4.入学式
アイツと俺は何もかも違う。だから…あんまり一緒にいたくない。
*
新しい、少し大きめのブレザーに袖を通す。中学までは学ランだったからネクタイを締めるのは少し緊張した。靴擦れしそうな硬いローファーを履き、今日から毎日通う高校へ向かう。今日は入学式だ。眠くて閉じてしまいそうな目を必死で開けながら、学校へと向かった。
*
「…はぁ~~~。」
この新学期の空気感、苦手だ。友達を作るのが苦手なこともあり、まだクラスすらわかっていないのに憂鬱になる。
「……G組…。」
クラス割が書いてあるプリントを入り口で受け取り、A組から順に自分の名前が入っているか確認していく。結局自分の名前が記載されていたのは最後のクラスだった。誘導している先生に従って、少しずつ重くなっていく足取りでG組へと向かった。
*
うわっ…、思ったより騒がしい。みんなコミュ力高ぇな。
クラスに入ったのが遅めだったこともあり、既に八割くらいの生徒が教室にいる。早めに友達を作っておきたいのだろう、みんな誰かしらと話していてとても賑やかだ。おずおずと黒板に貼ってある席順を見に行き、指定された席に座る。……この教室で誰とも喋ってないと、ぼっち感が凄い。もっとギリギリで教室入れば良かった、“誰かと喋ってないとコミュ障だと思われる独特な雰囲気”をひしひしと肌で感じてしまう。みんな誰が自分と合うのか、どんな人間がクラスカーストで上位に入るかを見定めているようだ。クラスで目立ちそうなパリピ系の周りにはすでに多くの人がいた。その点俺は平々凡々だ。好きで俺に話しかけてくる奴なんてそうそういないだろう。担任が来るまでの少しの間、強い精神力でぼっちを貫いた。
*
「じゃあこれから自己紹介していこうか~!俺の名前は岩谷和彦です。体育担当してて、バスケ部の顧問もしてます。一年間よろしくな!」
いかにも体育大学出てそうな見た目の担任が、まず自分の簡単な自己紹介を済ませ、出席番号順で一人一人起立して自己紹介をさせられる。俺の名字は“青木”。大体こういう出席番号順でやらされる物事はトップバッターだ。
「青木信介です。朝日中学出身です。よろしくお願いします。」
そう言ってすぐ座ろうとするが、岩谷によって引き留められる。
「青木は趣味とかあるのか?」
「えっ…と、漫画よく読みますか、ね。」
「お、俺も漫画好きだよ!最近のおすすめとかある?」
「…アカウントゲームってやつがおもしろいっす。」
俺の漫画情報とか誰得?もう早く終わらせてくれ…、そう心の中で祈ってしまう。話しかけられたときに座りそびれてしまったせいで、岩本と立ったまま話を続ける。あまりに簡素な俺の自己紹介にアシストを入れたつもりなのだろう。目立ちたくないこちらとしてはいい迷惑だが。
「よしありがとう!じゃあ次~…」
やっと俺のターンが終了し、席に座る。結局他にも中学時代の部活は~とか、高校ではバスケ部入らないか~とか、自分の部活の勧誘も交えながら結構喋らされた。席に座ると俺への同情の視線を背中から感じる。他の生徒は俺の様になるまいと、自分から趣味や部活について口に出していた。陰キャが一人で長々と自己紹介なんて、いい恥さらしである。ふぅ、と短く息をつくと、後ろから肩をトンと軽く叩かれた。
「青木君、アカゲー好きなんだね、俺も。今アニメ化してるよね。」
振り返ると、さっきパリピ軍団の中心にいた男が少し小声で俺に話しかけてきた。名前は…俺の後ろだから、あお……そう、青山だ。
「見てる。あれ作画めっちゃいいし原作読んでても胸アツだよな。」
「わかる!俺の周りでアカゲー好きな人いないんだよね。あ、そうだライン交換しようよ!」
さすがはパリピ、距離の詰め方が凄い。俺にまで話しかけてくれるなんて、みんなに分け隔てなく優しい系のパリピなんだなぁ…。そう思って「わかった。」と返事をし、まだ周りが自己紹介をしている最中、コソコソと俺は青山翔平と連絡先を交換した。
*
「次で最後だな。えっと、山崎は…あれ、休みだったか?」
岩谷がそう言って一番右後ろの席を見つめる。その席には今日俺が来た時点でも誰も座っていなく、余りの席なのかと思っていた。
「おいおい、入学初日から欠席なんていい度胸してるなぁ。」
苦笑いしながら岩谷がそう言っていると、不意に後ろのドアが勢い良く開いた。
「遅れましたぁ~。」
そこにいる全員が注目する中、その人間は反省する様子など微塵も無く、気怠そうに教室の中に入ってきた。初日なのに制服はだらしなく着崩され、ピアスまで着けてきている。関わったらヤバいオーラがプンプンだ。ドカッと席に座り机に頬杖を付いている。なんだかまだ眠そうだ。
「おい山崎、遅刻なら連絡くらい入れろよ~。あと自己紹介お前で最後だ。」
「え~自己紹介…?だっる…。」
連絡入れろの下りは完全に無視し、少し顔をしかめながらゆっくりと席を立ち
「山崎真樹です。……よろしく。」
俺より簡素な自己紹介をしてすぐまた席に座ってしまった。
女子はその容姿に歓声を上げ、
目立つ部類の男子は興味深そうにその男を見つめ、
目立たない部類の男子は普通にビビってた。
俺はというと……。
「よりによって同じクラスかよ…。最悪だ…。」
萎えてた。