三谷永太一の物語 その14
世界中が抱いた疑問。誰がスーパーヒーローを殺したのか?
それに対する回答である〝江連朝顔の殺人告白ショー〟からもう一週間。あの一件が与えた衝撃は瞬く間に世界を駆け巡り、そしてその影響は当然ながら今もなお続いている。
SNSやテレビはその話題で持ちきり。そんな中でも様々な意見が飛び交った。
江連さんがウルトラフォースに催眠を掛けたということを嘘だと主張する人もいた。彼女を逮捕するために法を改正するべきだと叫ぶ人もいた。実はウルトラフォースはまだ死んでいないんだと涙目で語る人もいた。彼を失った日本は終わりだと嘆く人もいた。
いまこの日本国内では、あらゆる人の感情が竜巻のように渦巻いている。そうしたからって現実が覆るわけでもないのに。
江連さんの一件により、もちろん俺も影響を受けた。俺の名前や顔は『真実を追求し、世に知らしめた青年』として、世界中に知れ渡ってしまった。俺を好意的に扱う意見もあったし、またその逆もあった。いまのところそのせいで大きな迷惑を被ったことはない。強いて言えば、たまにマスコミが俺のところに話を聞きに来て煩わしいことくらいだ。
江連さんはあれから警察に保護される前にどこかに姿を消してしまったらしい。誰かに殺されるようなことはなかっただろうと信じたいが、真相は闇の中だ。もしかしたらいつの日か、俺の前にひょっこり姿を現して復讐を果たしにくるかもしれない。その時はその時だ。覚悟は決めている。
テレビのニュースを眺めていると、警察関係者が今回の事件に関して会見を開いている映像が流れていることがある。「事件の完全解決の目処は立たないのか」といった記者からの質問に腹立たしげに回答している目付きの鋭い警察官の低い声を聞いていると、どうしてもあの電話の男を思い出す。もしかしたらあの警察官が彼だったのかもしれない。
2月も終盤に差し掛かってきたある日のこと。天山さんから久しぶりに電話が掛かってきた。取材の申し込みだろうかと思いつつ通話を取れば、彼女は以前と変わらない明るい調子で『どもども』と挨拶した。
『しっかし、とんでもないことになったね、太一くん』
「ええ。ですが、後悔はしてません。正しいことを正しいと信じてやっただけですから」
『ん。後悔してないんならいいと思うよ。後悔してるなら、なにやってんだって話になるけどさ』
息をひとつ吐いた彼女は、電話越しにもわかるほど真剣な調子になり、『ところで』と話を変える。
『太一くん、この前の話覚えてる?』
「話ですか? どんなのでしたっけ?」
『優しいウソと残酷な真実の話』
「ああ、あれですか。覚えてますよ」
『あの時の答え、いまも変わってないのかな』
「もちろんです。だから後悔してないんですから」
『……そうだよね』
なんだかやけに神妙な調子の天山さんは何か踏ん切りをつけるように『よし』と呟いてから切り出した。
『太一くん、少し話があるんだ。長くなるけど、今から会えないかな』