新たな日常
「ん~っ」
「んんっ!? な、直美っ!?」
「おはよぉ史郎さん……もぉ朝ですよぉ~」
唇に柔らかい感触を感じて、目を開ければ直美が嬉しそうに微笑んでいる。
どうやらまたおはようのキスで起こされたらしい……ここに引っ越してきてから毎日だ。
「ほらほらぁ、早くご飯食べないと遅刻しちゃうぞぉ~」
「わ、わかってるよ……ちょっと待って……」
昨夜も酷使した腰を軽くたたきながら起き上がり、抱き着いてきた直美を引きずる様に居間へと向かう。
「はい、あなたぁ……きょぉもたっぷり食べて精をつけてお仕事頑張ってぇ~」
「あ、ああもちろんだよ……だ、だけど今日は帰りが遅くなるから先に寝てて……」
「そっかぁ、遅いのかぁ……じゃぁきょぉのノルマは三回でいいよぉ~」
「だ、だから先に寝て……お、おじさんそろそろ倒れちゃうよぉ……」
「だいじょーぶぃ、最近史郎さんがうんどーして体力付けてるの知ってんだからねぇ~」
(いざというときに備えて身体を鍛えてるだけなんだけどなぁ……せっかくの体力を搾り取らないでほしい……)
しかしにこやかに笑う直美を見ているとどうしても抵抗する気になれない。
何せこの笑顔を守るために頑張ってきたのだ。
それに俺も直美と……新妻といちゃつくのが嫌なわけがないのだから。
「やれやれ……仕方ない子だなぁ」
「えへへ~、私もぉ子供じゃないもん……史郎さんの奥さんの、雨宮直美だもぉん」
幸せそうに椅子に座る俺に抱き付いて頬擦りする直美。
余りにも可愛すぎて、俺も食事を止めて直美の顔に手を伸ばした。
そしてこちらに顔を向けさせて、改めて俺の主導でキスしなおす。
「あん……し、史郎さぁん……朝からこんなことしちゃ駄目ぇ……」
「直美が可愛すぎるから我慢できないよ……それに先にキスしたのは直美だろ?」
「だってぇ史郎さんが起きないからぁ……んぅ……首筋も駄目ぇ……跡が付いちゃうよぉ~」
「その割に抵抗が弱いなぁ……それにこんなに肌を赤く火照らせて……誘ってるようにしか見えないよ」
「ち、違うもぉん……し、史郎さんがエッチだからそう見えちゃうだけなんだからぁ……んぅ……」
口ぶりとは裏腹に、直美は抵抗するどころか俺の腕の中に倒れかかり可愛らしく悶え始める。
その仕草が魅力的過ぎて、俺はどうしても直美にちょっかいを出すのを止めることができない。
「どっちがエッチなのかなぁ……ほら、直美はここが弱いんだよなぁ」
「あ……そ、そこはぁ……」
『ピンポーン』
「っ!?」
唐突に鳴り響いたインターホンが俺を正気に引き戻した。
『直美ちゃぁ~ん、学校遅刻しちゃうよぉ~』
『どうせおじさまと遊んでいるのだろう……この私を待たせるとはいい度胸だ直美』
直美のお友達二人が、不満げにインターホンのカメラを覗き込んでいる。
恐らく直美が待ち合わせの場所に来なかったから家まで迎えに来たのだろう。
「げ、げげぇっ!? も、もぉそんな時間っ!? やばぁっ!?」
直美も時計を見るなり、弾かれたように俺の腕から飛び出しバタバタと学校に行く支度を始めた。
(わ、悪いことをしてしまった……直美にも……友達にも……)
少し前にあった亜紀関連のトラブルには反社会勢力が絡んでいた。
それを知ったこの二人は万が一のことを考えて、直美とこうして一緒に登下校してくれているのだ。
尤も既に解決済みでほぼ安全なのだが、ありがたいことには変わりがない。
「じゃ、じゃぁ私行ってくるからね……史郎さんもお仕事頑張ってねっ!!」
「分かってるよ……直美も頑張って勉強するんだよ?」
「はぁい……行ってきまぁすっ!!」
「はい、じゃあいつもの……あれ?」
よほど切羽詰まっていたのか、行ってきますのキスを忘れて飛び出していった直美。
何か妙に口が寂しいような、物足りないような気分だ。
(あんなにキスしてるのになぁ……まあ、帰ってきたらその分もたくさんしてやろぉっと)
直美と触れ合っていたらもう疲れなどどこかに行ってしまった。
俺は今夜を楽しみにしながら、意気揚々と仕事に向かう準備をするのだった。
「し、史郎さんっ!! し、下着取ってきてぇっ!!」
「ま、まだ行ってなかったの……というか何で下着を穿き忘れるのぉっ!?」
「き、昨日史郎さんが脱がせ……ってそんなこと言ってる時間ないのぉっ!!」
「ああもぉ仕方ない……って直美っ!! 普通の下着はどうしたのぉっ!?」
「史郎さんが好きそうな奴しか持ってきてないのぉっ!! ほら、そのハートの穴が開いてるやつでいいから早くぅっ!!」
「絶対だめぇっ!! こんなのは俺の前でしか穿いちゃいけませぇんっ!!」




