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静謐な紅の森・異聞抄 破 ― 沈黙の侵食
彼らは、進んだ。
だが、森は変わらなかった。
景色は同じ、空気も同じ。
歩いても歩いても、木々の並びすら変わらない。
「……どうなってんだ。地図は合ってるか?」
「方角は合ってる。問題は“森のほうが動いている”ってことだな」
苛立ちと猜疑が混じり始めたとき──
一人の男が、ふと振り返った。
「……おい、あいつどこ行った?」
狩人の姿がなかった。
名を呼ぶ。声を張る。
だが、返事はない。
彼が歩いていたはずの場所には、
ただ、一本の紅葉した若木が立っていた。
根元には、血の跡も、足跡もなかった。
傭兵が身構える。
錬金術師が呪符を握る。
「化け物か……? 違う、気配がねぇ。音もねぇ……」
「おかしいな。何も“されてない”……。だとすれば──」
森はただ、
その存在を“なかったこと”にしたのだ。