平日の夜⑤
「……あぁ……もうこんな時間……電車はギリギリ……くそ……」
同僚のミスをフォローするためにサービス残業する羽目になった。
心配する家族が居ないからという理由でどいつもこいつも俺に押し付けて帰ったのだ。
(やっぱり……ブラック企業過ぎる……)
何とか仕事を終わらせて、疲れる身体を引きずって自宅まで帰り着いた。
おぼつかない手で鍵を開けて家の中に入ると同時にまた倒れ込む。
ここの所、ほぼ毎日だ。
(辛い……苦しい……早く寝よう……寝て忘れよう……)
ベッドまで這いずる様にして向かう。
そして横になって何とか目を閉じる。
「……」
時計の針の音がうるさい。
疲労が全身を襲っているのに眠くならない。
(眠らないと……明日持たないぞ……絶対叱られる……)
考えたくもない仕事のことばかりが頭に浮かぶ。
今日の仕事にミスはなかったか、最後の訂正はあっていたか。
明日上司に何と伝えるか、仕事をやる順番はどうするべきか。
(畜生……やってられるか……寝よう……眠らせて……)
だけど眼が冴えて全く眠れない。
仕事のミスに対する不安が持ち上がる、上司の態度が気になる、同僚の視線が気になる。
気になる、気になる、気になる、気になる、何もかも気になって仕方がない。
「……あぁあああああっ!!」
思わず叫んでしまう。
心中のモヤモヤを吹き飛ばしたかった。
「……っ」
隣の部屋に明かりがついて、窓から声が聞こえてくる。
どうやら直美を起こしてしまったようだ。
明日学校だというのに申し訳ないことをしてしまった。
(俺は馬鹿だな……)
窓を開けて、寝ぼけ眼でこちらを見ている白いネグリジェ姿の直美に頭を下げる。
「ごめん……起こしちゃったか?」
「ううん、いいんだけど……ふぁぁ……どしたの?」
「何でもない……ごめんね、もう大丈夫だから」
「でもぉ……ふぁぁ……そうだ……」
直美は眠たそうにしながら窓を閉めた。
そして部屋の明かりが消えるのを確認して俺はほっと安堵の息を洩らした。
大人として学生の直美に迷惑をかけるわけにはいかない。
(何とか眠ってみるか……)
もう一度ベッドに横になるが、やはり余計な事ばかり気になる。
時計の針の音、鍵が開く音、廊下のきしむ音、仕事のこと。
(……あれ、今何か?)
「おじさーん……ふぁぁぁ……来たよぉ……」
「な、直美ちゃんっ!? ど、どうしたの?」
「こんな時間まで起きてて……むにゃむにゃ……眠れないんでしょ……お胸貸してあげる……」
「えっ!? な、何をっ!?」
驚く俺を避けてベッドに入り込んだ直美。
至近距離で嗅ぐ女の子の妖艶な香りに目の前がくらくらする。
しかも近くで見るとネグリジェは僅かに透けていて、直美の綺麗なピンク色の乳首が見えてしまう。
「ほらぁ……心臓の音聞いて……落ち着くでしょ……」
「うぅ……柔らかい……」
直美は俺の頭を正面から抱きかかえ薄手のネグリジェの上から胸に押し当てた。
当然顔中に直美の年齢にしては豊満な乳房の柔らかい感触が伝わってくる。
鼻には肌から漂う石鹸と僅かな汗が混じった刺激的な香りが突き刺さる。
(こ、これじゃ余計に眠れない……っ)
何とか顔の向きを変えて、耳を胸に押し当てる形にする。
そして……直美の穏やかな心音が伝わってきた。
柔らかい極上なクッションと眠りを誘う優しい振動。
(そういえば……昔よく……してあげた……)
俺はストレスも何もかも忘れて、ゆっくりと目を閉じるのだった。