雑談タイム
「うぉおおいっ!? 史郎お前ぇええっ!?」
「うるせぇっ!! 防弾チョッキの上に陣取りやがっ……っ!? 何で急に爆発がっ!?」
「モーションセンサ~モーションセンサ~」
「な、直美ちゃんいつの間にその爆弾をっ!?」
「よしナイスだ直美ちゃ……うぉおおっ!? リスボーン地点にまで仕掛けてあるだとぉっ!?」
俺と亮が争っているうちに、直美はあらゆる場所に爆弾を設置してしまったようだ。
こうなるともうどうしようもない、どんどん直美のキル数が増えていく。
「やったーっ!! ついに直美がいっちばーんっ!!」
「くぅぅっ!! な、直美ちゃんもう一回やろうっ!!」
「いや史郎、ここは完璧闇の方で決着をだなぁ……」
「Nボム使いまくる気だろうがっ!! 目が変になるわっ!! ね、ねえ直美ちゃんもう一回だけ……」
「はいはい、おーじょーぎわが悪いよおじさんっ!! これでこのゲームはしゅーりょぉなのぉっ!!」
言い切られて電源を切られてしまった、とても口惜しい。
(ああでも、やっぱり楽しいなぁ……亮と直美ちゃんの三人で遊べるなんて……どこか懐かしい気もするし……)
かつて俺と亮がゲームをしていると、大抵隣にいる幼馴染が音を聞きつけて乱入してきたものだ。
こうして三人で遊ぶのはそれ以来だ……だけどあの時よりずっと楽しい気がするのは気のせいじゃないだろう。
「さて、次は何をするかねぇ」
「直美ちょっときゅーけぇ~……というかこんだけぶっ続けでやり続けてまだやれんのぉ?」
「俺と史郎は新しいゲームが出るたびに徹夜してどっちが先にクリアできるか競ってたからなぁ……多少体力が衰えたからってゲームへの意欲はそうそう落ちないぜっ!!」
「当時は早朝から店頭に並んで新作を買い求めたもんだよ……少しでも早くやりたかったからねぇ」
「食事も抜きでぶっ続けでやったもんだ……そーいやぁ昼飯どうする? どっか食いに行くか?」
そういえば昼飯のことを全く考えてなかった。
時計を見れば、もう一時になろうとしている。
(あっという間だ……どうして楽しいとこうも時間の進みが早いんだろうなぁ……)
意識したら急にお腹が減ってきた、直美も同じようでさっと立ち上がった。
「二人ともまだまだ遊び足りないでしょ? 直美が作ってきてあ・げ・る」
「美少女JKの手料理だとぉおっ!! ひゃっほぉおおっ!! オプションでメイド服着用はOKっすかっ!? ああ、制服にエプロンでも……」
「ふざけたこと抜かしてると追い出すぞ……良いの、直美ちゃん?」
「当たり前だよぉ、旦那様のお友達を持て成すのは妻としてとーぜんなのだぁっ!!」
「だから結婚してないって……けどありがとう、お願いしちゃおうかな」
亮も大興奮していることだし、お言葉に甘えることにする。
「はーい、じゃあ出来たら呼びに来るからそれまで仲良く遊んでるんだよぉ~」
「ああ、ま、待ってっ!? 払うからぁっ!! 課金ジャブジャブするからオプション機能解放プリーーズっ!!」
「いい加減にしろ、あんま直美ちゃんを困らせんな」
「あはは、髪型ぐらいなら変えてあげてもいいけどねぇ~」
直美は楽しそうに笑いながら俺の部屋から出ていった。
亮は少しだけ未練がましく扉を見つめていた……が突然ため息をついて俺と向き合った。
「……直美ちゃん、めっちゃいい子だな」
「ああ、本当にいい子なんだよ」
「だけど見た目はあいつにそっくりだな……聞いてたのに顔見たら固まっちまったよ……」
亮の言う通り、直美は外見的特徴は当時の幼馴染とうり二つだ。
顔立ちから声に身長まで……正直俺も少し前までは意識せざるを得なかったほどだ。
「中身はまるで別人だから……あいつとは違うよ……」
