友人との別れ
「晩御飯も美味しかったよ、今日は色々とありがとうね直美ちゃん……」
「もぉ帰っちゃうのぉ……直美ちょっと寂しいなぁ」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ……だけど俺は明日もお仕事なのだよぉ、社畜は辛いぜぇ……」
「マジかぁ……日曜日なのに仕事ってどうなってんだお前?」
「ネット関係の仕事だし、しかも俺って管理職だからなぁ、そうそう休みがないんだよぉ……ぐすん」
泣き真似をしながら玄関先に立った亮を、俺と直美は見送りに来ている。
外はまだ日が落ち切っていないが、それでも電車で帰ることを考えればこの時間に帰っておかないと後が辛いようだ。
「あららぁ、とーるおじさんもブラック企業勤めなのぉ?」
「いやいや忙しいけどその分貰ってるからな……だから頑張んねーと」
「……あんま無理すんなよ」
「……無理して身体壊さないでね」
「何だなんだ二人してぇ……この亮様が嫌になったら逃げださないわけないじゃないかぁっ!!」
亮は堂々と言い切って笑って見せた。
俺が苦労したからこその心配だったが、確かに亮なら使い潰される前に要領よく逃げ出すだろう。
「まあ、何かあったら相談ぐらい乗るぞ……いつでも連絡して来いよ」
「分かってるって、そっちこそ何かあったら……いやいっそ惚気でもいいから電話しろよ」
揶揄するように言う亮。
俺がマメに連絡を取るタイプではないとよくわかっているようだ。
(実際今回だって亮からだったし……俺も少しは他所と繋がる努力したほうが良さそうだなぁ……)
直美に共依存から脱却してもらい外に目を向けれるようになってほしい。
そのために自分も変わっていく必要がある。
「分かったよ、くだらないことで電話して忙しいお前の時間を奪ってやるよ」
「受けて立つぜっ!! くだらない話で俺の右に出る奴は居ねぇぜっ!!」
「もぉ、玄関前で張り合わないのぉ……おじさん、そんなに別れるのが名残惜しいなら駅まで送って行ってあげたら?」
「気を使わなくていいって、直美ちゃんは早く史郎と二人きりになってイチャイチャしたいだろ?」
亮の言葉に直美は笑顔のまま首を横に振った。
「少しぐらいへーきだよぉ……どぉせ今後も末ながぁく二人で暮らしていくんだもん」
「まあ確かに亮はもう二度と家に来ることはないだろうし、それに比べたら……」
「あ、雨宮くぅんっ!? じ、実は結構本気で俺に嫉妬してたのぉっ!?」
「んなわけねーだろうが……冗談に決まってるだろ……」
(まあしばらくは呼ばねぇけどな……お前と直美ちゃんを同時に相手にすると死ぬほど疲れるってわかったからな……楽しいけどきついわこれ……)
俺の内心を知らずに亮はほっと胸をなでおろした。
「ああ、よかったぁ……女子高生が接待してくれるこんな上質な喫茶店から出禁喰らったらどうしようかと思ったよ」
「やっぱり出禁、二度とくんな」
「あはは、もぉおじさんはわかりやすいんだからぁ……とにかく送ってきてあげなよ」
「あれ? 直美ちゃんはついてこないの?」
「せっかくだし水入らずで語り合ってきていいよぉ~、直美は奥さんとしてお家の後片付けでもしておくからぁ~」
とても嬉しそうに語る直美、だけど笑顔が怪しい。
「……何か企んでる?」
「えぇ……ひ、酷いなぁおじさんはぁ……べ、べつに直美何も企んでなんかないよぉ~」
露骨に目を逸らして、だけど口元には隠し切れない笑みに歪んでいる。
どうやら何か俺が居ない間にやりたいことがあるようだ。
(だけど直美が夏休みの間に一人きりになる時間はいくらでもあったはずだよなぁ……今更何をしたいんだ?)
