6.
真樹が誰とも連絡先の交換をせずに歩き出してしまったせいで、周りにいた女子達からは残念そうな声が聞こえてきた。
「え~もう帰っちゃうの?」
「みんなでちょっと話そうよ~!」
そんな声を掛けられても、真樹は足を止めない。
「俺と信ちゃん、これから用事あったの忘れてたんだよね。」
真樹がそう言うと女子達も何も言えなくなってしまったようだった。「じゃあまた明日ね!」と俺たちに言い、残されたイケメンである青山に話しかけていく。真樹は俺の肩に腕を回したまま歩かせ続け、俺は成す術もなく半分引きずられながら歩いていた。用事なんて無かったはずだけど…。俺だけ帰ろうとしたのに真樹まで連れてきてしまったら、女子に後から恨まれそうだ。
「お、おい…」
廊下へ出たあたりでついに真樹に声を掛ける。
「ん~?」
「いつまで肩抱いてんだよ…歩きにくいわ。」
今もまだ真樹と二人三脚の様に肩を掴まれ歩かされているが、真樹と俺の身長差は十センチ以上ある。足の長さも違うから、真樹は普通に歩いていても俺には少し早歩きになってしまう。
「あぁ、ごめんごめん。」
パッと俺から手を放すが、謝ってる割に表情が伴っていない。俺は意味も分からず連れ出されたっていうのに、こいつは何故かニコニコしている。そんなに早く帰りたかったのか。
「今日なんか約束してたっけ?」
「……俺の家でゲームやろうって」
「聞いてないし。」
完全に初耳だ。やっぱり帰りたいが為の嘘だったらしい。
「早く帰りたいからって青山一人にすんなよ~。悪いことしちゃったな。」
「…だって信ちゃん先に帰ろうとしてたじゃん。」
少し膨れた様子でそう言ってくる。まぁ確かに先に帰ろうとはしたけど…。あれは帰るのが最善だと思ったからだ。
「それは…女子に気ぃ使ったの!俺がいると邪魔かなって。」
「信ちゃんだって連絡先聞かれてたじゃん。」
あれは真樹と青山のついでに決まってるだろ。そうは思うけど、真樹にそれを言うとモテない事をイジられそうでなんか嫌だ。
「あーそういえばそうだったな…。ついに俺にもモテ期来たか~!?」
わざと笑ってボケて見せた。俺は中学でもずっと男子とばっかり居たもんだから、女子にモテた事なんて一回もない。「そんなわけないだろ」と、真樹からも笑ってツッコミが来ると思っていた。
「ハハ…そうかもね。」
「いや、その反応一番傷つくわ。」
もの凄い苦笑いをしながら気を遣われてしまった。こいつノリは良い方だと思ったんだが、フォローを入れてしまうほど俺のボケが哀れだったのだろうか。
「みんなお前と青山目当てだったに決まってるだろ。悲しいから言わすな。」
結局は自分のボケを自分で回収するという最悪の状態になってしまった。でも実際、あの時の俺はオマケだっただろう。
「う~んまぁ、そうだね。」
「なんだよそれ。もう早く帰ろうぜ、腹減ったよ。」
なんか歯切れの悪いことを真樹は言っているが、それを気にするよりも空腹が勝ってしまった。学校は午前で解散だったため、まだ昼食は摂っていない。
「そしたらホントにウチ来ない?ゲームやろうよ。」
「行く!コンビニで飯買っていこ。」
嬉しい誘いにテンションが上がった。俺の家にはゲーム機はほとんど置いていない。それは親が厳しいわけでもなく、ただ単に俺が一つのゲームをずっと続ける継続力が無く、加えてゲームのセンスが壊滅的に無いからだ。ストーリー系だと終わらせるまでに飽きてしまうし、バトル系だと下手過ぎてまず勝てない。だから俺はゲームを買わないことにしている。が、どうしてもやりたいときは真樹の家に行き、真樹のデータで思う増分遊び倒すのだった。真樹が居ればフォローもしてもらえるし、人が進めたデータでプレイするのは最高である。俺はポケットからスマホを取り出し、家にいる母さんに『昼飯は用意しなくて大丈夫。真樹の家行ってくる。』と、そのついでに青山に『二人で急に帰ってゴメンな!』とメッセージを送った。メッセージを送っている間に少し前を歩く真樹を見ると、今まで何故か気づかなかった…足元の違和感。
「…お前何でスリッパなの?」
「あぁ、上履き忘れた!そうだ返しに行かなきゃ。」
真樹は笑いながらそう言った。やはりこいつは自由人すぎる。
*
「お邪魔しま~す。」
真樹の家に前回来たのはいつだったか…家に入った瞬間真樹の家の匂いがして、なんか凄く懐かしい感じがした。真樹の家はマンションの八階で、一軒家の俺からしたらマンションは少し憧れる。小さい頃なんて、エレベーターに乗っただけでテンション爆上がりだった。
「どうぞ~。今誰もいないんだけどね。」
「え、そうなの?美香ちゃんは?」
「じいちゃんとこの手伝い行ってるよ。」
「なるほど。」
美香ちゃんの実家は車屋で、実家を出た今でも手伝いに行っているらしい。美香ちゃんと話すのも結構楽しみにしていたから残念だ。真樹の後を付いてリビングへと入ると、少し山になって洗濯物が置いてあった。これは見て良いものなのか…。
「まぁ母さんいたらリビングのテレビに繋げてゲームできないし、丁度良かったわ。」
そう言いながら真樹は俺の視線に気づいたのか、足で洗濯物の山を部屋の端へと追いやる。これ絶対後で怒られるだろ。そう思うが口には出さず、テレビの目の前に置かれている大きめのソファに腰かけて、ゲームの配線をしている真樹を眺めていた。
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次回は真樹視点です。