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2.合格発表

「信介!!そろそろ起きないと合格発表終わっちゃうよ!!」

母さんの大声でうっすらと目を開けた。そうだ、今日は秋保高校の合否が分かる日。まだ眠たい目を擦りながら何とか布団から脱出し、顔を洗いに洗面所へ向かう。


「あんたほんと緊張とかしないよね…こんなギリギリまで寝てるなんて神経図太すぎ。」

洗面所で髪を巻いている姉さんとかち合う。姉さんは呆れた顔で俺を見ていた。


「だって受かってるもん、多分。」

そう言い横でバシャバシャと顔を洗うと、随分眠気が覚めた。俺だって人間だ、当然緊張もする。だが今回の件は俺がド緊張するほどの出来事ではなかった。面接も筆記も問題ない。確実に合格できるレベルの高校なんだ、不合格だとしたら闇の組織の陰謀だとしか考えられない。


「それで落ちてたら大笑いしてあげる。」

姉さんの意地悪い声を後ろに聞きながら、リビングへと向かった。冷蔵庫から水を取り出してゴクゴクと喉へ流し込む。家族四人で食事をするテーブルには、俺の席にだけ朝食が置かれていた。父さんはもう仕事へ行っているし、姉さんも母さんも食べ終わったのだろう。「いただきます。」と手を合わせて、まずは鮭を一口含んだ。それから白飯へと箸を伸ばしたところで、母さんに声を掛けられる。


「合格発表って何時から何時までなの?時間決まってるでしょ」

「…え、わかんない。飯食って着替えて行けば丁度良いくらいじゃない?」

横目で母さんを見ながら食事を続ける俺に、母さんはあり得ないものを見るような目を向けてきた。そういえば受験終わってから貰った書類、封を切ってすらいなかったな。


「何であんたはそうルーズなのよ!!!プリントは!?」

「食ってからでいい?」

母さんが驚愕した声を出し、「すぐ確認しなさい!」と急かしてくる。仕方なく席を立ち、受験当日から中身を出していない中学校の指定カバンの中を弄る。少し折れている封筒を発見し、雑に封を破き中に入っている数枚のプリントを取り出した。


「…母さん、今何時だっけ?」

「丁度八時。」

「発表、八時半までだわ。やべぇ。」

あれ、なんか九時くらいまでやってると勝手に思ってた。まだ部屋着のジャージのままだし朝飯も全然食べられてない。母さんからは俺が時間にだらしないことへの怒号が飛んできている。とりあえず朝飯はもう諦めよう。中学の制服に着替え、急いで歯を磨く。いつもはコンタクトだが、結果発表を見に行くだけだ、もう眼鏡でいいだろう。チャリで行けば超ギリギリにはなるが間に合う。だが俺は一筋の希望を見出していた。チラリと母さんを見る。


「はぁ…仕方ないわね…車出してあげるから。」

「イェェェェイ!流石だね。」

母さんがそう言ってスマホを弄り出す。この後予定でもあったのだろうか、誰かに連絡をしている。少し悪いかなと思いつつも、俺はガッツポーズをして喜んだ。これで大分余裕ができた。チャリで十五分だから車では十分もかからないだろう。玄関に置いてある車の鍵を手に取り、母さんと一緒に家を出た。車に揺られている間、「あんたはいっつも…」「これなら時間聞いとけば良かった…」と俺のだらしなさに対する小言を聞かされ続けた事は言うまでもない。“時間聞いとけば良かった”って、秋保高に知り合いでもいるのか?



「じゃあここで待ってるから。」

高校の近くにある公園の横に車を停め、母さんがそう言う。すぐ見て帰るだけだ、近くで待っていてくれるらしい。お礼を言って車から降り、もうすぐそこの秋保高校へ徒歩で向かう。さっきまではそんなことなかったのに、喋る相手がいなくなった途端鼓動が少し速くなる。大丈夫、絶対合格だ。そう思っているのに、やはり結果を見てからじゃないと安心できない。秋保高校は正門を入って少し歩くと、様々な制服を着た男女がボードの前で大騒ぎしていた。


「…あそこか。」

友達とハイタッチをして喜んでいる人、落ちてしまったのだろう、泣いている人もいた。とりあえずは俺も早く安心したい。人の波をかき分けてボードの目の前に立ち、自分の番号を探す。


「…ふぅ。」

109、俺の受験番号がしっかりと印字されていて、安堵の息が出る。母さんが見たがるだろうと思い、自分の受験番号の場所の写真を一枚撮りすぐ人ごみから抜けた。自信はあったが、受かっていればやはり嬉しいものだ。すぐ公園へ戻ってもよかったが、知り合いいるかな~なんて考えながら少し辺りを見回してみる。…と、ボードを人ごみの後ろの方で見ている、見覚えのありすぎる男で目が留まった。


「んん??」

見間違いかと凝視する。ミニバスをついこの間まで続けていたからか、平均よりずっと高い身長。黒髪で短めの髪。高い鼻でぱっちり二重、女子にモテそうな顔面だ。そのモテそうな男は、人ごみから外れている俺に気が付き、腕がちぎれそうな勢いで手を振ってきた。


「信ちゃーーーーん!!!」

人を避けながら小走りで向かってくるこのイケメン、真樹は寒さで鼻を赤くさせていた。


「え、何でお前いんの?」

「受けたからだよ~。信ちゃんどうだった?俺受かってたよ~!!やった!」

受けたのは知ってる。受けてなくてこの場にいたらおかしいだろ。そう心でツッコミを入れ、自分の合格にテンションが上がっている真樹には「うるさいよ。」と冷静に言葉を返した。


「俺もさっき見たけど受かってたよ。」

自分の合格を伝えると、「マジ!?やったな!!!!」とさっきより大きな声量で真樹が喜ぶ。めちゃくちゃうるさいが、こんなに喜んでくれるのは素直に嬉しい。


「うるさ…。母さん近くにいるし一緒に帰ろうよ。」

「うん!あ、てかうちの母さんも来てるし、今頃お鈴と合流してんじゃないかな。」

「……え?そうなの?」

なんか俺、話に取り残されてない?


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