分からないが駅まで行って帰ってくる時間はそれほど長くはない。
だからそう変な事態にはならないだろう。
ひょっとしたらサプライズで何か俺を驚かす用意でもしておくつもりかもしれない。
「あんまり変なことはしないでよ?」
「やだなぁ、直美がへんなことするわけないじゃぁん~」
「やれやれ……じゃあお言葉に甘えて、ちょっと送ってくるよ」
何だかんだで、直美が言っていた通り別れるのが惜しいという思いもある。
せっかくなので言われた通り、駅まで送っていくことにした。
「別にいいのになぁ……悪いね直美ちゃん」
「気にしない気にしなぁい、ごゆっくりどぉ~ぞ~」
(……やっぱり怪しいなぁ)
どうも選択を誤った気がするが、今更どうしようもない。
後ろ髪惹かれる思いを抱きながら、俺は亮と並んで駅までの道を歩き出した。
「じゃあ行ってくるからね」
「本当に楽しかったよ直美ちゃん、また会おうなぁ~」
「はぁい、またねぇとーるおじさぁんっ!! いってらっしゃぁい、あ・な・たぁっ!!」
直美は俺たちが最初の曲がり角に到達してもなお、こちらに手を振っていた。
まるで完全に行ったことを確認するかのようにだ。
(や、やっぱり怪しい……けど笑顔だしなぁ……物凄く見覚えのある笑顔だけど……)
前に見たのはどんな時だったか思い出そうと首をひねる。
「いやぁ、悪かったなぁ」
「……何がだ?」
しかし亮の言葉で思考は打ち切られた。
珍しく真面目そうな声で話す亮を無視して思考を続けることなどできなかったのだ。
「はしゃぎ過ぎた……仮にも初対面の、それもまだ学生の子の前で……何やってんだかなぁ……」
「……お前にもそんな分別があったんだなぁ」
「俺ももう三十台だぞぉ……いい加減、もう少し落ち着いた大人になりてぇよ……」
「そうだよなぁ……俺らももう歳だもんなぁ……」
しみじみ思う。
亮とのやり取りが余りにも昔のままだったから、まるで過去に戻ったかのように俺もはしゃいでしまった。
しかしこうして過ぎ去ってみると、我ながら年甲斐もなく騒いでしまった気がする。
「直美ちゃんにも悪いことしたなぁ……せっかくの休日でお前とイチャつけるチャンスだったのに邪魔しちゃったからなぁ……」
「いや、そんなことはないぞ、俺たちは普段からあんな感じだ……邪魔とかされるような関係じゃないし……」
「じゃあどういう関係なんだ?」
「……保護者、のつもりだけど」
言い返しながらも、少しだけ心臓が跳ねるのが分かった。
幾ら亮が相手とはいえ……まさか本当に年下の学生に恋をしているなど言うのが憚られたのだ。
(それだけじゃない……今の俺と直美ちゃんの関係は何なんだろう?)
共依存に近くて、保護欲もあって……多分性欲もある。
直美は俺の恋人だと言ってくれる、俺もそう成りたいとは思っている。
だけど同時に直美には普通の幸せを掴んでほしいと……こんなおっさんではなくもっと釣り合う相手と付き合ってほしいとも考えてしまう。
「俺も最初はそう思ったけど、それにしては直美ちゃんの言動も行動も過剰だし……お前も嫉妬しすぎだしなぁ」
「いやだから嫉妬じゃないって……」
「ほう、じゃあ直美ちゃんにセクハラモドキしたら露骨に怒って見せたのは100%保護欲からなんだな?」
「……セクハラモドキじゃなくて本当のセクハラだろ」
適当に言葉尻を取ってごまかそうとするが亮の追及は止まらなかった。
「だから細かいところに突っ込むなって……んでどうなんだよ? 直美ちゃんに恋愛感情は抱いてないってことか?」
「……どうしてそんなことを聞くんだ?」
「さっき言っただろ、要するに傍目から見て保護者という立場には見えないからそのつもりなら改善しろよって話だ」
亮の指摘に少し胸が痛んだ。
