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妹の妹

「それでは、先に行ってきます。蒼衣さんもきちんと出席してくださいね」

返事の代わりにへらりと笑いながら紫子を送り出すと、いつものように珈琲を淹れる。

ほっと一息ついていると、控えめなノックの音と消え入りそうな「失礼します」が聞こえ新入生が青い顔をしてやってきた。

「あのっ蒼衣様、すみません、少し、具合が悪くて……」

(今から入学式やのに可哀想に。相変わらず身体弱いんやな。)

彼女の父に、くれぐれもと頼まれるはずだ。


青白い顔をした津田飛鳥を保健室の中にいれてベッドへ促す。

相変わらず、飛鳥は姉にそっくりだ。

まさか卒業して何年も経ったというのに、またこうやって関わる日がくるとは思わなかった。


――― こんなに色白ちゃうかったけどな。


ベッドのカーテンを閉めながら自分がこの聖クレール女学院に通っていた頃を思い出した。

当時蒼衣には、大事な妹がいた。

女学校特有の姉妹制度のあったこの学校では、蒼衣の在学中も変わらず先輩が後輩へ妹になるように告げる。

後輩が承諾すると晴れて姉妹として学校中が認識するのだ。

妹は姉を「お姉さま」と呼び、姉は妹の世話をする。

蒼衣が姉妹を申し込んだ妹はとても元気な子で、まさかあんな別れが訪れるとは思っていなかった。

あの時は、泣いて泣いて、紫子には随分心配をかけたものだ。

そして、今、彼女の妹の飛鳥が入学してきた。

運命というものは皮肉なものだと心底思う。


寝ている生徒を置いて入学式にはいけないので、紫子に短く連絡を入れると机に向かった。

この際だから溜まっている書類仕事をやってしまおう。

「ただの養護教諭にめっちゃ仕事押し付けるやん・・・」

いつも見てみぬふりをしているのだからこれくらい当然ですよと怒られそうだ。

怒る紫子を思い浮かべて肩をすくめるとやれやれと仕事を始めた。

入学式の間、全ての生徒と教員は講堂にいる。

校舎にはきっと、蒼衣と飛鳥の二人だけ。

静かな校舎で粛々と仕事を進めていると鐘が鳴り響き入学式の終わりを告げた。


「ほな・・・」

入学式も終わったようだし、と広げていた書類を片付け珈琲を淹れなおす。

座りなおす頃にはバタバタと走ってくる音が聞こえた。

「失礼します」

申し訳程度にノックをして入ってきたのは波留だった。

「飛鳥は…新入生はまだいますか?津田飛鳥さんです」

飛鳥のことを問われ、少し驚いたが、

ベッドを指差すと波留は心配そうな顔をしてカーテンの中に消えていった。


「私もあぁして、ベッドに向かっていったこと、あったなぁ……」

波留が必死な顔をして大事な人の妹に会いにきた事実に少し複雑な思いを抱えた。



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