亮と直美と……
「ただいまぁ~、帰ったよハニィ~」
「直美、不審者だ……警察に連絡しよう」
「はいはい、史郎さんもとーるおじさんも遊んでないで上がんなさいって」
「うぅ……直美ちゃんが冷たい……史郎はもっと冷たい……」
「うるせぇ、直美にどんどん変なことばかり教えやがって……全く」
この間の百合営業発言と言いメイド服と言い、どうも亮と付き合ってから直美は変な知識を身につけつつある気がする。
だから余り家には上げたくないのだが、わざわざ訪ねてきてくれたのに追い返すわけにもいかない。
「だけどあのメイド服は良かっただろ? 追加も持ってきたんだぜっ!!」
「やっぱり帰れお前、そして二度と連絡してくるな」
「ちょ、ちょっとぉっ!? こ、これは直美ちゃんに頼まれた代物なんだぜっ!?」
「嘘つくなよ……嘘だよね直美?」
「だってぇ、この間メイド服着てあげた時の史郎さんたらぁもぉ凄かったんだもぉん」
(い、いや可愛い新妻があんな格好で迫ってきたら誰だってさぁ……というかそんなことこいつに言うなよぉ……)
「史郎は初心だからなぁ……これぐらいわかりやすく誘惑しないとキスもしてくれないんだろ、わかるわかる」
「え、あ……ま、まあなぁ」
「あ、あはは……ねぇ史郎さん、やっぱりとーるおじさんって……」
「言わないであげて直美ちゃん……」
相変わらず意外とピュアな友人を気遣う俺と直美。
「そ、それより亮お前よく休みとれたなぁ、前忙しいとか言ってただろ?」
「ああ、あの仕事は辞めたからな」
「はぁっ!?」
さらっととんでもないことを言い放つ亮。
「と、とーるおじさんお仕事辞めちゃったのぉっ!?」
「あんまり忙しくて本当に休暇もとれないからもうやってけなくてなぁ」
「……それってひょっとして俺たちのせいか?」
亮は俺たちの代わりに霧島を取り囲む事態を解決させるために色々と動き回り、短期間で事を収束させて見せたのだ。
幾ら相手がそれほど大きい組織ではなかったとはいえ、仕事帰りにちょこちょこと手を出すぐらいでどうにかなる相手ではないはずだ。
(俺たちの為に仕事を休んで……それで……)
もしそうだとすれば、俺はこいつに一生頭が上がらない。
「いやきっかけではあったけど、元々辞めようと思ってたよ……前にも話したけどめっちゃきつかったからなぁ」
「け、けどぉ……生活はだいじょーぶなのぉ?」
「大丈夫だって、今はフリーランスとして活躍してるからさ」
「そうなのか?」
「ああ、本当に前から考えてて地盤は作ってあったんだよ……お陰で今んところは上手く行ってるし……だからお前らが気にすることじゃないからな」
そう言って笑ってくれる亮は本当に凄い奴だと思う。
(仮にも安定したサラリーマンを止めて、ある意味での自営業に切り替えるなんて……覚悟もいるだろうに……)
俺たちの件は踏ん切りをつかせただけだとは言ってくれるが、やはりこれは大きな借りだと思う。
いつかは何かしらの形で恩返しをしようと、俺は固く誓うのだった。
そして直美もまた、同じように思うところがあるのか少し悩むような表情を見せている。
「……ええとぉ、フリーは自由でランスは槍だからぁ……とーるおじさん自由騎士になったのっ!?」
「…………直美、資格だけじゃなくて英語の勉強もしようなぁ」
どうやら久しぶりにお馬鹿な発想をしていたらしい……俺も頭が痛くなってくる。
「あはは、いいなぁ自由騎士……となると史郎は聖騎士だから……おお、直美ちゃんが姫騎士を名乗れば伝説の三騎士がここに揃うじゃないかっ!!」
「なるなるぅっ!! 私、姫騎士やるぅっ!!」
「よぉしっ!! ちょうどそのための衣装も持ってきたんだっ!! ほら直美ちゃん着替えて着替えてっ!! そしたら桃園の誓いを……」
