定休日④
「みなさぁん、これからナァミとおじさんの華麗なプレェ見せちゃうんだからねぇっ!!」
『協力プレイっ!?』『寄生プレイとか最低だなおっさん』『通報しました』『おっさん負けたら罰ゲームで出頭』
(俺が何をしたぁ……)
せっかくゲーム機やテレビも二台あるのだから協力プレイでもしようと思ったらこれだ。
どいつもこいつも俺にばっかり厳しい気がする。
『ナァミちゃんの華麗な死因を見に来ました』『地雷プレイ期待してます』『モウダメダーオシマイダー』
「今言ったやつら覚えたからなぁっ!! ナァミの活躍見てから謝っても遅いんだからねぇっ!!」
(いや直美相手にも厳しいなぁ……この動画自体がそういう目で見られてるのかなぁ……)
仮にも俺のアカウントだというのに酷い話だ……尤も地味に視聴者数は増えていてあと少しで四桁に達しそうだ。
『この間の子は居ないんですか?』『おっさんよりあの子たち出してよ~』『チェンジ』
「……俺で我慢してください」
「いちおー連絡してあるから後から参加するかもぉ……おじさんの方はどぉ?」
「もうすぐ来ると思うけど……ほら」
『いえぇえええいっ!! 雷神トール様のお出ましだぜええええっ!!』
うるさい奴がパーティに入ってきた、もちろんあの馬鹿……亮だ。
実は前に直美と一夜を過ごした際にかかっていた電話、あれはゲームのフレンド申請をしようというものだったのだ。
(あれからも定期的に電話してきやがって……俺は直美とイチャつくので忙しいんだよぉ)
しかし余り無下に断るのも悪い、何だかんだで俺たちのことを気遣ってくれている……友人なのだ。
だから休日にこうして一緒にゲーム配信をすることになったのだ。
『雷神トールww』『誰これ?』『うるさい』『チェンジ』
『はっはっはーっ!! 呼ばれて飛び出てこんにちわだぜっ!!』
「トールうるせぇ、マイクの音量下げろ……」
「相変わらずだなぁとーるおじさんはぁ……こっちのおじさんのリアル友達なんだけどぉ……というかなんで雷神?」
『外国の神様にそう言うのが居るんだよ……俺に相応しい名前だろ?』
そう言って笑う亮のアカウント名は、ローマ字で『RAIJIN・TOORU』と書かれている。
『痛い』『痛い』『痛い』「痛い」『痛い』『痛い』
『うっせぇえええっ!! というかさりげなくお前まで言ってんじゃねぇよ史ろ……レインフォースって何だよその名前はっ!?』
「良い名前だろ……少なくともお前のよりオリジナリティに溢れているだろうが……」
(アマ宮シ郎……雨と四でレインフォース……本当はデッドレインにしたかったけど……)
『納得』『おっさんの類友』『どっちも痛い』『ナァミちゃんこいつら捨てて俺とやろうよ?』
「……さっさと始めようなナァミ」
「もぉ露骨に嫉妬しないのぉ……じゃあはじめるよぉ~」
『いえぇええいっ!! 女の子と一緒にゲーム最高ぉっ!! おらぁ、負け犬どもよく見とけよ俺の輝きぃいいいっ!!』
『低評価』『低評価』『低評価』『低評価』
亮のお陰でこの動画の評価はあっという間に大暴落だ。
「あぁああああっ!? な、ナァミのひょぉかがぁあああっ!?」
『ちっちっち、ナァミちゃんここからプレイの内容で見せて一気に逆転させてやるんだよ……俺たちの偉業が伝説に残るぜっ!!』
「うぅ……お、おじさぁんほんとぉ?」
「とにかく始めよう……んで役に立たなかったら追い出そう」
『レイン君っ!?』
亮の声を無視していつものFPSゲームを起動するとすぐに試合が始まった。
六人でやるゲームだが大抵アタッカー二人、タンク二人、ヒーラー二人で役割は決まっている。
(こっちは三人チームだからある程度は合わさなきゃ駄目だが……一人ぐらいは自由に決めてもいいだろう)
「ナァミは好きなキャラ選んでいいよ……トールは……おいっ!?」
『ウホッ?』
誰よりも早くゴリラを選んだ馬鹿。
役割上は一応タンクだが動きが独特なので、よほどうまく動かないと味方に迷惑が掛かることになる。
「とーるおじさん、それ使えるのぉ?」
『ウホホホォッ!!』
「完全にゴリラになってる……もう駄目だこいつは……」
既に会話すら成り立たない……何のためにボイスチャットをしているのかわからなくなってきた。
(マジで役に立たなかったら追い出そう……というかもうブロックしてやろう……)
「ええとぉ、他の人はヒーラー二人とアタッカーが一人……ナァミはアタッカー使ってもいーい?」
「いいよ……俺がタンクを使うから……はぁ……」
始まる前から疲れながらも、俺は仲間の構成を考えて鎧を着こんだおじさんを選んだ。
