第12章:重なる唇、目覚める記憶(再調整版)
焚き火の明かりが、ぱちりと音を立ててはぜた。
深い森の奥――クラリッサと夢音は、誰にも邪魔されない場所にいた。
「……ねえ、クラリッサ」
夢音の声は、今までよりも低く、どこか震えていた。
だがその目は、まっすぐ彼女を見つめている。
「オネェな今の姿で言うのもアレだけど……俺、お前を初めて見たときから――」
一拍。
「ずっと愛してたんだ」
クラリッサの目が見開かれた。
「え……?」
「一目惚れだった。はじめて目が合った瞬間、あの笑顔に撃ち抜かれた。胸が苦しくなって、何があっても守りたいって思った」
クラリッサは、信じられないというように、首をふる。
「……私、そんな……あなたと出会う前から、ずっと夢に見ていたの。だから、自分の方が先だと思ってたのに……」
「夢の中でも見てた。でも“本物”のお前を見た瞬間、決まったんだ。ああ、俺はこの人に恋をしたって」
夢音はゆっくりと、クラリッサに歩み寄る。
ふたりの距離が、触れられるほど近づいた。
「……キス、してもいい?」
「……うん」
クラリッサの答えは小さく、でもはっきりとしていた。
ふたりの唇が、ゆっくりと重なる。
時間が、止まった――かに思えたその瞬間。
まばゆい光が、夢音の身体を包み込む。
「っ……! な、なに……!?」
クラリッサが驚きの声をあげる。
光がやみ、そこに現れたのは――
高校の制服を着た、スッとした顔立ちの少年。
黒髪に前髪、眼鏡の奥の知性を宿した瞳。
夢音とはまるで別人――**“村上宗谷”**だった。
「これが……俺の本当の姿。名前は――“村上宗谷”」
前世の記憶が静かに戻ってくる。
高校時代の思い出、夢に現れた少女――
そして、それが今ここにいるクラリッサだったこと。
「運命だったんだな、きっと。あの時から」
クラリッサの頬を涙がつたう。
「……宗谷……キスして、また変わるの?」
「試す気か?」
宗谷が冗談めかして笑った。
クラリッサは、ぴと、と唇を重ねてみせた。
――何も起きない。
「……ふふ。宗谷形態なら、キスし放題なのね」
「やめろ、なんか恥ずかしいから!」
「でも安心した。あなたが、あなただってわかったから。もう迷わない」
宗谷は頷いた。
「俺も。もう……誰にも、お前を渡さない」
――ふたりの唇が、もう一度、静かに重なった。