2 目覚まし機能としては……
2 目覚まし機能としては……
とてもとてもとても幸せな夢を見ていた。
世界を救った英雄へのご褒美。美少女たちにかこまれて……。
そうッ。まさしくこれから、といったその時。
「――っ」
夢意識の外から、空気を読まないにも程がある聞き慣れた声が聞こえてきた。
「……イチ。……シンイチ! ねえシンイチ、起きて」
うっすら目を開けると、カーテンの隙間から朝日の光が射していた。
寝台に横になったまま、寝呆け眼で辺りを見回す。
紛れも無い。産まれてこの方15年過ごしてきた、自分の部屋だ。
「ねえ、シンイチ聞こえてんの。さっさと起きなさい」
「リン、お前! 何だよ、何しにきたんだよ」
目覚めると同時に幸福な夢の記憶は消えて無くなった。
ただ、起きるのはもったいな過ぎる。それ程にとても良い夢を見ていた様な気だけが、ぼやけた残像のように脳内にある。
「せっかく起こしに来てあげたのに何て言い草。遅刻するわよ」
視線の先には怒りと呆れを混ぜたような表情の少女。
全体的にスラリとした手足にバランス良く筋肉が付いた整った体型。栗色のポニーテール。芯が強そうな顔立ちの、美少女だ。
モデルでも通用しそうな身長と体格を、高校の制服姿がさらに魅力を高めている。
しぶしぶ上半身を起こす。が、ある事に気付いて咄嗟に身体を寝台に戻した。
「なにやってんのよ。早く起きなさいよ」
「起きる。起きるから、お前は先に行ってろ」
「そう言ってまた寝る気でしょ」
「そうじゃない。ばっ、やめろってッ」
自分の包まる布団を力任せに剥ごうとしてくる。
想園鈴は古式棒術の心得がある。その腕力の強さに、抵抗虚しく布団を剥ぎ取られる。
「きゃっ」
一瞬で状況を把握したらしい、実に女の子らしい驚きの声が上がる。
頬を赤く染めたリンは慌てて飛び退くと、壁に立てかけていた自身の身長ほどある黒い布に包まれた古式棒術の棒を手に取る。
股間に、言葉では到底言い表せない衝撃が襲った。
そのままの勢いに任せてリンは確実に男の急所目掛けて棒を振り下ろしたのだ。
「ばか、ばか、ばか、変態。死ね」
身悶える自分に構わず、罵倒を浴びせてくる。
「お……、お前、なあ……。将来、いざ必要ってときにぶっ壊れてたら困るのはお前なんだぞ」
苦悶しながら、激痛に言葉選びの配慮など思考出来ない自分が呻くと。
「どうしてあんたのお粗末なものが役に立たないと私が困るのよォ――ッ」
耳まで真っ赤になって叫ぶリンは頭上に構えると、
「バカッ、バカッ、バカァ――ッ」
何度も何度も何度も自分の息子目掛け、全力で振り下ろしまくった。