表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/34

神話の時代の物語

 そのむかし。


「大地の女神(めがみ)」と「天空の男神(おがみ)」は、いつ終わるとも知れぬ戦争を繰り広げておりました。


 そもそも、この二柱の神々は、協力して大地と天空を創り、この世界を始めた仲でした。

 変化を嫌う「大地の女神(めがみ)」は、永遠なる命を世界にばら撒きました。

 気まぐれな「天空の男神(おがみ)」は、定命の生命を世界にばら撒きました。

 二柱の神々は愛し合い、長い平穏な時代が続きました。


 しかし男神(おがみ)は浮気性でもありました。彼は自らが創造した定命の存在――すなわち、人類を愛するようになり、やがて女神(めがみ)に関心を持たなくなりました。

 面白くなかったのは女神(めがみ)です。

 彼女は嫉妬心から、人類を滅ぼそうとしました。彼女にとっての最高傑作であった、永遠の命を持つ存在――すなわち、龍をけしかけて、人を襲わせました。

 男神(おがみ)は人に文明と魔法を教えて、龍を始めとする女神(めがみ)の創造物に立ち向かわせました。

 こうして長い長い戦いの末に、とうとう女神(めがみ)は敗北し、奈落の穴に突き落とされ、この世界から消え去りました。

 現在、彼女は、本来の名前を忘れられて、ただ「魔王」と呼ばれています。

 人類を生み出した男神(おがみ)は、今は唯一の神・創造神とよばれています。


 この出来事が、今から五千年ほど前のこと。


 それ以後女神(めがみ)による創造物たちは、魔物と呼ばれるようになり、人のいない場所に隠れて暮らすようになりました。

 勝利した人間は、誰が一番創造神に愛されているかをめぐってお互いに争うようになりました。

 人の醜い姿に幻滅した創造神は、天の果てへと去り、ごく稀に聖者の問いかけに答えるほかは、人と関わり合いを持たなくなりました。

 そうして、世界は今に至ります。


 かつて神々が争った時代のことを、龍はおぼろげに覚えています。

 造物主たる女神(めがみ)の顔は、もうわかりません。ただ、彼女はいつも怒っていました。悲鳴のような声で男神(おがみ)をなじり、涙を流し、そして、自分の子供たちである龍に命じるのです。

「人間を無に戻せ」と。

 龍は女神(めがみ)に逆らうことができません。龍は、姉妹たちとともに空を飛び、地上に人の集落を見つけると焼き払いました。それが悪い事だとは考えませんでした。

 都市を灰燼に変えて、女神(めがみ)に報告すると、女神(めがみ)は低い声で男神(おがみ)を嘲笑い、そうしてやっと、眠ることができました。龍は、自分がしていることに何の意味があるのか理解できませんでしたが、ただ、女神(めがみ)にひと時の安穏をもたらすことだけが喜びでありました。

 その女神(めがみ)が消え去り、姉妹たちも奈落に落とされたあと、ただ一人残った龍は、何をすればいいのかわからなくなりました。

 もう命令を下す者はどこにもいないのです。

 世界を隅から隅まで飛び回り、暇つぶしに人を襲ってみましたが、それも何度かやってみると、すぐに飽きてしまいます。

 退屈は、かつて自分に立ち向かって来たいかなる人間よりも、恐ろしい敵でした。

 生きることに飽き、眠り続けることにも飽き、不死者たちから「王」と祭り上げられてみても、やはり、退屈と虚無が忍び寄ってきます。


 そんな龍にとっても、今回の事件は、少しだけ新鮮でした。

 人間の姿に変えられるという経験も初めてでしたし、無力な存在として囚われるという経験も初めてです。何度か殺されましたが、この痛みさえも、退屈よりはまだマシです。

 馬に乗ったのも初めての経験でした。

 まぁ、どうせパラメシアか誰かが助けに来て、また龍の山に戻ることになるのだろうとも思いましたが、それまで、この初めて尽くしの旅を楽しんでみようか。

 龍は、サロの背中でうつらうつらとしながら、そんなことを考えておりました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