正面に大きい盾を張って味方を守るオーソドックスなメインタンクだ……本当は亮がサブタンクを選べば構成はかなり盤石だったのだが仕方がない。
『これおじさんの負担半端ない奴だ』『流石に酷い』『おい雷神、何考えてんのお前?』
『ウッホホ~イッ!!』
「……とーるおじさん、ほんとぉにメンタル強いよねぇ」
コメントを残している人たちからも叩かれまくっているのに亮は、元気にウホウホしている。
「とにかくナァミは俺から離れないように……攻めるタイミングは指示するから」
「はぁい……始まったよぉっ!!」
『ウッホーーーーッっ!!』
「あっ!? ば、馬鹿っ!?」
何も考えず敵陣に飛んでいったゴリラ……もう何も考えまい。
仕方ないので他の味方と足並みを揃えて進むことにする。
「じゃあ一緒に……」
「あぁっ!? ひ、ヒーラーさんがぁあっ!?」
壁に貼り付いて移動できるヒーラーが、ゴリラの後について行った。
更にその後を天使のコスプレをしたおばさんが、翼を広げて追いかけていく。
それを見ていた爆弾魔も、何も考えず突っ込んでいった。
「お、おじさぁん……ナァミどおしよぉ?」
「……好きに暴れてくれ、俺もキャラ変えるわ」
もうチームプレイも何もあったもんじゃない、俺も単独で暴れることを決意した。
一旦自陣に戻り、機動力の高い忍者を選びなおし前線へと向かう。
『酷い』『何だこの試合……』『負け確』『すげぇ、メンバーの半分以上が地雷だ……』
「な、ナァミは地雷じゃなかったからねっ!! 今回負けてもとーるおじさんのせいだからねっ!!」
『ホッホホォオオっ!!』
「マジで脳みそゴリラかよ……」
全く会話が成り立たない、もう試合展開はめちゃくちゃだ。
だからと言ってあきらめる気にはならず、俺も全力で戦闘を開始する。
(……あれ?)
「お、おじさん……何か相手物凄く脆いんだけどぉ……」
直美の言う通り、敵は何故かヒーラーが全然活躍していない……タンクとアタッカーも位置が分担されている。
『ウッホーーーッ!!』
よくよく観察してみると復活して戻ってきたヒーラーを亮が的確に潰して回っている。
そこで気づいた、先ほどから細かく味方の状態を観察しているが……亮は未だに一度も倒されていない。
ずっと前線で暴れ続けているのだ、そのおかげで敵の足並みが物凄く崩れているようだ。
「……俺が機動力を生かしてタンクの裏に回るからナァミは正面から打ってて」
「あ、うん……」
『ちょ……』『えぇ……』『嘘だろぉ……』『ナニコレ……?』
動画を見ている奴も困惑気味なコメントばかりだ。
まあ実際にプレイしている俺たちですら困惑しているのだから当然だろう。
とにかく俺は亮が手を出しにくいキャラを始末することに専念する。
(味方のヒーラーがあんま活躍してないのがきついが……いけそうだなこれ……)
俺の予想通り、亮が一度も死なずにかき乱し続け……本当に勝利してしまった。
「……勝っちゃったぁ」
「……マジかよぉ」
『ウホホォオオオッ!!』
ゴリラが咆哮している……試合後の一番活躍したキャラのムービーも亮のプレイだった。
物凄く素早い動きで敵の弱いところ……というか、女キャラを追い回して倒しまくっている。
さらには必殺技を使って、敵全員を城外に弾き飛ばしてチームキルまで取っていた。
「お前、キル数幾つになった?」
『42ウホォ』
「……ナァミのランクに合わせてるとはいえ……何だこいつ?」
『なにこの……何?』『ゴリラによるゴリラ動画?』『手のひら返……したくねぇ』『えぇ……』
「あ、アタッカーのナァミより多いぃ……おじさんどぉなってるのぉっ!?」
(俺に怒鳴られてもなぁ……こいつマジで何なんだよ……)
その後も亮はゴリラを使い続け、どうしようもない事故死を除いて一度も倒れることなく暴れ続けた。
だから俺が亮の倒しきれないタンクやアタッカーを処理するだけで問題なく勝ててしまう。
お陰でどんどんと伸びていく連勝記録と比例するように、動画のコメントはどんどん困惑気味になっていくのだった。
「じゅ、十連勝っ!? な、ナァミ初めて十連勝しちゃったぁっ!?」
『ナァミちゃんは何もしてない……』『ゴリラ無双……』『雷神がマジで雷神……』『レインとトール以外要らねぇ……』『強いし勝てるけど……こいつらと絶対組みたくねぇ……』
「も、もっとナァミを褒めてよぉっ!? 大体これナァミの動画なんだからねぇっ!?」
「諦めようナァミ、今回ばかりはあいつが主役だよ……」
『ウッホッホ~~~ッ!!』




