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妹が王太后のお茶会にいくので Side:David

 私のかわいい妹、シャーロットが、かつてパラディオの女傑と呼ばれた王太后のお茶会に招待された。

 先日の孫の非礼のお詫びと、これまで誠心誠意尽くしてくれたことに対する礼をしたい。

 そう書かれていた招待状を読んで、私は苦い顔を隠しきれなかったが、シャルはすぐに覚悟を決めた顔で、招待の礼と参加の返事を書いていた。

 

「これからもパラディオにいるのだから、招待を断るなんてできないじゃない」

 

 こういうのは思い切りが大事だと思うの。そう言ったシャルの凛々しさと言ったら、神々しささえ感じて涙が出るかと思った。


「レイ。付き添ってくれない?」

「……あぁ、わかった」

「ちょっと待ってくれ」

 

 聞き捨てならない話に思わず椅子から立ち上がる。

 

「なぜ? レイなんだい?」

 

 端的に聞くと、シャルは不思議そうな顔をして首をかしげる。

 

「舞踏会であんな啖呵を切った兄さまを連れて行けるわけないじゃない」

 

 レイも当たり前だろと表情だけで語っている。

 確かにやりすぎた自覚はある。しかし後悔はしていない。ただ、シャルをあんな目に遭わせたあのバカ王子を衝動的言動で完全に吹き飛ばしてしまったのは反省している。反省はしているんだ。

 だから、私を連れて行ってほしい。そう願いたかったが、少し持ち合わせていた兄の矜持と友の今のところ脈が一切ない恋路を少しくらい応援してやろうという慈愛の精神で抑え込んだ。

「しょうがないね。気を付けて行っておいで」

 私の顔が相当ゆがんでいたのだろう。レイの憐れむような顔がやかましい。すると、シャルが私の顔を心配そうにのぞき込んで、そんなに落ち込まないでと慰めてくれた。

 レイの眉間にしわが寄る。アプローチもまともにできない男が兄に嫉妬なんてするんじゃない。慈愛の心をもってしてもこれは許してやらないぞ。


「レイ、私は()だからな」

「はぁ……」


 笑って言ってやると、レイの顔が心底嫌そうな顔になる。きょとんとしたシャルもやはりかわいい。


 *******

 

 しかし、お茶会が近づくにつれて、シャルもだんだんと緊張してきたようだった。

 当日になっても緊張しっぱなしだった。準備を終えレイを待つこの瞬間ですら、手を握ったり開いたりと落ち着かない。

 それはシャルだけではなくレイも一緒だったようで、屋敷に来た瞬間から緊張していることがわかるくらいガッチガチである。

 

「レイ、私、どこも変じゃないかしら?」

「大丈夫。いつもどおりかわいい。君は完璧なレディだよ。というか俺は大丈夫か」


 思わず笑いそうになるのをこらえた。レイが緊張しすぎて冷静な判断を失っている。いつも言えないことを口走っていることにも気が付かず、自分の服装を気にかけている。

 着飾ったシャルと一緒に行けないのは残念だが、ここまで緊張しまくっているレイが見られるのも珍しい。今回は私が行かなくてよかった。


「大丈夫よ。最高にかっこいい」


 前言撤回。うらやましい。

 

 しかし、レイは緊張で何を言われたのかわかっていない。ありがとうと形だけの礼を言って落ち着かない様子だ。

 なんてもったいないことを。レイのこれから先の人生であるかどうかわからない貴重なシャルからのかっこいいだぞ!


 ――しょうがないね。


 私は大きく息を吸う。2人につられて私も呼吸が浅くなっていたようだ。

 

「2人とも。落ち着いて」


 シャルの手に触れる。この緊張は両国の未来を切に願うからこそだろう。引き金を引いたのは私だから、少し心が痛む。


「大丈夫さ。シャル。なんてったって君は私の妹だからね」


 私がそう言うと、シャルは顔をきょとんとさせてそのあと笑った。シャルの緊張は少しほぐれたようだった。


「レイ、シャーロットを頼む」


 レイにはこの言葉だけで十分だろう。レイは万全の状態であれば大体のことは場当たりで何とかできる。

 そして、シャルが絡めば大体のことはぶん投げて万全の状態になるのがこの男だ。


「……あぁ。すまなかった。シャーロット、行こうか」


 やっと通常運転に戻ったレイが、シャルをエスコートして馬車に乗り込む。

 馬車はゆっくり走りだし、門を出ていく。門前に元王子の姿はない。

 私は馬車が見えなくなるまで見送り、手を振っていた片手を降ろす。


 ――さぁ、今日も私にできることをしようか。


 


 

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