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100歳アイドル

作者: アカイノ

 伝説の3人組アイドルがいた。

 グループ名はBeauty。

 

 彼女たちが伝説になったのは、顔が美しかったからでも、ダンスが上手かったからでも、歌が上手かったからでもない。

 彼女らが伝説になったのは、これまでのアイドルがしてこなかったあることをやったからだ。


 Beautyが残した伝説。

 それは、100歳になるまで現役のアイドルを続けたことだ。

 

 平均年齢20歳。

 多くが5年以内には業界から出ていくと言われている。

 それが200年以上変化しないアイドル業界の厳しい現実。


 彼女らがデビューしたのは15歳のこと。

 つまり単純計算して85年に及ぶ現役生活。

 アイドルとして当然異常だし、仮に他の業種だとしても、いや、そもそも85年もの間何かを継続すること自体が普通の人間には無理な話だろう。

 

 その85年にも及ぶアイドル活動。

 このあまりに長い現役生活についに終止符が打たれた。

 

 理由はBeautyのリーダーである雪宮牡丹(ゆきみやぼたん)が先日老衰により亡くなったからだ。これにより、Beautyのメンバーはただ1()()紅葉燈(もみじあかり)のみとなった。


 それでも、雪宮牡丹が亡くなって数日後の記者会見で、ただ1人となった紅葉燈はBeautyとしての活動を継続するとのことであった。その理由を聞かれると、


「それがメンバーとの約束だから」


 とだけ彼女は答えた。100歳を人とは思えない力強い声であった。


 僕がBeutyに興味をもったのはこの記者会見からである。

 いや、恥ずかしながら、今更ながらにファンになってしまったのだ。

 あの記者会見のあの一言を聞いて、初めてアイドルを凄いと思った。

 普通なら10代かわいい子に魅了されて沼にはまりドルオタになるものだが、僕をドルオタに駆り立てたのは、10代の天使ではなく、100歳の美魔女であった。


 最近僕はBeautyの普及活動に勤しんでいる。

 特に力を入れて取り組んでいいるのがBeautyの歴史などをわかりやすく要約した動画をアップすることだ。やってみてわかったが、意外にもこのような動画の需要は高い。

 なんせ85年もの歴史があるグループだから、その歴史を完璧に理解している人はファンの中にすら殆どいない。


 Beautyは動画サイトに多くの動画を投稿しており、歌やダンスなども当然投稿していたが、特に人気があったのがLive配信である。僕が特におすすめしたいのは、やはり、リーダーの雪宮牡丹が亡くなる前日に放送された配信、雪宮牡丹最後の配信である。


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「「皆さんこんにちは、私たちBeautyです!」」

「さっき看護師さんにパンツの色を聞いたら燈ちゃんに怒られました!雪宮牡丹でーす!」

「ちょっ、何よその自己紹介!えっと、……ちょっと、今日用意してきたセリフ飛んだじゃない!えっと、紅葉燈でーす!」

「今日も私の入院先である某病院からお送りしますー」

「何しれっと進めようとしてるのよ。今の自己紹介は何?!」

「自己紹介の時はその日あったことを話すのが私の長年のスタイルって燈ちゃん知っているよね?」

「そうじゃなくて、せめてもう少しマシなエピソードはなかったのかってことよ。完全におっさんのエピソードじゃない」

「これが一番インパクトあるんだけどな」

「アイドルなんがら少しはイメージを考えなさいって何十年も言っているわよね?ていうか、そもそもパンツの色を聞かない!」

「はいはい、相変わらず燈ちゃんは真面目なんだから」

「『はい』は一回!とりあえず自己紹介やり直しなさい!」

「え~。今日の朝食は薄味の卵焼き!雪宮牡丹でーす!」

「新人かよ!いや、新人でももう少しまともな自己紹介するわ!」

「だって病院だから刺激が少ないんだよ」

「はいはい、次回までにはちゃんと修正するように。じゃあ牡丹、今日のテーマを発表して」

「今日の配信のテーマは〜……、これまでのBeautyの歴史について語っていくわよ」

「…それ前の前の配信と同じテーマよ」

「あれ?そうだっけ?」

「というか、もう同じそのテーマで100回以上配信しているわよ」

「いやね、最近物忘れが酷くて。それより燈さん、朝食はまだかいの?」

「さっき食べたでしょって、そういうコンプラに引っかかるようなことはLiveではしないの。あんたがまだボケてないことぐらい私わかっているから」

「違うわよ燈ちゃん。私は今ちゃんとボケたのよ。ボケたボケをしたのよ」

「わかりずらいわね。あんたそれが言いたいだけでしょ」

「違うわよ燈ちゃん。突っ込みポジションならそこはちゃんと理解してよねって言いたいのよ」

「急な駄目だしをくらった!」

「さて気を取り直して、さっそくBeautyの歴史について語っていくわよ」

「結局テーマはそれになるのね……」

「長年やっていると人はマンネリ化するのだー」

「自分で言うことじゃないでしょ!」

「時は2097年4月のこと、私、雪宮牡丹は今は無き茨城県に生誕したの」

「どこから語る気よ!せめてBeautyの結成からにしなさい」

「はーい。で、私が生誕して15年後に私たちBeautyは結成したのよねー。あ、スパチャで質問来てる。『なんでBeautyってグループ名になったのですか?』だって」

