番外編 久しぶりのゲーム配信
「よぉし、じゃあ久しぶりにぃナァミのゲーム配信始めちゃうからねぇ~」
「ママに話しかけるときはナァミって呼ぶんだよ、俺のことは……おじさんかなぁ……」
「わかったよっ!! ナァミママっ!! おじさんパパっ!!」
ゆきなが自慢げに頷いて見せるが、やはりよくわかっていないようだ。
尤もこの呼び方なら名前バレすることはなさそうだし、心配する必要はないだろう。
(しかしゲームなんか本当に久しぶりだなぁ……ずっと子守でそれどころじゃなかったもんなぁ……)
いつも家族の為に一生懸命で、自分の自由時間などろくにない直美だが一度だって不満を口にしたことはなかった。
だからこそ母の日である今日ぐらいはのびのびと過ごしてもらおうと、俺とゆきなで協力して直美の仕事を代わってあげることにしたのだ。
お陰で時間が空いた直美は、だけど外に出かける気にもなれないようなのでこうして居間のテレビでゲーム配信をすることを選んだのだった。
(まあここで遊んでれば子供たちは目に付くところにいるし……気を使ってくれてるんだろうなぁ……)
「うーん、やっぱり人来ないなぁ……」
「まあ久しぶりだし、事前告知もないからねぇ……」
台所で家事をしつつ、時折振り返って直美の様子を見てみるが困ったように首を横に振って見せた。
どうやらずっとやってなかったせいで登録者が全盛期よりかなり落ちこんでいるようなのだ。
それでもゲームを起動して少しすると視聴者が増えてきた。
『懐かしのタイトルっ!!』『ナァミちゃんキターっ!!』『待っててよかったぁっ!!』『まだ美少女名乗ってるのっ!?』『ナァミちゃん今歳幾つ?』『ウホッホーっ!!』
「みんな久しぶりぃっ!! ナァミだよっ!! そして歳を聞くなぁっ!! 直美はまだ二十歳に……おおっととぉっ!?」
危うく歳をばらしかけた直美がぎりぎりで口を押えた。
『今日は一人?』『あの子たち呼んでよぉ』『ゴリラはいらないよ』『うん、ゴリラはいらない』『マジでゴリラはいらないから』『ゴリラの動画見てきたけどすっごいウザかったよ、謝罪して』
(亮ぅ……お前何したんだよぉ……)
あいつも独自でゲーム配信をしているようだが、なぜこれほどまでに評判が悪いのだろうか。
「うーん、ヨッカとミィルは大が……忙しいからなぁ、まあもう少ししたら呼んでみよっかなぁ……トールおじさんはうるさいから呼ばないよ」
『高評価』『高評価』『ゴリラ来ないなら高評価』『高評価』『高評価』
(あいつマジで何したんだよ……ウザいのはわかるけどさぁ……まさか恋人出来たことを自慢して、下手したら一緒にラブラブ配信とかやったりして……まさかなぁ……)
亮が来ないというだけで凄い勢いで高評価されていく動画を見て、俺は友人に同情して涙を流してしまう。
そんな俺の足元にゆきなが縋りつき、気遣うような眼差しで見上げてきた。
「パ……おじさんパパぁ? どこかいたいのぉ?」
「ううん、何でもないよ……ゆき……ユッキーはいい子だなぁ」
「ゆっきぃ? ゆきなはゆきなだよぉ?」
咄嗟に偽名を使ったが、やはりゆきなにはわからないようで可愛らしく小首をかしげている。
(やっぱりうちの娘は世界一可愛い……じゃ、じゃなくて先にゆきなの呼び方も決めておくべきだったなぁ……)
自分のことを名前で呼ぶ癖があるのをすっかり忘れていたせいで、俺たちの呼び方しか注意していなかった。
それでも台所で話している程度ならば、居間のマイクまで届くことはないだろう。
(まあ名前だけならそこまで問題はないだろうけど……むしろ子持ちだってバレるほうが動画的にやばいかな?)
