第1章:重い胸と、好みの“お姉さん”。
『転生したら、やたら胸が重かった件。』
第1章:重い胸と、好みの“お姉さん”。
目が覚めた瞬間、まず感じたのは――胸の重さだった。
「……ん?」
草の匂い。見上げれば、金色に霞んだ空。
どこか幻想的な、見知らぬ風景が広がっていた。
そして空には、鳥じゃない“何か”が翼を広げて飛んでいる。
「え、ここどこ……?」
寝起きの頭で状況を整理しようとして――
自分の体に、ありえない“違和感”を覚えた。
「……え?」
胸が……ある。しかも結構、立派に。
髪は肩まで伸びて、声もやけに高い。
手を見れば、小さくて白くて――華奢だ。
「ええええええええええぇぇぇぇっっ!!?」
さっきまで高校の教室で昼寝していたはずの、
ガリ勉男子・村上宗也は、
異世界で、美少女になっていたのである。
◆ ◆ ◆
「しっかりしなさい。生きてるだけでも運が良かったんだから」
しばらくして、意識がハッキリしたとき。
隣には、鎧姿の女性がいた。
長い銀髪、蒼の瞳、引き締まった体躯。
その胸元からは、控えめながらも大人の色気が漂っていた。
(な、なにこの人、どストライクなんだけど!?)
「……あ、あの、助けてくださってありがとうございますっ!」
夢音――いや、宗也は、必死に表情を整えた。
だが、目線が勝手に彼女の胸元へ、喉元へ吸い寄せられてしまう。
「私はクラリッサ。王国騎士団の者よ。貴女の名前は?」
名前……?
一瞬迷った末に、口が勝手に動いた。
「……夢音です。“夢見る音”って書いて……夢音って呼んでください」
そう。女子の姿でも、性癖はそのまま――
“前世の性癖を持ったまま”美少女になってしまったのだ。
「ふふ、可愛い名前ね。夢音ちゃん」
笑顔が、破壊的だった。
「年上」「美人」「騎士」「ちょっと怖そうなのに優しい」――
属性フルコンプリート。
(ダメだ、この人に惚れそう……いや、もう惚れてる……!)
だが、この世界はそんなに甘くない。
クラリッサがふと表情を曇らせる。
「最近、“不明転移者”が多いの。貴女、なにか思い当たることは?」
夢音は答えられなかった。
答えたくなかった。
――まさか、自分が“男だった”なんて、言えるはずがない。
そんな夢音を見つめる誰かの視線が、空のどこかにあった。
「君は、何者なんだろうね?」
それはまだ知らない“誰か”の声。
この転生が仕組まれていたことも、
クラリッサの過去が世界の秘密に関わっていることも、
そして――
恋心が、本物になってしまう未来も。
To be continued…