休日②
「はい……はい……すみません……ええ、それはもう大丈夫……いえ、そういうわけじゃ……ごめんなさい、申し訳ございません」
『だからお前の説明はわかりづらいんだよっ!! 全く報連相すらろくにできねーのかよっ!!』
「すみません、ですけどその件はもう……で、ですから問題はそこではなくて……ああ、ごめんなさい……説明不足です、はい」
休日だというのに朝からクレーム対応とは名ばかりの上司のストレス発散に付き合わされる。
問題は何もなく、ただのお客様の勘違いでしかない。
しかし最初から俺に問題があると決めつけて怒鳴りかかったから、いまさら間違いを認めてプライドが傷付くのが嫌なのだろう。
(怒って有耶無耶にしようとしてんのバレバレだぞ……はぁ、やだやだ……)
何とかタイミングを見計らって電話を切ることに成功した。
しかし朝から疲れ切ってしまった。
もう何もせずに眠り続けたい。
「……っ」
窓ガラス越しに声が聞こえた。
身体を起こすのもおっくうだったが声は止みそうにない。
無理やり窓まで近づいてカーテンを開けると、向こうで直美が手を振っていた。
「……ごめん、今ちょっと疲れてるから」
「あらぁ、そんなこといっていいのぉ……せっかくこんなもの用意したのにぃ……じゃじゃーんっ!!」
「何を……ええ、ゲーム機買っちゃったのぉ?」
ゲーム機と昨日俺の家でやったゲームソフトのパッケージを見せつけてくる。
散々暴れて、最後にはコントローラを投げ捨てて帰って行ったというのに結構気に入っていたようだ。
「おじさんのことだから友達と一緒にやったことなんかないでしょぉ……付き合ってあ・げ・る」
「……やれやれ、仕方ない」
流石にゲームを買ってきてしまった以上は付き合ってあげないと可哀そうだ。
俺は昨日と同じようにゲーム機を起動して、パーティ招待の機能を起動した。
「それでアカウント名は何にしたんだ?」
「……あかうんとぉ? よくわかんなぁい、どこ見ればいいのぉ?」
ゲーム機とゲームソフトが入っていた箱を窓越しにこっちに渡そうとする直美。
「……それは関係ないから……はぁ……今そっち行って設定するから待ってて」
「ほんとぉっ!! よろしくぅっ!!」
直美が笑いながら部屋から出ていった。
俺も部屋を出て表から直美の……霧島家を訪ねた。
「いらっしゃーいっ!! お風呂にしますご飯にします、それともわ・た・し・っ!?」
「……食事作れるようになったのか、偉い偉い」
「あっ……そ、それは駄目だってばぁ……馬鹿ぁ……」
昔の癖で頭を撫でてやると途端にうつむいてしまう。
(しまった……子ども扱いされるの嫌ってるの忘れてた……)
「悪い……忘れてたよ、ごめんね」
「……全くおじさんはすぐ忘れるんだからぁ、罰金だからねぇ」
「うぅ……ゲーム機を設定するから勘弁してよぉ」
俺は直美の部屋へと移動すると早速ゲーム機の設定を始めた。
ついでにテレビとも接続を済ませて、ソフトのアップデートを開始する。
「これでできるのー?」
「アップデートが終わればな……初回だから数時間かかると思うけど……」
「えぇーそんなにぃ……もうつまんないなぁ」
膨れて自分の……かつて幼馴染が使っていたのと同じベッドに倒れ込む直美。
部屋の中を見回すと見覚えのある家具に、馴染みのない物が配置されている。
(あの馬鹿……どこに居るんだか……)
未だに連絡が付かない幼馴染。
変な男に騙されて売り飛ばされただとか薬に手を出して国外に逃亡したとかそんな噂ばかり聞こえてくる。
おかげで母親は追い詰められて自殺未遂を起こした挙句に精神を病んで入院、親父さんは愛人と失踪……霧島家はバラバラだ。
「どーしたのぉおじさん?」
「いや、ちょっとね……終わるまでご飯でも食べに行くか?」
「おじさんの奢りっ!? やったぁっ!!」
俺の腕に飛びついた直美、こういうところは昔と同じだ。
会ったばかりの時も、力なく俺の服に手を伸ばして掴んで離さなかった。
見た目は成長したが、案外中身はそこまで変わっていないのかもしれない。
(だけど、あの時保護できなかったら……どうなってたのか……)
直美が育児放棄されていることは近所でも有名な話だったらしい。
しかし世間体を気にする直美の祖父母のせいでどこに通報しても公的機関の介入は失敗に終わった。
さらに変な噂が広まってることや祖母が心を病んでいることもあり、そのうち腫物扱いされていき……誰も関わろうとしなくなった。
だけど俺は、あの小さい手を払うことができなかった。
(うちの両親には本当に迷惑かけたなぁ……)
家に連れ込み渋る両親に土下座して協力してもらい、俺もまた少ない時間を利用して直美の世話をし続けた。
お陰で今ではこんなにも立派に育って……孤独になった俺を救ってくれている。
本当にありがたい事だと思う。
「ほらぁ早く行こーってばぁ」
「わかったわかったから、そんなに引っ張らないの……」
俺はもう電話で受けた疲労など忘れ去って、直美と共に出かけるのだった。
「あ、そだ……設定とご飯のお礼にオッパイ揉んでいいよぉ」
(この子、やっぱり変わったわ)
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