「このグループ名を提案したのは夏美だったわよね」

「そうそう。それで夏美ちゃんの提案に猛反発したのが燈ちゃんだったわよね」

「正直このグループ名は私には荷が重いって感じてね。自身で自身を"美しい"なんて名乗るなんて、どれだけ自意識過剰って感じじゃない」

「でも、見た目の美しさだけでなく、生き方が美しいアイドルでいたいっていうメッセージが込められている。その話をされて燈ちゃんも折れたのよね」

「……他にいい案を持っていたわけじゃなかったし」

「燈ちゃんは案外こういうのに弱いわよね」

「それは別にいいでしょ!ほら、この話はもういいから次行く!」

「それでなんだかんやオリコン1位をとって」

「一気に15年ぐらい時間を飛ばしたわね!」

「しょうがないでしょ、歴史長いんだから。今考えると、30歳でやっとオリコン1位って随分遅咲きじゃない?」

「アイドルとしてはそうかもしれないけど、アーティスト界隈ではそんなものじゃないの?まあ、若くして大活躍する人がどうしても目立ちがちではあるけど」

「この時期あたりよね。燈ちゃんがアンチエイジングを気になりだしたの」

「ちょっと、なんで急にそんな話をしだすのよ!」

「老化していない人は体内の炎症物質の量が少ないとか、炎症物質を減らすにはたくさん食物繊維を摂取した方が良いとかを私と夏美ちゃんに教えてくれてたわよね」

「ああ、私そんなこと言ってたわね。まあ、今時アンチエイジングする人なんていないんでしょうけど」

「そうね。私たちが35歳の時よね、確か。体内用ナノマシンが普及し始めたのって」

「そうね。よく時期まで覚えていたわね」

「ちょうど年齢的にアイドルは無理かなと思ってたタイミングだったから」

「まあ、そうよね」

「ナノマシンを体内に入れれば老化を遅らせられるって聞いたときは迷わず飛びついてしまったわ」

「危なっかしいわね。結果良かったけど、そういう情報はガセも多いから気をつけなさい」

「今更言う?」

「それもそうね」

「でもあの時は、燈ちゃんが事前にアンチエイジングの知識を私に教えてくれていたから、ああこれなら上手くいくかもって勘が働いたのよね。結果上手くいったのは燈ちゃんのおかげね」

「…急に照れるこというわね。牡丹、あなた明日にでも死ぬの?」

「そんなつもりないわよ。あ、でも白寿も超えている入院患者だからその可能性も0では無いわね」

「確かにね。って笑えないこと言ってんじゃないわよ」

「燈ちゃんが言い出したのに〜」

「それにしてもここまでやってきたわよね、私たち。いくらナノマシンで老化を遅らせたとはいえ、あくまで遅らせるだから、完全に老化が止まるわけじゃない」

「体の部位によっては老化を遅らせ辛いところもあるらしいしね」

「70歳いく頃には見た目を保つの限界で、流石に引退と思ったわね」

「でも、そこで夏美ちゃんが"アバターを作って活動すればいいんだよ"って提案してくれたのよね」

「そうそう。夏美の奇抜な発想には本当に助けられるわ」

「そうね。あ、またスパチャが来ている。『どうして今はアバター配信を止めてしまったのですか?』だって」

「そうね。…私たちがアバター配信を止めたのっていつ頃だっけ?」

「ちょうど10年前よ。なに、燈ちゃんボケちゃったの?」

「コンプラに引っかかるって言ったでしょ。牡丹と違ってあたしは時間感覚正確じゃないだけよ」

「アバター配信を止めたのは、夏美の卒業がきっかけね」

「そうね。今後どうするかを牡丹と私で話あって、また顔を出してを再開しようってなって...」

「そうそう!これは燈ちゃんの提案だったよね」

「そうだったわね」

「燈ちゃんっていつも保守的な印象あるけど、ここにきて大胆な提案するなって驚いちゃった」

「今振り返ると、確かにね。あの時は感情が普段と違い過ぎていたから」

「どうしてまた顔出ししようって、燈ちゃんは思ったの?」

「どうしてかな。あの時色々考えていたのは覚えているけど…」

「思い出せない?」

「うーん…、多分…だけど、」

「多分だけど?」

「最後をちゃんと見てもらいたかったのかも」

「なるほどね」

「ほら、またスパチャが来ているわよ」

「どれどれ。『二人にとってアイドルって何ですか?』」

「うーん。こういった質問ってこれまで何度もされてきているけど、未だにどう答えていいのか分からないのよね」

「燈ちゃんは真面目だからね。私はいつも『希望を与える人』って答えているよ」

「素敵な答えじゃない」

「私もそう思う。希望をあげれなくなった時がアイドルの引退、そう決めているの。アイドルを始めたときから」

「そうだったの。初耳ね」

「あれ?言ってなかったけ?」

「…多分ね。もし言っていたらごめんだけど」

「80年以上の付き合いでも、まだまだお互いわかっていないこともあるんだね」

「牡丹は…、今でも私たちは希望をあげられていると思う」

「思うよ。だからアイドルを続けている」

「じゃあ、いつか希望をあげられなくなることを不安に思わない?」

「思って()()わよ。今はそれを考える必要がもうないから」

「…そう」

「相変わらず燈ちゃんは真面目だな」

「…真面目って言うな」

「久々に聞けたわね、そのセリフ。今でも真面目キャラって言われるの気にしているの?」

「少しはね」

「大丈夫よ。どんなキャラでも燈ちゃんは希望をあげられているわ」

「そうかな」

「そうよ」

「そうだといいな」

「私が保証するわ」

「…ありがとう」

「それよりも燈さん、昼食はまだかいの?」

「だからコンプラに引っかかるって、あっ、昼食は本当にまだか」

「引っかかわね。本当に燈ちゃんは真面目なんだから」

「うるさいわね。それじゃいい時間だし、ここらで今日の配信終わりにしようか」


「「また明日も見てねー」」


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 この配信の次の日に雪宮牡丹は亡くなった。

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