「いきなりテンション上げんなぁっ!! そして桃園の誓いは違うだろおいっ!!」
「後は任せたぞ、息子たちよ……ぱた」
急に孫堅になって倒れる亮……色々と突っ込みどころが多すぎて疲れてくる。
(けどまあ……これがいつものノリだしなぁ、空気読んで変えてくれたんだろうなぁ)
本当に細かいところで気が利く奴だ。
色々と面倒だがいいやつだと思う……こいつが友人で居てくれて面倒だけど嬉しいとも思う。
「じゃっじゃぁ~んっ!! 我こそは天下ムソーの……えっと、ちょいまち……」
「本当に着替えなくていいから……そして何でこんなもん持ってんだよ亮君よぉ……」
青が主体の姫騎士衣装を着て出てきた直美、その手には名乗り口上が掛かれたメモ帳と物干し竿が握られている。
「いやぁ、リアルくっころを聞きたくて……頑張ったぜっ!!」
そう言って親指を突き立てる亮、よく見れば絆創膏が張られている。
(手作りかよ……よくやるわぁ……)
「とーるおじさんはほんとーに器用というか何でもできちゃうと言うか……何でこれで彼女ができないのかなぁ?」
「むしろこれだから彼女ができないのでは……そう言えばこの間俺の部下がお前に連絡先送ったと思うけどどうなったんだ?」
「……あの子はいい子だなぁ……いい子過ぎて俺には眩しいよ……」
何故か突然、亮は困ったような笑みを浮かべて首を横に振って見せた。
(まさかフラれたのか……けどその割には会社のあの子にそんな様子は見えなかったけどなぁ……)
「えぇ、それってこの間の百合えーぎょぉーの人だよねぇ? 結構可愛かったけど何か不満でもあるのぉ?」
「いや不満はないんだ……ただ何と言うか…………いや、やっぱり何でもないわ……」
「そんな思わせぶりな言い方しておいて途中で止めるなよ……それに紹介した手前もあるし流石に気になるんだが……」
「……どう言えばいいのか……やっぱり言いづらいし、勝手に俺が思い込んでるだけだからなぁこれは」
珍しく亮にしては歯切れが悪い言い方だった。
「……まあ無理には聞かないけど……じゃあ下手に紹介とかしないほうがよかったか?」
「いや、まあ普段から彼女が欲しいって公言してた俺が悪いし……あの子を紹介されて嬉しかったのも事実なんだよ」
「じゃー何が問題なのぉ?」
「うーん、個人的な精神的な問題と言うか……まあいずれ話せる時が来たら話すよ」
のらりくらりとはぐらかす亮、どうやら今話すつもりはないらしい。
俺も強引に聞き出してやろうとは思わない、だからこの話題は置いておくことにした。
「ええい、おーじょぉ際の悪い男だぁっ!! この姫騎士自らの手で白状させてくれるわぁっ!!」
「ちょっ!?」
そう思ったのは俺たちだけのようで、直美は強引に吐かせようと亮に物干し竿を突き付けてきた。
「ふはははっ!! 甘いぞぉ直美姫ぇっ!! こっちには人質が居るのだぁっ!?」
「と、亮お前この模造刀どこから出したっ!?」
「くぅっ!? おのれ卑劣なぁああっ!! 史郎さんを離せぇえええっ!!」
「ふふふ、離してほしければわかるよなぁ……さあくっころするのだぁっ!!」
いつものようにはしゃぎだす二人だが、その手には獲物が握られている。
このまま暴れられたら色々と大変そうだ。
だから俺もまたいつも通りため息をつきながら……どこか楽しさを感じながら二人の仲介に入るのだった。
「お前らいい加減に……電話だ、どいてくれ」
「あ、はい……」
「あ、うん……」
「やれやれ……はいもしもし、雨宮ですが……」
「はい史郎は私ですが……いえ、霧島亜紀とは少し前に……それが何か……っ!? 意識不明っ!? 病院っ!?」
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