友人と過ごすお昼
「はぁい、レストランナオナオによぉ~こそぉ~っ!!」
「すみませぇんっ!! このお店は写真撮影可能でしょうかぁっ!!」
「ゆ~りょぉですけどおっけーでぇすっ!! なお一万円払うごとにスカートの裾を一センチ持ち上げるサービス付きでぇ~すっ!!」
「なぁああっ!? ちょ、ちょっと待ってろ、今すぐ銀行に行って百万下ろしてくるっ!!」
「……はぁ……」
(眩暈がしてくる……いつの間に着替えたんだよ直美ちゃん……)
どうやら亮の言葉を真に受けたらしく、直美は学生服姿の上にヒラヒラのフリルが付いたエプロンを着用していた。
オマケに髪型までシニヨンぽくまとめ上げている、もう亮君は絶賛大興奮だ。
「やぁん、百万円も貰ったら直美パンツ丸見えになっちゃぅよぉ~」
「ぱ、パンツが恥ずかしければブルマを穿けばいいじゃないっ!! うひょぉっ!! 忙しくなってくるぞこれはぁっ!!」
「いい加減にしてくれ……直美ちゃんも変なこと言わないの……」
「いつもおじさんにしてることじゃぁん……けどわかったぁ、旦那様がそー言うなら直美は素直にゆぅ通りにしちゃうんだからぁ」
「ず、ずりぃぞ史郎っ!! 萌えを独り占めしようなんてそんな子に育てた覚えはありませんっ!! というかこれが正常運転って、お前どんだけ前世で徳を積んだんだよぉっ!?」
(むしろこの状況罰ゲームに近いんだが……突っ込まないといけないことが多すぎてつれぇわ……)
頭が痛くなってきそうだ。
やっぱりこいつを家に呼んだのは間違いだったかもしれない。
「良いからご飯食べようよ、せっかく直美ちゃんが作ってくれたのに冷めちゃうでしょ」
「ちょっと待ってねぇ、最後にケチャップでハートマークさん書いてかんせーなんだからぁっ!!」
「オムライスにハートマークとはやるなぁ直美ちゃん、これが無償だなんて……俺毎日通っちゃおうかなぁ~」
「絶対に入れてやらねぇ……というかもう二度と誘わねぇ」
「もぉ、おじさんたら嫉妬しいしぃなんだからぁ……直美がハートマークを書くのはおじさんだ・け・だ・よぉ」
言葉通り直美は俺のところに近づいてササっとオムライスにハートマークを描くと、ケチャップを亮の方に置いてしまった。
「な、直美ちゃぁんっ!? ど、どうしてなんだぁいっ!?」
「だってぇ、直美の愛はおじさんだけのものなんだもぉんっ!! ごめんね、えーぎょぉースマイルで許してねぇ~」
「くぅうっ!? こ、これが営業スマイルだなんて……本物の笑顔はどれだけの破壊力を秘めてるのかぁっ!?」
「……もう付き合いきれねぇ……いただきます」
「ちょ、ちょっと待てよ史郎っ!? お前してもらったんだから直美ちゃんに愛をお返ししろよっ!!」
亮は余計なことをほざくと、こちらもササっとケチャップでドクロを描くと俺に手渡してきた。
(二人とも無駄に上手ぇ……じゃなくて、マジでやんなきゃ駄目なのかこれ?)
直美を見るとニコニコととても嬉しそうに笑っている……亮はニタニタと締まりのない笑みを浮かべている。
亮の顔面にケチャップをぶちまけてごまかしてやろうかとも思ったが止めておいた。
何故なら直美が本当に楽しそうに俺を見ているから……この笑顔に逆らえるはずがないのだ。
「おじさぁん、早く早くぅ~」
「……はいはい、わかりましたよ」
直美のオムライスにケチャップでハートマークを書いてあげた。
少し崩れたがまあ及第点な出来栄えだと思う。
「えへへ、おじさんのあいじょぉー受け取りましたぁっ!! じゃあ更なるお返しとして今晩ベッドを共にする権利を……」
「良いから食べようねぇ」
「じゃあ俺はそれを撮影する権利を……」
「いい加減にしないとマジで怒るぞ」
「じょ、冗談だって……直美ちゃん関係だとすぐムキになるんだからなぁ……いただきまぁす」
「二人とも召し上がれぇ~、そして直美もいただきまぁすっ!!」
手を合わせて食事をとり始める俺たち。
相変わらず味も美味い、どんどん料理が上達していっている。
(一人暮らしを始めた時は買い食いばっかりだったのになぁ……)
火を使わせるのが怖くて、料理ばっかりは中々練習させてあげられなかった。
しかし今では俺より遥かに上達してしまっている。
料理だけではない、家事全般において既に直美には敵いそうにない。
「……ご馳走様、美味しかったよ直美ちゃん」
「えへへ、お粗末様でしたぁ~」
「ああ、本当に美味しかったよ直美ちゃん……ありがとな」
「いいのいいのぉ、これもおじさんの妻になるための花嫁しゅぎょーだもん」