俺と直美の関係を外から冷静に観察したのはこいつが初めてだ。
恐らくは亮の言う通り、俺たちの関係は他所からは異常にしか見えないのだろう。
(いや本当はわかってる……俺たちの関係は歪で……正さなきゃ駄目なんだろう……)
だけど今、無理に距離を置こうとすれば直美は確実に泣くだろう。
それだけは耐えられない、俺はあの子を幸せに……ずっと笑顔でいてほしいのだから。
そしてもう一つ……俺自身も直美から離れたくないのだ。
「……確かに俺たちはまともには見えないかもしれない、だけどそれは俺たちの成り立ちからして……」
「誰もまともじゃねぇなんて言ってないだろ、あくまで保護者の立場としてはおかしくねぇかって言ってんだよ……もう一度聞くぞ、お前は直美ちゃんに全く恋愛感情を抱いてない……イエスorノー?」
「…………NO、だ」
ここまで突っ込まれて、俺をまっすぐ見てくる亮に嘘は付けなかった。
こちらも顔を見返して首を振って見せた。
「やっと素直になったか、なら別に問題ないんじゃないか……いやむしろお前がそう捻くれてるのは問題かな?」
「捻くれてねぇよ、何が問題だって言うんだよ?」
「直美ちゃんがあんだけ好き好き言ってるのにお前そっけないじゃねぇかよ……お前らの言い方からすると俺が居たから遠慮してたわけじゃないんだろ?」
「あのなぁ、俺らは年齢の差もあるし直美ちゃんは他に頼れる男が居ないから俺に寄りかかってるだけ……依存してるだけなんだよ……そこから生まれてる好意をそのまま受け取るわけにはいかないだろうが」
「いや受け取れよ、元がどうであれそれが好意で……お互いに想い合ってるのに何で拒絶すんだよ……」
無責任な亮の言葉に、少しだけ怒りが込み上げる。
「俺はなぁ直美ちゃんに幸せになってほしいんだよっ!! だから直美ちゃんが大人になってまともな判断が出来るようになって……その上でちゃんと恋愛をしてほしいんだっ!!」
「大人ねぇ……それはいつになったらそうなるんだ……お前も俺もそもそもまともな大人なのか?」
「……っ」
返事が思いつかない。
確かに俺はまともな大人とは言い難い気がする。
そして同時に直美がまともな大人になる時がいつくるのかもわからなかった。
「三十超えてる俺たちですら今日大人げなくはしゃいだろ……そうそう人間は変わらねぇぞ、それともお前は直美ちゃんが三十過ぎて……いやお前の考える立派な大人とやらになるまで恋愛させない気か?」
「そ、そんなつもりはないっ!! も、もしも直美ちゃんが釣り合いの取れるまともな人を好きになったら俺は……いつだって祝福するつもりだ……」
「まともな人ねぇ……それはどんな相手だよ?」
「……社会的にも認めてもらえて……皆から羨ましがられて祝福されるような……」
自分で言っていて説得力がないのがわかる。
「ほほう、じゃあお金があって優しくて社交的で社会的地位が高く年齢も近い……その条件を全部満たした奴じゃないと付き合いは認めないってことか?」
「い、いや……な、直美ちゃんが幸せになれるなら……ちゃんとした恋愛なら……」
「今もお前と一緒に居て幸せそうにしてるじゃねぇか……それが駄目だとしたらちゃんとした恋愛って何だよ? 愛情だけじゃダメなのか? お見合いも一目惚れも駄目か? どんなのが普通の恋愛なんだ?」
「……わからねぇよそんなのっ!!」
今度こそはっきりと怒りがこみあげてきて、その感情のままに怒鳴った。
だけどその怒りが何に対してなのかがわからない。
無神経な亮になのか……不甲斐ない俺自身に対してのものなのか……何もわからない。
「お前さぁ、自分でもわからない恋愛じゃなきゃ駄目だとか……我儘すぎるだろ」
