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8.



「おい山崎、遅刻なら連絡くらい入れろよ~。あと自己紹介お前で最後だ。」

G組の担任らしい男にそう言われた。岩谷和彦とデカい字で黒板に書いてあるのは、多分こいつの名前だろう。入ってすぐに自己紹介かよ…最悪。


「山崎真樹です……よろしく。」

他の奴らの自己紹介を聞いてないから何を言っていいかわからないし、とりあえず名前を言って座る。自己紹介なんて名前だけ言えば十分だろ、これで俺の役割は終わったと頬杖を付くが…なんか岩谷の視線がずっと俺に向いている気がする。


「おぉ~山崎、このクラスで一番デカいんじゃないか?俺バスケ部の顧問なんだ、よかったら…」

「結構です。」

部活勧誘早えだろ。運動は嫌いじゃないが、今のところ部活に入る気はないから速攻で断った。


(信ちゃんは剣道部入らないで、どうせ帰宅部だろうしなぁ。そういえばクラスどこになったか、連絡してみようかな。)

眠いことに加えて、岩谷の話は興味が無いから右から左に抜けていく。それよりも俺は信ちゃんと連絡を取ろうと、ポケットに入っている携帯を触った。


「身長あるし絶対向いてるのになぁ。なぁ?青木。」

「えっ?はぁ…そうっすね…。」

知っている名字と、聞き覚えのある声。ポケットの中で携帯を弄っていた手が止まる。

ずっと頬杖を付いて机の落書きを眺めていたが、顔を聞き覚えのある声のした方へ無意識に向けていた。


「えっっ!!!!」

周りにクラスメイトが居るのも関係なしに、勢いよく立ち上がってしまった。椅子がその勢いでグラグラと揺れたが、なんとか倒れずに済んだ。

志望校を合わせて、同じ高校になっただけでも大喜びだったのに…こんな偶然があるなんて。もう今年の運は使い切ったに違いない。

俺の歓喜の表情とは裏腹に、信ちゃんは呆れた表情をこちらに向けていた。信ちゃんももう少し喜んでくれたっていいのに。


「山崎~元気になったのはいいが、これから俺が喋るからな~。」

このまま信ちゃんに話しかけそうだったのが、岩谷に水を差されてしまう。その声に少し冷静になり周りを見ると、他の生徒にめちゃくちゃ凝視されていた。流石にクラス中に見られながら話しかける訳にもいかず、渋々席に着く。


さっきまでの眠気はとっくにどこかへ消えていた。





体育館での長々とした入学式が終わり、教室に戻ってきてからも岩谷の小話が続いた。


「…じゃあ今日はここまで!また明日からよろしくな。」

ようやく岩谷がそう号令をかけ、クラスメイトがぱらぱらと帰宅していく。そんな中、俺は荷物をリュックに雑に詰め込み、出席番号一番の席へと小走りした。


「信ちゃん!!同じクラスだったの!?凄い偶然ってかもう運命じゃん!」

俺が興奮しながら話しかけると、信ちゃんは少しニヤつきながら「お前もプリント見てなかったのかよ…」と言う。呆れながらも表情は柔らかい信ちゃんを見て、思わず俺まで口角が上がってしまう。そして話を聞くと、どうやら本来はクラス分けのプリントが配られていたらしい。


(プリント持ってるのに見逃すなんて、信ちゃん、少し抜けてるな。)

言うと怒られるから口には出さない。


そろそろ帰るかと話していると、急に会話が止まる。信ちゃんが後ろを向いたからだ。体を少し傾けて後ろの席の奴を見ると、ヘラヘラとした男が信ちゃんに話しかけていた。


「……信ちゃ~ん、誰?」

こっちで話してたのに…割り込んで来られて、少し面白くない。信ちゃんが「あぁ、」と俺の方に向き直るが、


「青山翔平!よろしくな。」

コイツが身を乗り出して俺に話しかけてきた。いやお前に聞いてなかったんですけど。そのままいつの間にか青山が会話の中心になっていた。人見知りの信ちゃんが、初日から誰かと話してるなんて変だと思ったが…コイツなら納得だ。青山は見るからに明るいし、自分のペースに持っていくのが上手い。




「…あのさぁ、よかったら連絡先交換しない?」

「あっ私も!」

不意に女子が数人で俺たちの輪に入ってくる。女子は仲良くなるのが早いな。もう数人でグループみたいなのが出来ていた。


(別にいいけど、必要ない連絡先とか要らないんだよな…。しかも今信ちゃんいるし。)

信ちゃんは人見知りに加えて、異性への耐性が全くない。チラッと信ちゃんの方を見ると、案の定キョドっていた。複数人の女子に話しかけられたらどう行動を取るか、割と想像がつく。


「じゃあ俺はそろそろ帰るわ。」

やっぱり、この人自分だけ帰る気だ。信ちゃんが一人で立ち上がる。女子達も話しかけたのに帰ると言われ、軽く混乱していた。信ちゃんは自己肯定感が低いから、この話に自分は関係ないと思ってんだろうなぁ。まあそっちの方が都合が良いが。


「青木君も…」

しかし、女子の中の一人が信ちゃんを引き留める。…多分この子は信ちゃん狙いだったんだろう。まさか自分が引き留められるとは思ってなかったらしく、信ちゃんは驚いた表情で歩き出そうとした足を止めた。

だがどうせ「いや…。」とか言って帰ると思っていたのだが…。


「え、俺?うn」

「ごめん俺らもう帰るからー。また今度ね。」

思わず立ち上がって信ちゃんの肩を掴む。信ちゃんは動揺したように俺の顔を見上げるが、そんなこと気にせずにズカズカと歩き出した。女子達に引き留められるが、信ちゃんに下心のある女子と連絡先を交換させるような事態は避けたい。軽く流して廊下まで脱出した。




信ちゃんには、自分はモテないって思っておいてもらわないと。




閲覧ありがとうございます!


信介は異性相手だとコミュ力が地に落ちるので、今のところ業務連絡以外の雑談とかできません。

次回からまた信介視点です。

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