ツン100%だった幼馴染がとあるきっかけでデレ100%になった話
俺には数日前に誕生日を迎えた幼馴染の女の子がいる。そして、今日はその幼馴染とお酒を飲むという話になったのだが……、
「来るのが遅いわよ、ノロマ」
開口一番でこの台詞である。まあ、とりあえず軽く謝って流しておくか。
「……悪かったな、璃桜」
「まあ、いいわ。ぼさっとしてないでさっさと上がりなさい、太一」
家主の許可も出たので、俺は璃桜の住んでいるマンションの一室へと上がり込む。そして、少し部屋で待っているとビール缶を何本も抱えた璃桜が入ってきた。
「ったく、今日は何をするか分かってるんだから手伝いに来なさいよ。あんたってホントに使えないわね」
「へいへい、それは悪うございました」
俺は適当に謝罪をしながら璃桜が抱えているビール缶を受取りテーブルへと置く。いや、手伝うという発想はあったんだけど、その気が起きなかったんだよなあ。だってこいつ、俺に対してだけ口が悪いんだもん。
「つーかさ、20歳になったからお酒を飲んでみたいっていうのはいいけど、別に俺はいらなくね?」
「はあ? あたし1人で飲んでもし何かあったとき、誰か人がいないと困るでしょ?」
「それなら友達と飲めばいいだろ?」
「それだと、友達に迷惑がかかるじゃない」
「俺にはかけてもいいのかよ……」
その理不尽な物言いに俺はついため息をついてしまう。
「いいじゃない。あんたみたいな冴えない男がこんなに可愛い女の子と2人きりでお酒が飲めるのよ。あたしと幼馴染であることに感謝しなさい」
「ソウデスネ、カンシャシテマス」
俺の露骨な棒読みに対し、璃桜は俺のことを不満そうにキッとにらみつける。まあ、本人の言う通りこいつ見た目はいいんだよなあ。顔は童顔で可愛らしく、髪はきれいな金髪のツインテール、さらに出るところは出て、しまるところはしまってる理想的な体型。ぶっちゃけた話、外見だけなら俺の好みドストライクである。
「なにジロジロ見てんのよ。キモッ」
……それなのに、内面はこれである。正直なところ、璃桜と話しているとかなりイラッとすることもある。にも関わらず、俺がこいつと友人関係を続けてるのは、こいつが幼馴染で妹みたいなもんだから、なんだかんだ放っておけないせいだろう。
「じゃあ、時間がもったいないしそろそろ飲むわよ」
「ああ、そうだな」
そうして、俺達は互いにビールを飲み始める。だが、璃桜はビールを一口飲んだだけでうえっと嫌そうに舌を出した。
「なにこれ、にがっ」
「まあ、初めて飲んだならそんなもんだろ」
「……あんたは平気そうね」
「俺は何度も飲んだことあるし、なんならこれくらい一気飲みもできるぞ。まっ、お前には無理だろうがな」
普段きつく言われたり雑に扱われる仕返しとばかりに、俺はつい煽るようなことを言ってしまったのだが、それがいけなかった。
「……へえ、言ってくれるじゃない」
「えっ、おい!? やめろ、璃桜! そんなことしちゃいけない!」
だが、そんな俺の制止の声は虚しく響くだけで璃桜には届かず、俺が璃桜からビール缶を奪い取って止めるころには、かなりの量を飲んでしまっていた。
「おい、大丈夫か!?」
「れんれんへ~きよぉ~」
「どう見ても平気じゃねえな……」
どうやら、璃桜はかなりお酒に弱いようであっという間に酔いが回ったのか、口調はすでにおかしいし、顔は真っ赤になっていた。
「璃桜、身体のほうはどうだ? 苦しかったり、吐き気とかあるか?」
「うん~、にゃい~」
「本当か? なにかあったら言えよ」
「うぇへへ~」
「なんか嬉しそうだな。どうした?」
「たいちが~やさしいな~って」
「そりゃまあこの状況だしな」
「たいちの~しょんなところがすき~」
「………………は?」
俺は璃桜の思わぬ言葉に耳を疑った。普段、あんなに態度が悪いこいつが俺のことを好き?? ……ああ、あれか。酔っ払っておかしなことを言っているか、あるいは、
「人として好きってことか?」
「ちがうよ~、れんあいのすきだよぉ~」
「……マジで?」
「まじだよ~。そのしょ~こに~、このかみとか~、たいちのこのみにあわせたんだから~」
そう言って、璃桜は嬉しそうにニコニコしながら、自分の金髪をつかんで俺の目の前に掲げて見せた。
「しょれに~、ふとらないよ~に、あまいものとか~きをつけてるんだかりゃ~」
それらを聞き、俺の心臓がドキリと跳ねるのを感じた。どうやら、璃桜が俺のことを好きだというのは本当らしいし、なんなら俺の好みに合わせるために頑張っていてくれたようだ。けど、それなら、
「……なんで普段は俺に対して態度が悪いんだ?」