「じゃあどうすればいいんだよっ!! 何でも直美ちゃんの言う通りにすればいいのかっ!? 俺が……こんな年の離れたおっさんと、爛れた関係になって……いいわけないじゃないかよ……」
「いいとか悪いとか、どうやって判断してんだよ……まあ俺も恋愛経験はゲームでしかないからわからんけどなぁ」
「お前は結局何が言いたいんだよっ!?」
亮の真意がわからない、何故ここまで俺に厳しい指摘を繰り返すのだろうか。
苦しみに耐えかねて睨みつける俺に、亮は寂しそうに笑って呟いた。
「俺はただお前に……ずっと苦労してきた親友に幸せになってほしいだけだよ……本当にそれだけなんだよ」
「……っ」
「俺さぁ親の転勤ばっかりで友達あんまできなくて、だけどゲームやってればそれでいいって思ってた……だけどお前に会って一緒に遊んですっげぇ毎日楽しかった……だからあんな終わり方したのがショックだったし、何もしてやれなかったのもずっと後悔してたんだよ」
「……俺だって楽しかったさ……だけど俺はお前のことを気遣う余裕もなくて……」
「そこで俺はお前を支えてやるべきだったんだろうなぁ……直美ちゃんみたいに……」
亮はため息をつくと、俺から目を逸らし空を仰いだ。
そしてそのまま口を動かし続ける。
「最初直美ちゃんと……霧島の娘と一緒にいるって聞いて本当に驚いた……同情で流されてまた良いように利用されてるんじゃないかって……だから実際に会って見てもしあいつと同じ雰囲気だったら悪役を買ってでも追い払おうと思ってた……凄くいい子だったけどな」
「……あの子が居てくれなきゃ俺はもうとっくに死んでたからな」
「だろうなぁ……だけどお前も直美ちゃんに同じことをしてあげたんだぞ? わかってるのか?」
亮の言う通りだ。
俺があの時手を差し伸べなければ直美は遠からず死んでいただろう。
「分かってる……だからこそお互いにお互いを神聖視しすぎてて依存しあってるんだ……こんな歪な状態で結ばれるのが正しいとは思えないんだよ……」
「本当にそうか? もう一度裏切られるのが怖くて近づけないだけじゃないのか? 女性恐怖症とやらは初耳だったけど、幼馴染に似過ぎてて手を出せないだけじゃないのか?」
「違う……と思う」
「ならいいけど……ゲームと違って現実には正解の選択肢なんて便利なものはないんだぞ……幸せも人それぞれだし女の子の攻略方法だって千差万別だ……だからこそこの関係が正しいとか間違ってるとか決めつけるのは危ないと思うぞ」
「だからって……まだ学生なんだぞ直美ちゃんは……せめて……」
卒業するまではと口にしようとして、だけど言葉に出来なかった。
思い出してしまったのだ、前に俺がブラック企業を辞める決心をした日のことを。
『だぁかぁらぁ……続きしよぉよぉ~』
『……新しい仕事見つかったらね』
『……約束だよ、おじさん』
(あの時に約束した期限は過ぎた……だけど俺は今度は卒業までって言いだしてしまった……その時が来たら俺はまた別の言い訳を口にするんじゃないか?)
俺はひょっとして直美が大人になるまでという口実で、自分が納得のいく状態になるまで断り続けるつもりだったのではないだろうか。
直美が俺から離れていかないと心の底から理解できるまで……幼馴染の幻影を完全に振り払えるまで。
「せめて……何なんだ?」
「……いや、ちょっと考え直してる」
「考える必要なんかないだろ、お前の幸せは直美ちゃんと一緒にいること……隣にいることじゃないのか?」
「俺の幸せは……直美ちゃんが笑ってることだよ、直美ちゃんが幸せになってくれればそれでいいんだ……いいはずなんだよ……」
別に俺が隣にいる必要はない、直美が幸せならそれでいい……そう思っていた。
(本当にそうなのか……俺は直美ちゃんが離れて行っても平気なのか……その程度の想いなのか?)
