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アナザースレイヤー  作者: 前振り超々長
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7 終末の生存領域

     7   終末の生存領域


 俺は魔王を倒した勇者と同じSSS(トリプル・エス)級。とんでもない魔力持ちらしい。

 その鑑定結果を、綺麗なお姫様が大喜びしてくれたことが、とても嬉しい。

 ついでに俺ほどではないが、一緒に召喚されてきたリンもA級とかなりの上位者あった。

 こいつが、俺の異世界での活躍を奪い取らないか心配だ。


「それでは、私たちがシンイチ様とリン様を召喚した理由。それと我がロイツ王国のおかれた状況を説明させて頂きますね」

「あ、すみませんラミー姫」

「なんでしょうか、シンイチ様?」

「その『様』ってやつ止めてもらえますか。まだなにも活躍してないし、ちょっと落ち着かないっていうか」

「私もお願いします」

「お二人がそうおっしゃるのでしたら。それでは、シンイチさん、リンさん。これでいかがでしょうか?」

「はい、それでお願いします」

 二人揃って頷くと、ラミー姫が説明に入る。

「邂逅一番に申し上げたことなのですが、お二人には私たちの願いを叶えて欲しいのです。それは――」

「皆まで言わずとも分かっています。流れ的に、やっぱり魔王の復活。今は亡き勇者に代わり、俺に魔王を討伐して欲しい。ですよね」

 勇者のような振舞いで姫を(てのひら)で制して、間違いない、と自信満々の決め顔で言った。

「えっと……違います、けど」

「今この世界に魔王はいないよ」

 申し訳なさそうにラミー姫が否定すると、男前な声でバッカスが説明を付け足す。

「あれぇ?」

 魔王退治という異世界もの一番の醍醐味を、いきなりくじかれた。

「勇者の奴もどこにいるのかは分からんが、私と同年代なんでまだ死んではないだろう。奴の代わりというのは、少しは当てはまるかもな。奴がまともであれば、頼った可能性は無くにしもあらず」

「勇者に何かあったのですか?」

「奴は、魔王との最終決戦で利き手の右腕を失った。それ以来、戦いの場から姿を消したんだ。いったい今はどこでどうしているのやら」

 闘いの激しさを思わせない語り口で、バッカスは肩をすくめる。

「それじゃあ俺は何をすれば?」

「だから、黙って聞いてなさい」

 横から、落ち着きのない子どもを叱るようにリンに注意された。

「バッカス」

「はい、姫」

 ラミー姫に促されると、バッカスは懐から掌にちょうど収まる大きさの球体物を取り出した。

「もしかしたら丸い事が信じられないかもしれないが、これはこの世界を表わした物だ」

「地球儀みたいなもんか」

「ねえ、世界は丸いって当たり前よね」

 自己解釈する自分に、リンが小声で囁いてくる。

「バカかお前は」

「なんで私がバカなのよ。地理も世界史も日本史も、私が付きっ切りで勉強教えて、やっと赤点ギリギリのシンイチの3倍近い点数なんですけど」

「今テストの点数と地理以外の科目関係ないだろ」

「世界史やってないと世界地図わかんないでしょ。それがわかんないからバカなんでしょ」

「いいか、異世界ってのは丸いとは限らないだよ。世界の端はそこで大地と海が切れてて、その先には底の見えない大きな穴のような空間が広がっているだけ。これ常識」

「そういうもんなの?」

「そういうもんなんだよ。それに俺たちの世界だって、数百年前、世界が丸いって最初に言った誰かさんは笑いものにされたあげく糾弾されたもんだろ」

「ねえ、それもしかして地動説を唱えたガリレオ・ガリレイの宗教裁判のこと言ってんの」

「そうそう、それ。名前が出てこなかっただけだよ」

「バカ」

 リンは呆れたように嘆息する。

「なんでだよ」

「地動説が何かを全くわかってなくて、平然と無知をさらけ出している勘違い者だから」

「なにが間違ってるんだよ」

「その様子じゃ、どうせ天動説もわかってないわね」

「はあ?」

「簡単に言うと、地動説ってのは地球が太陽の周りを回っているって言ってんの。シンイチが言いたかったのは大地球体説と、異世界には地球平面説が当てはまるって事でしょ。ただし、この異世界はシンイチの異世界常識が当てはまらず、地球と同じ球体で、たぶん、()()()()()()()()()()のせいで平面世界だと勘違いしかねないから、バッカスさんが前置きしてくれたんでしょ。それで最初に世界が丸いって言った人物は『分からない』が歴史的正解よ。だから今の話の説明にガリレオは全く関係ありません。分かった? バカ」