「らって~、しょうしないと~、すきってばれそうなんだもん~」
なんか、好きな女の子に意地悪をしてしまう小学生男子みたいな回答が来てしまった。だが、まあそれなら確かに筋は通っているな。さてどうしたもんかと考えていると、璃桜が口を開いた。
「ねえねえ~、たいちは~、あたしのことすき~?」
「えっ!? いや、俺は……」
「……きらいなの?」
璃桜は不安げに俺の顔をのぞき込む。その目はすでにうるうるしており、ここで嫌いとか言ってしまったら間違いなく泣き出して大変なことになるだろう。
「いや、嫌いではない」
「じゃあ、すき?」
「……えーと」
「……やっぱり、きらいなの?」
ああ、なんか璃桜がめんどくさいことになってる。また、目がうるうるしてるし、これ好きって言わないと駄目なパターンじゃない? でも、さすがに嘘をついて好きって言うのはなあ。…………そうだ、嘘をつかずに好きって言えばいいんだ。
「……そうやって、素直に俺のことを好きって言ってくれてるところとか、可愛くて好きだな」
「やった~~~」
俺の言葉を聞いて、璃桜は思いっきり俺に抱きついてきた。やばい、なんか色々と柔らかいし、すごい良い匂いがする。
「ねえ、もっかいすきっていって~」
「いや、それはさすがに恥ずかしいというか……」
「……うそだったの?」
「いやいや、嘘じゃない! そうやって抱きついてるのとか、俺に甘えてるみたいで好きだから!」
「うわ~い、あたしもだいすき~~~」
ふう、危なかった。なんかやばそうな感じだったからつい思ったことを口走ってしまったが、璃桜のほうは別に気にしてなさそうだし大丈夫みたいだ。
「ところで、そろそろ離れてもらいたいんだが……」
「………………」
「璃桜?」
返事がないのが気になって璃桜の顔を見てみると、スースーと寝息を立てて眠っていた。よし、これで一応は落ちついたし、璃桜はベッドに運んでおけばいいだろう。で、俺のほうは……、ソファーがあるからそこで寝るか。人の家に勝手に泊まるのはまずいとは思うが、この状態の璃桜を放置して帰るほうがまずい気がするしなあ。
そして、翌朝になり先に目が覚めた俺が璃桜の様子をうかがっていると、割とすぐに璃桜も目を覚ました。
「えーと、おはよう」
「………………え、あんたなんでここにいんの?」
「それについてなんだが、昨日のことを覚えてるか?」
「え、昨日? 昨日は確かあんたとビールを飲んで…………………………」
璃桜は数秒間フリーズし、その間に顔がどんどん赤くなっていった。その反応をみるに、残念ながらお酒で記憶を失うようなことはなかったようだ。そして、完全に顔が赤くなった璃桜は毛布を頭からかぶってベッドに倒れこんだ。
「いやあああああーーー!! 死にたいーーー!!」
「おい、落ち着け」
「あたしのバカーーー!! 死ねーーー!!」
「だから、落ち着け」
当然、璃桜は落ち着くわけもなく、全身をもだえさせながら苦しんでいた。ああ、マジでどうしよう、この状況……。
「あああああ、なんでこうなるのよーーー!! 太一に告白できないから、お酒の力で襲うなり襲われるなりして既成事実を作って、無理矢理にでも恋人になろうっていう完璧な作戦のはずだったのにーーー!!」
……どうやら、璃桜は動揺しすぎて俺の存在を忘れたらしく、なにやら完璧に頭の悪い作戦を大声で叫んでいた。いや、お前はそれでいいのかよ。まあでも、昨日の発言も踏まえると、それでいいくらいには俺のことが好きなんだろうな。そうなると、対処法としては……。
それから数十分たって璃桜の叫びと動きが止まったので、少しは落ち着いたと判断し俺は声をかける。
「まあ、あれだな。昨日のお詫びとして、俺はお前の言うことをなんでも聞くから」
その言葉に璃桜の身体がピクッと反応した。思った通り効果があるようだ。
「……ホントになんでも?」
「まあ、俺のできることなら」
「……少し考えさせて」
「分かった」
そして、しばらくして考えがまとまったらしい璃桜が毛布をかぶったままの状態で話し始める。
「……ねえ、仮でいいから、その、……付き合ってほしいって言うのはあり?」
「なんでもって言ったからな。当然ありだ」
「……そう。なら、あたしも覚悟を決めたわ」
その言葉のあと、璃桜はベッドから出てきて俺の前まで来る。そして、突然俺に抱きついてきた。
「ちょ!? 璃桜!?」
「あたし、太一のことが好き」
「き、急になにを!?」
「だって、太一はこういうことされるのが好きなんでしょ?」