「史郎はさぁ、直美ちゃんを幸せに『してあげたい』なのか? それとも幸せに『なってほしい』のか?」
「……何が違うんだ?」
「してあげたいはお前の力で幸せな状態まで持ち上げるってことで、なってほしいは直美ちゃん自身の力で幸せを掴んでほしいってことだ……どっちなんだ?」
「……考えたこともなかった、どっちだろう?」
直美の幸せについて考える……そもそも幸せとは何だろうか。
お金があることか、人に認められることか……日々を笑って過ごせることだろうか。
「少なくとも直美ちゃん本人は自分で幸せになろうとしているな……花嫁修業と言い、誰よりお前と一番親しくなりたいから頑張ってる……だけどお前はお前の考える幸せにしてあげたいのか?」
「……その言い方はズルいだろ……そんなわけないって答えるしかないじゃないか」
少しだけ頭の中が晴れてきた。
どうやら俺は、こうあるべきという考えにとらわれ過ぎていた気がする。
(そうだよ、直美ちゃんの幸せは……直美ちゃん自身じゃないと分からないじゃないか……)
他所の俺が勝手にこうあるべきと決めつけて幸せにしてあげようなどと言うのは傲慢でしかない。
俺に出来ることは直美が成りたい幸せな状態になれるよう、協力することだけだ。
そのためにも共依存の脱却だとか年齢の差だとかを気にする前に……まずはもう一度ちゃんと話し合わないといけない気がする。
(俺が抱えている想い、直美ちゃんが抱えている想い……お互いに全部きちんと吐き出してちゃんと向き合おう……)
どこかで避けていたことだが、いい加減に目を向ける時が来たのかもしれない。
「ありがとうな亮、何か目が覚めた気がするよ」
「そりゃあ良かった、これであんとき役に立てなかった分を少しは取り戻せたかな……直美ちゃん待ってろよぉ、すぐに史郎の好感度稼いで追いついてやるからなぁっ!!」
いつものノリに戻った亮が俺を見て笑いかけてくる。
俺もまっすぐその顔を見て笑い返すのだった。
「けど何で急にこんな指摘してきたんだ?」
「お前があんまりにもまだるっこしいから直美ちゃんが可哀そうでなぁ……今度からは直美ちゃんの想いを受け入れてやれよ?」
「一度きちんと話し合うよ、その結果次第で……もう逃げたりしないで受け止めるよ」
「全く相変わらず真面目でヘタレだなぁ……今時、たかがキスぐらいでそんなに深刻に考えなくていいのになぁ」
「え……と、亮?」
ちょっと何かが引っかかった。
何かこいつは壮大な勘違いをしている気がする。
「だからぁ、お前さぁ直美ちゃんにキスをせがまれて逃げ回ってたろぉ……それぐらい年齢差があってもいいじゃねぇか……身体に手を付けるのは不味いけどさぁ」
「……ああ、ソウダネー」
ようやく気付いた、こいつが熱く語っていた理由……俺との温度差を。
(お、俺がキスから逃げ回ってたと思ってたのかこいつっ!?)
道理で年齢差……直美が学生であることをそんなに気にした様子もなく語っていたわけだ。
確かにそう言えば何だかんで俺は直美と付き合っているとすら伝えていない。
直美こそ妻だのなんだの言っていたがそれはいつものノリで否定して見せている……そりゃあ誤解するのも無理はない話だ。
「だけどキスする前にはちゃんとプロポーズすんだぞぉ、きちんと好きですって伝えてさぁ……俺と一緒でそう言うの苦手だろうけど頑張れよ親友っ!!」
(もう伝えて名目上は恋人状態なんだけどなぁ……キスも済んでるよぉ……)
意外と初心らしい亮がとても綺麗な目で俺を見つめてくる。
幾らなんでもここで、お前誤解してるよバーカと言えるほど俺は冷酷にはなれなかった。
「が、頑張るよ……お前にこんな熱くアドバイス貰えたんだからなぁ」
「はっはっはっ!! 気にするなって、いやぁ今度こそ役に立ててよかったぜぇ」
(な、なんか物凄く……罪悪感がするぅうううっ!!)
心底嬉しそうに笑う亮を、俺はとても複雑な心境で見つめるのだった。




