5 方々(かたがた)
5 方々(かたがた)
石の感触と匂いがする。
通学路のアスファルトの道路とは明らかに別物だ。
瞼を閉じた直後。最初に気づいたことは、それだった(股間の激痛を除けば)。
「成功だ。成功ですよ」
歓喜を上げる女性の(少し低い)そんな声が聞こえた。
それに答えるのは、疲れ混じりの綺麗な声。
「……はい。ついに、やりました」
ともに聞き覚えのない声。
ゆっくりと瞼を開ける。
倒れ込んだままの自分は、こちらを見据えている淡い蒼い瞳と目が合った。
綺麗なお姉さんが、両手を石畳の床に添えるように付いて疲れた様子で座っていた。
ふわふわの金髪に柔らかな面差し。高貴さを感じさせるドレス姿の少し年上の女性。
二十歳あたり。
ただひたすら、その美しさに打ちのめされる。股間の激痛も吹き飛び、上半身を上げる。
「えっと……、あなた達は? それに、ここは……?」
「お見苦しいところをお見せしました」
自分の質問に答えようと、綺麗なお姉さんはそう言って立ち上がるも、ふらつく。
咄嗟に黒マント姿の男前な女性が支えに入る。
「大丈夫です」
綺麗なお姉さんは片手を少し出して制止する。
しっかり立ち直し、姿勢を正す。
「私はラミーと申します。ここロイツ王国の第一王女です」
世界史は得意ではないが、地球上で聞いたことのない国名だ(たぶん)。
「突然の召喚で驚きの事と思いますが、どうか私たちの願いを叶えてください。異世界の方々」
「おお!」
やっぱりここは異世界なのかと胸躍らせ、感嘆の声を上げる。
俺、このお姫様に召喚されたんだ。
異世界で、今から俺の大活躍が始まること間違いない。
活躍を続ける俺は、ゆくゆくはこのヒロインのお姫様と……。
そんな浪漫あふれる展開への期待に高揚していると。
ん?
お姫様の言葉に違和感を覚えた。
今、『方々』って言わなかった?
自分の脳裏には、とある異世界召喚勇者もののライトノベルが。勇者が四人も召喚され、主人公勇者が第一印象で役に立たないと判断される。挙句、召喚者である姫にハメられ、最下層からのバッドスタート。そんな過酷な勇者物語が浮かんだ。
そして、ラミー姫と男前な女性の視界が、自分だけでなく背後辺りも含めて見ているのに気付いた。
自分はバッドスタート展開を危惧しつつ、恐る恐る首を後ろに向けると驚愕する。
「なんでお前がっ!」
背後には、見知った急所攻撃に長けたポニーテールの美少女が座っていた。