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1.中学三年、冬

幼稚園が一緒で知り合った。お互いの家が微妙に遠いせいで、小学校と中学校は離れた。親同士の仲が良く、家族ぐるみで年に数回会う程度の腐れ縁。このままの関係がずっと続くと思っていたが…。もうすぐ始まる俺たちの高校受験の話から、俺とあいつは“年に数回会う程度の腐れ縁”ではなくなった。



(しん)ちゃん、高校どこにするか決めた〜?」

車に揺られながら、隣に座る真樹(まき)が話しかけてくる。山崎真樹とは幼稚園からの腐れ縁だが、中三になった今では中々予定を合わせて会うことはなかった。今日は母親同士の買い物になぜか招集され、大型ショッピングモールへと向かっている最中だ。


「…(あき)()高かな。近いし」

信介(しんすけ)ったら高校選び適当なのよ〜!?もっと距離とか関係なく選べばいいのにさぁ」

俺の返答に、すかさず前の助手席に座る母さんが茶々を入れてくる。ついさっきまで真樹の母さんと韓ドラについて語ってたのに…なんで聞こえてるんだ。秋保高校は俺の家からチャリで十五分と、高校の中で断トツ近い。だが秋保高の偏差値は下の上、はっきり言ってバカ校に分類される。そして生徒のガラも悪いと評判だ。そんな高校に近いという理由だけで進学しようとしているから、母さんの言い分も分からなくはないが…。


「いや近いのめっちゃ大事だから。あそこ以外だと電車乗らなきゃいけないし無理。」

俺の中で重要なのは偏差値より近さだ。インドア派な俺は人ごみにめっぽう弱く、遊びに行くために乗る電車の一駅ですら体力を消費する。そんな人間が三年間毎朝、ラッシュに耐えられる訳がない。それでも中々納得しない母さんに、俺は切り札を使った。


「秋保、バカ高だけど県立だからいいだろ。」

そう、秋保高校は県立なのだ。俺には姉がいて来年大学生になる。丁度俺の高校進学と姉さんの大学進学が重なってしまうため、「信介はできれば県立で!」とお願いされていた。高校にこだわりはないし、それで学費が節約できるなら良い。その切り札のセリフに、「まぁ、それはこっちがお願いしたしね…」と母さんも渋々納得したようだった。


「で、真樹はどうなの」

ずっと俺と母さんの会話に相槌を打っていた真樹に話を振る。

「真樹は全然どこの高校にするか決めてないのよ〜。」

真樹の代わりに真樹の母さん、美香(みか)ちゃんが返事をした。幼稚園から()香子(かこ)さんの事は“美香ちゃん”と呼んでいて、今でも癖が抜けずそう呼んでいる。ちなみに俺の母さんの名前は鈴乃(すずの)で、真樹も美香ちゃんも“お(すず)”と呼んでいる。


「いや、俺も秋保高にした。」

「え、あそうなの?偶然だな。」

「あんた昨日まで何も決めてないって言ってたじゃない!」

運転をしてくれている美香ちゃんが、ルームミラーを使って後部座席にいる俺たちを見る。初めて聞く情報に驚いて軽く目を見開いている美香ちゃんに、

「信ちゃんが行くとこにしようと思ってた。」

真樹はそうあっけらかんと返す。その返答に美香ちゃんは吹き出し、「それなら納得だわ」と笑いながら言っている。いや、今度はこっちが納得できないんですけど。


「いや、何で?もっとちゃんと高校選びしたら?」

「あんたもくだらない理由でしょ。」と言う母さんはもう無視だ。幼馴染と言ってもめちゃくちゃ仲がいい訳じゃない。俺に合わせるくらいなら中学の友達が行く高校にしたほうが絶対良い。あまりにも軽い進学理由に驚いていると、真樹はそんな俺の様子を見て笑い出す。

「冗談に決まってんじゃーん!何で俺が信ちゃんの為に高校選ぶの」

「いやその通りだけど…なんかムカつくな。本気だったら止めるところだったわ。」

どんな冗談だよ。ちょっと心配した俺の気持ちを返してほしい。


そんな話をしていると目的の場所に着き、母さんと美香ちゃんは嬉々として買い物を始める。どんどん増える買い物袋を俺と真樹が持たされ、この為に連れてこられたのかとため息が出る。真樹は買い物好きなのか楽しそうだが、俺は重いし人が多いし散々だ。家で漫画読みたいなぁと考えながら、三人の後を遅れてついて行く。



「お疲れ〜!荷物持ちご苦労様!」

買い物が終わり車に乗り込んだところで、母さんが俺と真樹に一本ずつコーラを渡してくる。真樹は素直に「ありがと!」と言っている。単純な奴だ。


「俺らめっちゃ重いモン持ったのにこんだけ〜?」

俺が不満そうな声を出すと、美香ちゃんが「じゃあ…」と溜める。「お!なんかあんの!?」と俺が身を乗り出すと、美香ちゃんは結果発表ばりに大きな声を出して、


「これから行く店を決める権利を二人に与えます!!」

とドヤ顔で言ってきた。山崎家と俺らで遊びに行くと、夕飯を食べてから美香ちゃんが家まで送ってくれるのが恒例だ。


「いや、そんなドヤ顔して言われても…美香ちゃんと母さんは何でもいいだけでしょ。」

俺のツッコミに三人が笑う。そんでもって「場所によっては道違うから早く決めてね〜。」と母さんが付け足す。ご褒美ならせめて急かすなよ。


「真樹は何がいい?」

「う〜〜ん、…あっ」

「待ってせーので言お」

食べたいものを言おうとした真樹を制して、「せーーのっ」と声を出す。


「「寿司!!!!」」


ピッタリ声が被って、俺と真樹は思わず吹き出した。昔から真樹は何が食べたいかと聞かれると寿司しか答えなかった。今でもそれが変わっていないのがなんだかツボに入ってしまって、腹を抱えて笑ってしまう。


「いや、そんな笑わないでよ…。母さん、寿司ね。」

真樹がずっと笑っている俺に恥ずかしそうに声をかけ、運転手である美香ちゃんに店を指定する。


近くにある寿司屋に入り食べ始めると、母さん達によって話題はまた受験の事になる。俺と真樹は黙々と寿司を食べていたが、


「次に会うのは合格祝いかもな。」

と箸を止めて話しかける。母さんと美香ちゃんは二人とも共働きなので、中々予定が会わない。二人が会う時には大体俺と真樹も駆り出されるので、次会うとすれば受験が終わってしばらく経った頃だろう。


「…そうだねぇ。信ちゃんまた家にも来てよ。()里奈(りな)が会いたがってる。」

「おぉ、俺も久しぶりに会いたいなぁ。」

友里奈とは真樹の五つ下の妹で、俺の事も兄のように慕ってくれている。前回会ったのは一年前くらいだろうか。今日友里奈は友達との予定があってこちらには来なかった。


「それよりお前はちゃんと学校決めろよ?もうすぐ願書出さなきゃいけないんだし」

「わかってるって!候補はあるし大丈夫!」

ほんとかよ…と思いつつも、俺たちの受験についての話はこれで終わった。



秋保高校の合格発表日。余裕で入れるラインだったので緊張は無かった。それより俺は合格発表のボードよりも、その前に立つ一人の人物から目が離せなかった。

黒くてサラサラ、少し短めの髪型。他の受験者より頭一つ分高い身長。モテそうな整った顔。さっきまでの眠気が一気に飛ぶ。



「お前やっぱ秋保受けてんじゃん…」


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