「そうだねぇ、ゆきなはゆきなだねぇ……だけど今はママのそばにいかないようにしようなぁ」
「わかったぁ……ママはてれびのひととおはなししてるの?」
「うーん、そんなところかなぁ」
「じゃあママてれびにでてるのかなっ!! すっごぉいっ!!」
物凄く飛躍した考えをして嬉しそうに飛び跳ねて喜ぶゆきな……愛おしすぎてつい家事の手を止めて抱き上げてしまった。
「さぁて久しぶりにナァミのかれぇなプレイを見せちゃうんだか……」
「ふぇええ……」
「ああ、ちょ、ちょっとごめんっ!! パパぁ、もり……子供が起きちゃったぁっ!!」
「わ、わかったすぐ行くっ!!」
直美の声に慌てて居間へと戻り、泣き始めた守幸の様子を確認する。
「ああ、よしよし……トイレとかじゃないよなぁ?」
「マ……ナァミママがいまてれびさんとおはなししてるからねぇ……さわいじゃだめだよぉ」
床に座りベッドから抱き上げた守幸をあやしていると、ゆきなも手を貸してくれる。
お陰ですぐに泣き声は収まったが、実況のマイクに音声は拾われてしまっていた後だった。
『ちょっ!?』『い、今の鳴き声何っ!?』『今おっさんの声が……パパってちょっとぉ……』『どー言うことですかっ!?』
「あはは……まあ別に隠すことでもないかぁ……じゅーだいはっぴょぉっ!! 実はナァミとおじさんは結婚したのでぇすっ!!」
嬉しそうに直美が宣言すると、少しの間コメントがピタリと止まった。
「だから色々と忙しくてできなかったんだぁ……けどすっごい幸せだよぉ~、子供もすっごく可愛いのぉっ!!」
『こ、子供ってマジかっ!?』『ついに手ぇ出しやがったっ!?』『おっさん何やってんのっ!?』『通報しましたっ!!』『おっさん犯罪じゃんっ!!』『通報』『お巡りさんこっちですっ!!』
(非難轟々だぁ……やっぱりこの配信は俺に厳しい……)
直美が子供が居ることを口に出した途端、弾けたように俺への非難メッセージが殺到し始める。
まあ少し前まで学生だった子が、急に数年間音信不通になったかと思えば子持ちの主婦になっていたのだから当然の反応だろう。
『流石ゴリラのリア友』『しょせんゴリラの類友かぁ』『そう言えばおっさんゴリラの親友だったなぁ納得』『ああ、そう言うことね……残念だよおっさん』『おっさん爆発しろ』
「……ねえ、本当にあのゴリラ何したのよ?」
「トールおじさんどんだけ嫌われてんのぉ?」
しかし俺と亮の関係が言及されるとすぐに納得し始める視聴者たち……本当にあいつは何をやらかしたのだろうか。
「ごりらはおっきくてこわいよぉ……ゆきなあんまりすきじゃないなぁ」
「あ、ちょ、ちょっと……っ!?」
そんなことを考えている間に、ゆきながテレビから聞こえる声に反応して近づいて行ってしまった。
『今の声が二人の子供デスカ?』『なに今の超かわいいんだけどっ!!』『ゆきなちゃぁんっ!! お兄ちゃんって呼んでみてぇっ!!』
「ええとぉ……おにいちゃぁん?」
「ああ、こらぁっ!?」
慌てて直美が抱きかかえたが、時すでに遅し……ゆきなの声はマイクに拾われてしまう。
『きゃぁあああっ!!』『可愛い可愛い可愛い可愛いっ!!』『その子に配信させようっ!!』『おばさんはOUTっ!! 若い子INっ!!』『やっぱり幼女は最高だぜぇっ!!』
「だ、だれがおばさんだぁっ!! それにこれはナァミの動画なのぉっ!!」
『いいからゆきなちゃんに代わるんだっ!!』『ゆきなちゃんペロペロっ!!』『ゆきなちゃぁああんっ!!』
一気にゆきなへの声援でコメント欄が溢れていく。
「くぅうっ!! こ、こいつらぁあああっ!! ナァミの時はここまで騒がなかったくせにぃいっ!!」
