平日⑩
「お帰りなさぁいあなたぁ~、ご飯かお風呂……もしくは私のどれにするぅ?」
「ただいま、そうだねじゃあ直美から貰おうかな……んっ」
「んむっ!?」
玄関まで出迎えてくれたエプロン姿の可愛い恋人、余りにも魅力的なのでついつい唇を堪能してしまった。
(一度最後までしたら色々と抵抗がなくなってしまった……我ながら単純だなぁ……)
まさか本当に俺がキスしてくるのは予想外だったようで直美は目を白黒させた。
しかしすぐに嬉しそうに抱き着き、うっとりとした様子で俺に身を任せた。
「んぅ~……はぁ、おじさぁん最近積極的で直美すっごい幸せぇ~」
「お気に召して何よりだよ……ほらご飯にしようね」
「はぁ~い、きょぉも美味しーの作ったからいっぱい食べてねぇ~」
すっかり気分を良くして、俺の腕をとって家の中に引っ張る直美……とても可愛い。
鼻歌を歌いながら台所から食事をとってきて並べる直美……やっぱり可愛い。
俺の前に座り、久しぶりに頬杖をついて俺を眺めて微笑む直美……超可愛い。
「なぁにおじさぁん、そんなに見つめちゃってぇ……直美の顔に何かついてるのぉ~?」
「とっても可愛い目と鼻と口が付いてるよ……直美こそ俺の顔なんか見てもつまらないだろ?」
「えぇ~、そんなことないよぉ……最近おじさん顔つきも引き締まってるしぃ声も前よりはきはきしてるしぃ……直美見惚れちゃうんだぁ~」
「それは直美が自信をつけてくれたお陰だね、ありがとう直美」
「やぁん、そんなかっこぉいい顔で言われたら直美ドキッとしちゃうよぉ」
頬を火照らせて恥ずかしそうにしながら、だけど直美は決して俺から目を離そうとしなかった。
俺もそんな可愛い直美をずっと見ていたくて、何度も食事の手を止めて見つめてしまう。
「もぉ、おじさんお手手が止まってるよぉ……早く食べて一緒にお風呂入ろうよぉ~」
「一緒にって……そんなことしたらおじさん止まれなくなっちゃうよ?」
「別にいいよぉ~、じゃぁ先にゴムもってきとこーか?」
「出来れば普通に……ベッドがいいんだけどなぁ」
悪戯っ子のようにノリノリで笑う直美、だけど俺も行為に対して否定することはしない。
もう直美と愛し合うことに関して躊躇いはないのだ。
(前は直美のことを考えてとか言って思考停止してたけど……年頃の直美としては恋人とシないほうが変なんだよなぁ……)
今時の女性は平均すると約十八歳までに初体験を終えるらしい。
それはともかくとしても、実際のところ確かに思春期の人間に恋人が出来たら行為にまで至るのはある意味自然な考えだ。
冷静に大人になるまでだとか、結婚してからだとか……そんな理屈で恋心を押さえつけられるものではない。
(要するに避妊だけしっかりしてればいい……その辺を俺が気を付けてやれば問題はない……と自分に言い聞かせておこう)
結局のところ俺とてしたくないわけではないのだ。
尤も快楽目的というよりも、愛する直美に応えてあげたい……魅力的な顔を見たいという思いのほうが強いのだが。
「べぇつに直美はいつでもどこでもOKなんだけどなぁ~、まぁ初心なおじさんにあわせてあげましょ~」
「ありがとう直美……ご馳走様、美味しかったよ」
「よろしぃっ!! じゃぁ早速お風呂……の前にまた少しお話しよっか?」
「そうだね、今日も……色々とお話ししよう」
食器を片付けると俺たちは改めて食卓に座り、互いを見つめた。
ただし今度は結構真面目な顔だ……直美が可愛いから頬が緩みそうになるが基本真面目な顔だ。
直美も真剣に俺を見ている、目じりが緩みそうになっているが真剣だ。
「ええとぉ、じゃぁ……まず直美からきーていい?」
「うん、何でも聞いてよ」
この間から始まった話し合いの時間、ここではお互いに聞きづらかったことを訊ね合うことにしている。
もう二度と直美を傷つけたくない、俺のことを勘違いしてほしくない……だから今まで目を逸らしていたことに向き合う覚悟を二人で決めたのだ。
