うと、あたりもあたり、大当たりで滝尾さんはめちゃくちゃ喜んでた。結構大きめにガッツポーズとってて、僕のイメージからちょっとずれてた。別におかしかったわけではなく……いやおかしいのか?
ともかく面識を得たばかりのヤンキーの新たな一面を知った僕なのであった。
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校舎を出ると涼しい風が吹いていた。季節は五月の半ば、17時にもかかわらず外はまだ明るい。一月前の入学式と比べてもだいぶ日が長くなっているようだ。
心地のいい初夏の空気を感じつつ、いつものバス停に向かうため歩きだす。
ほどなくして、ぽん、と肩を叩かれる感触。
「やっほー。一緒にかえろ?」
僕の隣に並んだのはポニーテールがトレードマークの幼馴染――磯峰美那だ。1年の中でかわいいという評判があるそうだが、正直幼馴染なのでよくわからん。まぁ、美容院に通っているのか艶のある黒髪は綺麗だし、薄い化粧を施した面は悪くはない……と思うが。
僕は彼女の提案に明確な返事をせず、歩き出す。小中高とつるんできたこいつとはそんなやりとり必要ないのだ。
そういえば、今日は部活ないのかな? 美那はバスケ部に所属していて、グイグイと突っ込んでいく点取り屋タイプらしい。うちのバスケ部は強豪で、毎日練習があるのは有名な話だ。
「部活はどうしたんだ?」
「今日はなし。コーチがたまには休めって。……あっ、もしかして見にきてくれるつもりだった? いつもこんなに遅くまで残らないよね?」
美那はニマニマと悪い笑顔を見せてくる。
「別にそんなんじゃないってば。見にいく必要もないだろ」
「……えいっ、えいっ」
「ちょ痛っ! なにすんだよ!」
ふくらはぎを強めに蹴られ、僕はバランスを崩しかけてよろめく。
「べつにー。ちょっとムカついて、あんたの足を使い物にならなくしようとしただけ」
「笑えない冗談言うのやめてくれよっ。理不尽すぎる仕打ちだぞ」
「あはは、冗談だよ。なに〜? 本気で怒ってると思ったの?」
口許に手を当てて、美那はぷぷぷと笑う。冗談、にしては笑えない痛さだったのですがそれは。
美那は昔から機嫌が悪いとすぐに手が出るのが悪いところだ。試合に見に行かなかった時や遊びの誘いを断ったあとは機嫌を損ねるようだが、ぶっちゃけそこまで気を悪くしないでもいいだろうにとは思う。
僕はとりあえず静かに抗議の視線を向けるも、美那は普通にスルーして、話題を元に戻す。
「じゃあさ。なんで学校に残ってたのさ」
「それは……滝尾さんとゲームをしてたから」
絡まれていた、と言った方が正しかったかな。美那は目をパチクリとさせる。
「滝尾さんって、髪を金に染めてる綺麗な子だよね? その子とアンタが?」
「すごく怖かったんだからな。僕がサンダムのゲームやってると知ったら、肩組んで連れ込まれた」
「えまって! 肩組んだの?」
「そうだけど」
なぜかすごい剣幕で訊いてくるので、若干気圧される。なんなんだ一体。
「肩組んだ時、胸が当たったでしょ」
「む……っ! なんてこと聞いてくるんだよ」
「当 た っ た ん で し ょ ?」
「……いやまあ、不可抗力でして。だから変な目で見ないでくれ」
確かにぽよんと柔らかい感触はあった。だからって、僕を痴漢みたいに思わないでくれよ。普通に傷つく。
「別に見ないって。天森司くんは男の子だもんねー。女子のそういうところが気になるお年ごろだもんねー」
「僕のフルネームを大きな声で言わないで」
もちろんこの幼馴染は僕の懇願には付き合わず、「胸―、胸―」とまぁまぁでかい声で言い続ける。ぐぬぬ。
しかし途中からは飽きたようで、すっぱりと胸を連呼するのをやめて、こちらを向く。
「ね、あたしの胸を触るのじゃダメ?」
思わず噴きそうになった。
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