定休日⑤
「むぅ……どうすればナァミが活躍でき……電話だぁ、ちょっと失礼」
俺と直美、そして亮でゲーム配信を続けていると直美の携帯にグループ通話の連絡が入ってきた。
一旦マイクをオフにして直美がスピーカー状態で電話に出る。
『直美ちゃん、私たちも時間できたよぉ』
『盛り上がっているようだね、私たちも参加させてもらえないかな?』
「おお、皆川に美瑠……お兄ちゃんさんは放っておいていいのぉ?」
『ふん、だ……可愛いからってあんな男の娘にデレデレしてるお兄ちゃんなんか知らないもん』
『兄さんなら私を置いて出かけたよ……ふふ、帰ってきたら折檻だな』
露骨に不機嫌そうな皆川さんと、恐ろしさを感じさせる笑い声をあげている美瑠さん。
(前に直美が言っていた通り、本当にブラコンなんだなぁ……)
「あららぁ、かわいそぉ~……直美はおじさんと一緒に遊んでるんだけどねぇ~」
『あれ、じゃあおじさん近くにいるの? こんにちわぁ、陽花だよ~』
『この間は失礼したね、私は皆賀美瑠だ……今後ともよろしく頼む』
「ああ、どうも雨宮史郎です……いつも直美がお世話になってます、これからも仲良くしてあげて……」
「お、おじさぁんっ!? そ、そういうのいいからぁっ!?」
恥ずかしそうに俺の言葉を遮る直美。
だがせっかくの機会だ、俺としてはしっかり挨拶をしておきたい。
俺の目が届かない所にいる直美を支えてくれた、大事な友人なのだから。
『いやいや直美にはこちらこそお世話になっている……頭は愚かだが温かい心の持ち主故に共にいて心地よいのだよ』
『そうそう、直美ちゃんお馬鹿だけどいい子だから……一緒に遊んでると陽花も楽しいんだぁ』
「あ、あんたらぁ……直美を馬鹿にしてんのっ!? 褒めてんのっ!? ツーかどっちにしても恥ずかしいから止めなさいよぉっ!!」
直美は友人たちに食って掛かる……どうやらよほど恥ずかしかったらしい。
耳まで真っ赤に染めて大声で怒鳴りかかって……だけど頬は僅かに緩んでいる。
(……本当にいい友達を持てたんだね、おじさん嬉しいよ……あとちょっと羨ましいよ)
『ウホ? ウホホォウッ!? ウッホーーーッ!!』
ゲーム画面でうるさく叫び続ける俺の友人と比べてみると、なんだか無性に泣きたくなってくる。
『ウホォ……』『ウッホホォッ!!』『ウホウホォ(さっさと再開)』『ウホーーーウホーーーッ!!』
『ウホォオオオオオっ!!』
気が付けばコメント欄までゴリラに浸食されている。
彼らの音頭をとる様に咆哮している亮……正直もう音声をミュートにしてやりたい。
(直美の親友=良い子、俺の親友=ゴリラ……何だろうこの差は……いや亮も良い奴なのはわかってんだけどさぁ……)
非常に疲れてくる……そしてこの訳の分からない配信を続けるのもまた疲れそうだ。
(というか……もうこれゲーム配信というよりゴリラ配信と化しているような……?)
見ているだけで精神力が削られそうで、俺は一旦モニターから目を逸らして直美の友人との会話に戻ることにした。
「でも本当に感謝してるよ……勉強も沢山面倒見てもらってるみたいだし、ありがとう」
『直美ちゃん本当に勉強嫌いだから陽花たち大変だったんだよぉ……だけど最近は自分から勉強するようになったんだよ』
『唐突に学業に力を入れて進路も真面目に考えだして……何かあったのだろうが私たちにも教えてくれないのだ』
「そうなんだ……何かあったの直美?」
「うぐぐぅ……こ、このタイミングでその話は無しぃっ!! ま、また今度話すからぁっ!!」
直美は強引にこの話題を打ち切ろうとする、どうやら何か訳アリのようだ。
「直美が話したくないなら聞かないけど……おじさんはいつでも相談に乗るからね」
『陽花たちもお話ぐらい聞けるんだからね、何かあったら言ってよっ!!』
「わ、わかってるって……真面目な話だけどそんな深刻になるようなことじゃないのぉ……全くみんなお節介なんだからぁ」
『直美は妙に抱え込むところがあるから心配なんだ……頼むから何かあったら相談してほしい……』
「もぉ、大げさだなぁ二人とも…………ありがとぉ」
二人の真剣な口調を受けて、直美は静かに微笑みながらお礼を口にするのだった。
俺はそんな直美に向かい、電話の向こうにいる二人に聞こえない程度の小さい声をかけた。
「本当にいい友達だね……大事にするんだよ」
「……まあねぇ、宿題やれとかだらしない格好するなぁとか色々と干渉してきて口うるさいけどぉ……そーゆうのも凄く助かってるんだぁ」
「そうか……それがわかってるならいいんだ」
この調子なら直美は……俺や幼馴染のような間違いを犯すことはないだろう。
「うん……直美もね、もう大丈夫なの……おじさんもこいつらもいるし……だからおじさんも何かあったら私とかゴリラとかにそーだんするんだぞぉ」
「……ゴリラには相談したく無いなぁ」
『ウホホホォオオッ!!』
未だにゲーム画面で咆哮している俺の友人を見てため息を漏らす。
尤もこれも冗談で言っているだけだ……本当に俺がピンチの時は相談させてもらうつもりだ。
何だかんだで亮もずっと俺のことを想ってくれていた、大事な友人なのだから。
「そんな顔して言っても説得力ないぞぉ……よぉし、じゃあ皆で一緒にあそぼぉっ!!」
『もちろんだよぉっ!! だけどあんまり一人で暴走しないでよぉ……陽……ヨッカはフォローするの大変なんだからぁ』
『なぁに、いざとなれば私がどうとでもして見せるさ』
「さっすがぁミィル格好いい~……そぉだおじさんと罰ゲームをかけてバトル……」
「勘弁してください……それよりトールが待ちくたびれてるから……」
不穏なことを言う直美に頭を下げながら、俺たちは皆でゲーム配信に興じるのだった。
『今から参加させてもらうミィルだ、よろしく頼む』
『ヨッカだよぉ、ええとぉ雷神トールさんよろしくぅ~』
『女の子が増えたぁっ!? 俺ハーレムタイムぅうううっ!! どうも初めましてお嬢さん方、俺は歌って踊れるナイスガイな……』
『ゴリラがしゃべるな』『良いからウホウホしてろよ……』『ナァミちゃん、こいつミュートに出来ないの?』
『みんな酷いウホォオっ!?』
(あんだけ息が合ってたのに一気に手のひら返しされてる……可哀そうな亮……)