「……直美ちゃんは本当に史郎のことが好きなんだねぇ」
亮はどこか嬉しそうに直美を見つめていた。
「だってぇ、おじさんは直美にとって王子様なんだもんっ!!」
そう言って椅子に座る俺に横から抱き着く直美。
ついいつもの癖で受け入れてしまった、亮の前だというのに抵抗する気も起きない。
「王子様って、俺はただのおっさんだよ?」
「そぉんなことないよぉ、直美が辛いときとか苦しーときにいっつも助けてくれたじゃん……ちゃぁんと覚えてるんだからね」
「よくわからないけど、直美ちゃんにも色々あったんだねぇ」
「そーだよぉ……亮おじさんも前はここに遊びに来てたんでしょ? 少しは知ってるでしょ、直美の実家のこと……」
少しだけ声を落とした直美、やはり彼女自身も自分の実家のことを余り良く思っていないのだろう。
「まあ、少しだけね……俺は遠くの大学に通うために高校卒業と同時にこの街から引っ越したからねぇ」
「へぇ~そーなんだぁ……おじさんと知り合ったのはいつなのぉ?」
「中学に入った時だなぁ、親父が転勤族でたまたまここに着いたのがそんときだったんだ」
「じゃあ中学生から……高校まではずっと一緒だったの?」
「そうだよ、ずっと同じ学校に通ってたんだ」
直美の言葉に頷いて見せる。
亮はここの近くにある高校に通うため、わざわざ転勤する家族と別れて一人暮らしをしていた。
だから進学すると同時にこの街の住居は引き払ってしまい、顔を合わせる機会もなくなったのだ
「じゃあ3+3だからぁ、6年だねぇ……やったぁ直美の勝ちだぁっ!!」
「確かに考えてみたら直美ちゃんのほうが長いねぇ……」
何せ直美が幼稚園児のころからずっと一緒に居たのだ。
これ以上長く付き合っていた相手は親ぐらいのものだが、それもいずれ抜かされることだろう。
「ぐ、ぐぬぬ……い、いや俺たちの付き合いは濃厚だったから判定値は倍となるっ!!!」
「そ、そんなのずるぅいっ!! え、ええと6の二倍だから12年……お、おじさん直美あの時幾つだったっけぇっ!?」
「あの時って……出会った時のこと?」
「そぉ……直美をぎゅーって抱きしめてくれた時のことぉっ!! まさか忘れてないよねぇ?」
「……当たり前だよ……むしろ直美ちゃんが覚えていたのが驚きだよ」
初耳だったが、少しショックだった。
幼いころのことだから記憶に残っていないと思いたかった。
あんなひどい仕打ちのことは忘れていて欲しくて、だから聞くに聞けなかったのだ。
「まあねぇ……おじさんに言うと心配かけるから言わなかったけどたまーに夢に見ちゃうからねぇ」
「そうだったのか……知らなかったよ……駄目なおじさんでごめんね」
「だからぁ、そーいうの止めてよぉ……おじさんは駄目なんかじゃないよ、直美を助けてくれたんだからぁ……それに直美的にはおじさんに助けてもらえるからとってもいい夢なんだよぉ」
そう言って笑う直美は無理しているようには見えなくて、それだけでも良かったと思えた。
「おーい、シリアスな空気は良いけど亮ちゃんを忘れたら泣いちゃうぞぉ~」
「わかってるってぇ、忘れてなんかないからぁ……そぉだせっかくだし二人の昔話聞かせてよぉ~」
「おお、いいぞぉっ!! むかぁし昔あるところに悪魔と契約した聖騎士が……」
「止めてくれぇっ!! もういい加減忘れてくれよぉっ!!」
「えぇ~、直美好きなのにぃ……だけど今聞きたいのはそっちじゃないのぉ~、おじさんたちの学生時代のお話を聞きたいのぉ~」
直美は自らの席に戻ると、期待を込めた眼差しで俺と亮の顔を見回した。
どうやら本格的に話し込むつもりらしい。
「良いぞぉ、じゃあまず史郎との出会いから話してやろうではないかぁ」
「聞きたい聞きたぁいっ!! いつどこでどうやってであったのぉっ!?」
「あれは俺たちが中学生の頃だ、桜舞い散る木の下で出会ったその瞬間から運命の赤い糸を感じた……」
「中学生の部分以外すべて間違ってる……普通に同じクラスになっただけだよ……」
「ほうほう、それでそれでぇっ!?」
嬉しそうに訊ねる直美に、過剰に応えようとする亮。
その二人を抑えながら、俺たちは暫しの間昔話に興じるのだった。
「……うして迎えた文化祭っ!! 俺と史郎は女装をして客を迎え入れ、レズビアンショーを開催……」
「どっから突っ込めばいいんだこれ……」
「え、えぇっ!? ど、どこの穴に突っ込んだのぉっ!?」
「そーじゃないからぁ……うぅ……真面目に話そうよぉ……」