「ナァミママぁ、おこったらもりゆきがないちゃうよぉ……ほらいいこいいこぉ」
『マジいい子っ!!』『弟もいるのっ!? おっさんマジ犯罪者っ!!』『スーパー健気な幼女が色んなゲームで天下を取るに改名』『ゆきなちゃんメインなら投げ銭してもいいかもぉ……ただし俺のことをにいにって呼ぶことっ!!』
(直美の時はプレイ内容を馬鹿にするような発言ばっかりだったのになぁ……この人気の差は一体……というかゲーム配信なのに全くゲームしてないのにこの盛り上がり……どうなってんだよ……)
もはや収拾がつかない。
「ああもぉ、こうなったらナァミの華麗なプレイで魅了してやるんだからぁっ!!」
やけくそ気味に叫びながら直美は、ゲームをスタートさせた。
俺はもう隠す必要もなくなったので、守幸を抱えてあやしながら隣で見守ることにした。
「うおりゃぁ……あ、あれっ!? ちょ、ちょっとぉっ!?」
『酷い』『めちゃくちゃ下手になってる』『地雷以下』『チェンジ』『ゆきなちゃんにチェンジ』『ゆきなちゃぁあああんっ!! 声聞かせてぇええっ!!』
しばらくやってなかったせいで、直美の腕はかなり落ちていた。
当然そんなゲーム内容で見返すことができるはずもなく、自然とコメントはゆきなコールであふれていった。
「ゆきなだいにんき……えへへ、こまっちゃうよぉ」
「俺の娘ですっ!! この可愛いのは俺の娘ですっ!!」
『今すぐ捕まれおっさん』『逮捕っ!!』『事案』『通報しました』『もげろ』『犯罪者めぇ』『お義父さん、娘さんを僕にくださいっ!!』
思わず自慢すると途端に俺への非難が溢れてくる……しかしそれが意外と心地よい。
(ふはは、この可愛いゆきなを抱っこできない負け組どもめぇっ!! そして絶対にゆきなは嫁にやらんっ!!)
俺は守幸と一緒にゆきなを抱き上げると、そっと直美に寄りかかり家族の温もりを存分に堪能するのだった。
「ああもぉっ!! パパ邪魔ぁっ!!」
「ひ、酷いよナァミママぁっ!!」
『家庭崩壊待ったなし』『おっさんざまぁ』『さっさと出頭しろ』『ゆきなちゃんはプレイしないんですかっ!?』『ゆきなちゃぁんっ!! もう一回お兄ちゃんて言ってぇぅ!!』
「お、おにいちゃぁん?」
暴走するコメント欄の読み上げ音声を聞いたゆきなは素直に返事をする……そして余計に暴走が進んでいく。
『きゃわいいいいっ!!』『ゆ・き・な・ゆ・き・な・っ・!・!』『おばさんは下がってっ!! ほら早くっ!!』『この動画はゆきなちゃん可愛いの提供でお送りしております』
「あぁあああっ!! もうこんな配信なんか二度とやるもんかぁあああっ!! ゆきなぁこんな奴ら放っておいてママと一緒に遊ぼぉっ!!」
「わぁいっ!! ママだいすきぃっ!!」
「パパっ!! 後始末しといてっ!!」
ついに直美は試合が終わると同時にコントローラーを投げ出して、ゆきなと守幸を俺から取り上げると近くのソファーに腰を下ろしてしまった。
流石にこんな唐突に配信を終えるのはどうかと思い、仕方なく俺はフリーマッチを行い間をつなぐことにするのだった。
(これでチームキルっと、これだけ活躍すれば少しは……)
『つまんね』『はよ交代』『ゆきなちゃんマダー』『低評価』『低評価』『低評価』『低評価』
「……トールかもぉんっ!!」
『ちょぉっ!?』『ば、馬鹿っ!? 何考えてんだっ!?』『止めろぉおおっ!!』『その呪文は不味いっ!!』『NOゴリラSTOPゴリラぁあああっ!!』
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