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王子だったはずなのに Side:Ian

 王城から騎士が迎えに来た。服装を整えてついてきてくれ、そう言われて一度も自分で来たことがないあの服を何とか自分で着た。

 連れてこられたのは子爵の屋敷。名前は忘れたが、かつて、私の前によくあらわれ、殿下は王になるべき人だとよく言っていた男だ。


「時が来れば、王城へおつれいたします」


 そう言って子爵は甲斐甲斐しく俺の世話を焼いた。久しぶりに快適な生活を送れていた。


 しかしそれも数日と続かなかった。

 騎士が屋敷に突入してきて、子爵を王家反逆罪で連れて行った。俺は着の身着のまま、たまたま見つけた隠し通路で外に出て助かった。

 俺には神が味方している。


 しかし、神は思ったよりも優しくはないらしい。

 数日歩いても元の家にたどり着かない。そもそも、家の場所がどこかも、今歩いている場所がどこなのかも、わからないので誰に聞いてもわからない。

 というか、俺の住んでいる場所をなんで俺に教えておいてくれないんだ?

 そう思っていると、そういえば、執事には家の場所には数字が割り振られていると話していたことを思い出した。

 まぁ、数字なんて覚えられるわけがないと一蹴してやったが。



「こんなところでどうされているんです?」


 行くあてもなく疲れて、地面にうずくまっていると、俺の前に荷馬車が止まった。

 平民の男が下りてきた。俺と同い年くらいか。


「行くあてないなら一緒に来る? ここにいたら衛兵に連れて行かれちまうよ」

 

 衛兵に連れて行かれたほうが話が早いかもしれない。一瞬そう思ったが、最初にイアンであると告げて保護を求めた衛兵に不審者扱いされたことを思い出して諦めた。

 男に言われるがまま荷馬車に乗り込み、向かった先は、王都の端にある貧民街。

 ぼろぼろで人が住んでいるかもわからにような家が並ぶ、その中でもまだましな家に案内された。


「俺しかいないから、好きにしてくれ」


 そう言われて、隅に置かれていた椅子に腰かける。バランスが悪く重心が少しでも動くとガタガタと音を立てる。


「お前、いいとこの坊ちゃんだろ」


 男にそう言われてムッとする。馬鹿にされていることはわかる。


「んだよ。別にいいだろ? そんなかっこで真夜中にあんなとこいたんだ。訳ありなことぐらいわかるわ」

「だから、なんだというんだ」


 そう答えると、男はわかってねぇな、と首を小さく横に振る。


「お前、いい金になるんだよ」

「は?」

「貴族の坊ちゃんってのは存在だけでいろんな価値があんの。頭が悪ければより使い勝手がいい」

「価値? 使い勝手?」


 繰り返すと、頭の悪い貴族の坊ちゃんか、いいね、と笑われる。


「まぁ、実際に体験すればいいさ」


 男の笑顔に背筋が凍る。

 部屋の奥から物音がする。


 そちらに意識をやった次の瞬間。頭に強い衝撃を受けてオレは地面に倒れこむ。


「よし、いいぞ。お前ら。連れて行こう」


 男が誰かを呼びかけている。


「貴族の坊ちゃんってどこに売れるんだ?」

「さぁな? 西の方にでも連れて行けばいいんじゃないか? もの好きが多いだろ、あの辺」

「あぁ、今回はもう買い手決まってんだ。そいつんとこに届けておしまい」

 

  そんな会話と、数人の男が奥から歩いてくる足が見える。

 痛い。

 なんで俺がこんな目に遭わなければならないんだ。怒りなのか、視界が真っ赤にぼやけていく。


「随分、派手にやってるじゃないか。死なねぇ? ほら目の周り真っ赤」


 男たちの笑い声が響く。


 こいつら、王族に、いや、俺に、こんなことをして許されると思っているのか。

 そう叫ぼうとしても口がうまく動かない。


「かまわないさ。こいつの状態に何も指定はされていない。国のお偉方は、こいつの処分をお望みらしい。一体、何したんだかね」


 俺は何もしていない。俺は何も悪くない。

 そう言おうとも口は動かない。


 意識が遠のいていく。

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