(この前は霧島のことを聞かれたんだよなぁ……)
幼馴染で初恋の相手だったと伝えても直美は取り乱すことなく受け止めてくれた……尤もその夜は色々と大変だったが。
逆に俺は直美が何でギャルっぽい姿になったのかを聞いたのだった。
(まさか幼馴染が残した服を着てたなんてなぁ……全く知らなかった……)
余り俺たちに負担をかけまいと、一人暮らしをするようになってから洋服代を節約するため幼馴染の服を着ていたようだ。
当然霧島が変貌したのと同じ高校生になるとその手の派手な服しか着るものが無くなり……そのままだと浮いてしまうので合わせてイメチェンしたというのが真相だったそうだ。
ちなみに過激な行動の数々は、両親を失っている俺を慰める目的と……恋心が暴走した結果だと言いずらそうに語っていた。
(要するに格好の変化と行動を起こすタイミングが偶然噛み合ったんだなぁ……)
だから俺が望むなら次の長期休みにでも戻すと言ってくれた……尤も俺としてはどっちでも構わないのだが。
強いて言えばこの過激な姿で他の男性を刺激してほしくはないが、かといって無理に元に戻してほしいとも思わない。
(直美は直美だからなぁ……それにこの姿も見慣れてるし……)
「おじさぁん、どこ見てんのぉ?」
「可愛い直美の魅力的な脚線美」
「サラっと言ったぁ、流石亮おじさんの親友だぁ」
「……今なんか物凄く失礼なこと言わなかった?」
「気のせぇだよぉ……ああ、いつでも触っていーかんねぇ……おじさんならもう年中無給だからぁ~」
(無休? いや、無給……無料って言いたかったのかな?)
「ありがと……それより、何も聞くことないの?」
「ああ、ちょぉっとまってぇ……えっとねぇ……いつから直美のこと好きだったのぉ?」
「うーん、ずっと可愛い子だと思ってたけど意識し始めたのは……やっぱり色々と過激に攻められてからかなぁ」
「おぉ、直美の誘惑は効果的だったんだぁ……あいつに似てるから、じゃないんだよね?」
「それはないよ、むしろあいつのせいで女性恐怖症になったから……だから色々躊躇してたんだけど、直美の魅力が上回ったよ」
俺の言葉を聞いて、直美は安心したように頷いた。
「えへへ、ならよかったぁ……あいつの代わりだなんて言われたら流石にショックだったよぉ」
「ないない、当時は声も出ないぐらい悩んでて……憎しみもあったぐらいだし……」
「そこまで悩んでたんだぁ……あいつは本当にさぁ……」
「けど、そのおかげで直美と出会えたから……俺が受けた仕打ちはもう何とも思わないよ」
そう、許せないのは直美にした仕打ちだけ……それだけは絶対に許すわけにはいかない。
「もぉ、おじさんは優しすぎるよぉ……」
「違うよ、直美と出会えたことがそれだけ嬉しかったんだよ……俺の人生の全ての不幸と比べてもお釣りがくる……本当に俺は幸せ者だよ」
「えへへ、直美もおじさんと恋人になれてとっても幸せぇ……生きててよかったぁ」
俺の隣に座り直しすり寄ってくる直美、その肩に腕を回し抱きしめる。
これだけで胸が穏やかになる、本当に幸せだ。
「これからもずっと一緒にいるから……二人で幸せになろうな直美」
「うん……ずっと一緒がいい……おじさんの……史郎さんの隣に居たいの」
直美はうっとりした様子で俺を見上げる。
俺もまた直美に見とれながら、ゆっくりと顔を近づけた。
「直美、愛してるよ……」
「んっ……」
そしてどちらからともなく、自然と唇を重ね合わせるのだった。
「……はぁ……おじさぁん……直美、やっぱり先に……ベッド行きたいなぁ」
「……今夜は寝かせないぞ、なんてな」
「きゃぁーっ!! おじさんかっこぃーっ!!」
「ははは、よぉしじゃあお姫様抱っこで連れてって……うぐっ!?」
「だ、だから直美重くないってばぁっ!! おじさんの意地悪ぅうううっ!!」