「へ、へー。そっかそっか、解説ご苦労さん」

 自分は疑問符を頭に幾つも浮かべて首を傾げる。

「でも、シンイチの勘違い発言ですこし納得できた」

 地球の歴史的事実を踏まえて、リンは異世界常識に笑顔で理解を示し出す。

「世界の話ついでに、地球の大きさって知ってる」

「それぐらい分かるわ。約4万キロだろ」

「正解!」

「いくらなんでも俺を舐めすぎだリン」

 いたずら心に欲を出したのが失敗だったなと、言い返してやった。

「ふーん。じゃあ、それって直径、それとも円周。どっちの大きさ?」

「……直径と円周って何か大きさ変わんの?」

「どうやら地球に帰ったら、みっちりと勉強しなきゃダメみたいね、シ・ン・イ・チ」

「遠慮します」

 勉強嫌いな自分は小さくなって断る。

「あのー、続けてもよろしいでしょうか」

「ほら、お前が余計な知識を挟み込むから」

「すみませんラミー姫。って、あんたにだけは言われたくない」

「このうるさいポニテは放っておいて、どうぞラミー姫」

「それでは。まずは、こちらの黒いエリアなのですが」

 ラミー姫が手で示した球体の一部分。リンが『よく解らない部分』と言ったエリアだ。

 北から南まで縦に繋がり、球体の半分近くを黒い膜が包み込むように覆っている。

「ここはミリムと呼ばれる場所です。現在この世界の約45%がミリムと化しています」

 その物言いは、砂漠化や環境破壊のような悪影響に対する忌むべきもののよう。

「ミリムとの境界線であるベールのような薄い膜の壁は、大地と海の底から空の一番高いところにまで達します」

 姫は目線を石畳の底から天井の上へと下から上に向かわせ、自分たちに戻す。

「ミリムの壁は、誰にも予測不能な不規則な速度で東西から均一に広がり、陸海空ごと世界を喰らうのです。その中は、触れたもの全てを塵とする破壊エネルギーに満ちています。我々人間は、この脅威に(こう)せないのです」

 ラミー姫の表情が(かげ)る。

「ミリムが広がるということは、そのまま人間だけでなく全ての動植物の生存領域を(けず)(せば)めるのです」

 理解を表わすように、自分とリンは頷いた。

「次にこちらのエリアを見てください」

 ラミー姫が示したのは、世界の中央に位置する緑の一帯。

「こちらはハクアの大樹海と呼ばれる広大な樹海エリアです。踏み込めば即死のミリムに比べれば、ハクアの大樹海はまだ住まう場所を確保できる可能性のある場所ではあるのです。そのため幾度となく人は開拓を試みました。それこそ国家レベルの軍隊を率いて。しかし、樹海の主とそこに住まう強い怪物たち、災害クラスの過酷な環境。それら人智を超えた大自然の前に、人の領域では攻略不可能でした。 そして、いつしか人は気がつきました。もはや自分たちには、狭まる世界しか生きる場所はないのだと」

 それは世界の縮小。歩みの止まらない終末への進行を意味する。

「ミリムとハクアの大樹海。今では子供の躾話として取り上げられています。悪い子はミリムに放り込むぞ。言うことを聞かない子はハクアの大樹海に捨ててしまうぞ。といった具合にです」

 古今東西、子供に言うことを聞かせる時には、鬼の存在を引き合いに出して脅すものと決まっている。この世界ではミリムとハクアの大樹海が鬼の代役らしい。

 絵本を子どもに読み聞かせるようにラミー姫は語る。と、球体の残りの部分全体を示す。

 地形は違うが、そこは地球儀と同じように、大地と海を表わしている。

「ミリムとハクアの大樹海を除いたこれが、いま、人々が息づき住まうことのできる世界の全てです」

 残されたこの部分が、この異世界の世界地図である。



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