そういえば昨日、『素直に好きって言ってくれるところが可愛くて好き』とか、『抱きついてるのを甘えてるみたいで好き』って言ったな。
「だから、太一に好きになってもらうために、これからはこういうことを積極的にしていこうと思ったの」
「そうか……」
璃桜はそうは言ったものの、まだ恥ずかしさが大きいのか割とすぐに俺から離れる。そして、頬を赤く染めながら右手でビシッと俺のことを指差した。
「そういうわけで、これからのあたしが太一にしていくことはあんたが好きだからするんだからね! 勘違いしないでよね!」
璃桜がそんなことを宣言していたが、照れ隠しで言ったせいなのか日本語がちょっとおかしい気がする。いや、それ勘違いのしようなくない? まあ、可愛いからいいか。
*****
それからは本人の宣言通り、璃桜の俺への態度の悪さはすっかりなりをひそめ、素直に気持ちを伝えてきて甘えてくる可愛い女の子になっていた。
例えば、大学では、
「はい、これお弁当。この前言った通り作ってきたの」
「おっ、ありがとな」
「うん、それじゃあ、……はい、あ~ん」
「なっ……! まあ、人目がないからいいけど」
「どう? おいしい?」
「ああ、美味い」
「えへへ、良かった~」
デートをしているときは、
「さあ、行こっ、たーくん」
「……あの、人目もあるし腕に抱きつくのはちょっと。あと、たーくんって……」
「だって、こうしたいんだもん。たーくんは嬉しくないの?」
「……いや、まあ、嬉しいけど」
「うんっ、あたしも嬉しい!」
家で2人きりのときは、
「ねえ、たーくん。お願いがあるんだけど……」
「ん? どうした?」
「いつもあたしから抱きついてるけど、たまにはたーくんからギューッってしてほしいなって思って」
「……まあ、いいけど。……こ、こんな感じか?」
「うん、とっても嬉しい……。あ、それとね、たーくん」
「なんだ?」
「大好きだよ」
*****
そして、数年後。
「お帰りなさい、あなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも……あ・た・し?」
「最初が風呂で次がご飯かなあ」
「うう……。結婚したのにあなたにとってあたしはその程度なのね……」
「いや待て、違うぞ。俺は楽しみを最後にとっておくタイプなんだ」
「……もうっ、あなたったら意地悪。でも、そういうところも好きっ!」
そう言って、璃桜は俺に抱きついて嬉しそうに顔をうずめる。もう俺と結婚までした以上、甘えたりなんだりは必要ないはずなんだが、もはや当初の目的とは関係なく本人はそうしたいようだ。まあ、俺も嬉しいからいいんだけど。
「あっ、そうだ。今日は金曜日だからお酒を飲むわよね? あなたの好きな物を買ってあるわよ」
「おっ、気が利くな。ありがとな、璃桜」
「えへへ、どういたしまして。……それで、良かったらあたしも少し飲んでもいいかな?」
「えっ……と、それはなあ……」
璃桜のその言葉に俺はどうすべきか迷う。昔と違い、璃桜がお酒を好きになったのはいいが、あの頃と3つほど変化がある。それを踏まえると、あまり璃桜にお酒を飲ませたくはないんだよなあ。
「ねえ、お願い。少しだけだから」
甘えるような声を出しながら、璃桜は俺の右手を両手で包み、上目遣いでおねだりしてくる。……はあ、そうやって可愛く頼まれたら断れるわけがない。
それから、風呂とご飯を済ませお酒を飲み、俺達は寝室にいる。ただし、ベッドで寝ているのではなく、俺は床に正座をしていた。いや、させられていた。
「あなたってホントに給料安いわよね。この甲斐性なし!」
「すいません。でも、まだ入社して数年なので……」
「言い訳してないでさっさと出世しなさい!」
「あ……、いえ、はい、頑張ります」
1つ目の変化として、璃桜は酒を飲むと俺に悪態をつくようになってしまった。たぶん、俺に素直に甘えるようにした反動なんだと思う。ただ、2つ目の変化として、酒を飲むとその際の記憶を失うようになったのは幸いだった。きっと、こんな記憶が残っていたら、璃桜は死ぬほど落ち込むと思うから。そして、3つ目の変化は、
「なに笑ってるの? キモッ」
「ありがと……じゃなかった。すいません」
ずっと甘えられてきた反動だろうか、最近の俺は璃桜にこうして罵られるのも悪くないと思ってしまっている。なんかMに目覚めそう。いや、もう目覚めてるな、これ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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