◇《数年後 ─ 帰郷》
風が、優しく花の香りを運んでくる。
緑深まる谷あいの村に、あの日旅立った三人の姿があった。
背は少し伸び、目には迷いのない光が宿っている。
家の扉を叩いたとき──懐かしい声が弾ける。
> 「アリシア!? 本当に、あのアリシアなの!?」
「イリス、おかえり……もう、心配させて……!」
「セイル……よく帰ってきたな。立派になって……!」
笑顔と涙がいくつも重なり、
抱き合ったまま、誰も言葉が出せなかった。
家族のぬくもり、懐かしい土の匂い、焼きたてのパンの香り。
旅の中で幾度も思い出し、そして励みにしてきたものが、
いま、すべて確かに、ここにあった。
---
◇《静かな時間》
数日だけ、三人は村でゆっくりと過ごした。
畑を手伝い、川で洗い物をして、星空を眺める夜。
イリスは母の作るシチューを涙ぐみながら食べ、
アリシアは昔のアルバムを見て笑い、
セイルは父と無言のまま釣り糸を垂れた。
精霊たちもまた穏やかな顔で寄り添い、
静けさの中で、彼ら自身の記憶を揺り起こしていた。
---
◇《新たな旅の始まり》
そんなある朝、丘の上で三人は肩を並べていた。
風が吹く。──あの日と同じように。
> アリシア:「帰ってきてよかった。でも、私……まだ知りたい」
セイル:「ああ。世界は広い。まだ見ぬものが、きっとある」
イリス:「……みんなと一緒なら、どこへだって行ける」
後ろで見守る家族たちが、そっと手を振った。
彼らはもう、心配ではなく──誇りと信頼のまなざしで見送っていた。
精霊たちもその背後に光を宿し、囁くように言った。
> ミュレナ:「風は、また旅立ちを告げる」
フィリュア:「この地を愛しながら、未来へ進め」
ゼオル:「旅は終わらぬ。我らが共に在る限り」
そして三人は、歩き出した。
やさしい別れの先にある、新たなる世界へと──
---
◇《そして──》
どこかの空の下で、
誰かが今日も物語を始めている。
イリス、アリシア、セイルの物語は、
終わりではなく、“続いていく”。
彼らが歩く限り。
想いが結ばれる限り。
未来はいつだって、扉を開いて待っている。