「確かになぁ……だけど一緒に遊んでるとどうしても思い出しちまうよ」
亮はそう言って窓の向こうにある霧島家へと目を向けた。
「昔もよくこうして三人で遊んでたからなぁ」
「あの時の霧島さんはまだ髪も黒くていかにも清楚な女の子だったけど……いつだってお前の隣で笑っててさ、正直羨んだもんだよ」
「あいつ……霧島と俺はずっと一緒にいたから……俺もそれが当たり前だと……ずっと続くと思ってたよ」
今度は俺がため息をついて窓へと目を向けた。
亮と一緒に向かいの窓を見ていると、今にもあそこから霧島が顔を出してきそうな気がしてくる。
『あーっ!! また二人きりで遊んでるっ!!』
俺たちが部屋で遊んでいると、いつだって声を聞きつけて身体を乗り出してきた。
『私も混ぜてよぉ……史郎のやってるゲームなら私だってやりたいよぉ』
霧島のお願いを俺は一度だって断れた覚えがない、だから最終的には一緒に遊ぶことになるのだ。
『また負けちゃったぁ……史郎も嵐野君も強いねぇ』
だけど霧島は負けても一度だってムキになったりはしなかった。
それどころか微笑んで俺たちを褒めたたえてくれた。
(当時は単純に喜んだけど……今考えればゲームにそんな興味なかったんだろうなぁ……)
ただ俺がやっているから仕方なく付き合ってあげている、どこかそんな空気を漂わせていた気がする。
お陰で三人で遊んでも今日みたいにそこまで盛り上がった記憶がない。
「霧島さん、どんな時でもお前の後ろをくっついて歩いてたもんなぁ……お前も沢山面倒見てたし……」
霧島はどこか抜けているところがあって、また嫌なことを後回しにする癖もあった。
だからそのたびに俺は手を貸して協力して、時には成長を促すためにきついことを言ったこともあった。
『もぉ、史郎はたまに大人ぶるんだからぁ……大丈夫、私だって自分なりに考えて行動してるんだからね』
そのたびに霧島は呆れたような顔をして首を振り、結局改善しようとはしなかった。
「案外、俺のお節介を鬱陶しがってたのかもしれないなぁ……」
考えようによっては確かに干渉しすぎだ、俺は心のどこかで霧島のことを恋人か婚約者だと勘違いしていたような気がする。
逆に霧島からしたら俺は、小さい頃の約束に拘り告白もろくにしないで彼氏面してくる嫌な男だったのかもしれない。
「だけどあれは酷すぎるだろ……あんなに世話になっておいて手の平を返すどころか露骨に見下して……」
「それだけ俺が憎かったってことだろうなぁ……」
好きだった女の子に完全に無視されて、時には嘲笑われて……物凄く辛かった。
「サラっと言うなぁ……あんときは言葉もろくに喋れなくなってたのに……」
「あれは自分でもびっくりしたよ……どうしても上手く返事が出来なくてお前に声をかけられるのすら苦痛で……邪険にして悪かったよ」
「仕方ねぇよ……好きだった女を見知らぬ男に寝取られた挙句に変わってくところを間近で見せつけられたんだ……誰だって心を病むって」
ちゃんと付き合っていたわけじゃないから寝取られたという言い方は語弊がある。
しかし当時の俺からすればまさにそんな心境で……とてもショックだったのだ。
「だからどうしてもお前に話しかけるタイミングが掴めなくてなぁ……結局こんなに時間がかかっちまった……すまん」
「いや亮は気遣ってくれただけだろ……むしろありがとうな、電話してくれて……嬉しかった」
「本当かぁ~、直美ちゃんとの水入らずな関係を邪魔されたとか思ってないかぁ~?」
「…………オモッテナイヨー」
「思ってんのかよぉっ!?」
俺の言葉に大げさに嘆くふりをする亮、だけどその顔は笑っている。
俺も馬鹿な友人との変わらない友情に笑顔を返すのだった。
「それはともかく、この話は直美ちゃんには内緒にしてくれよ……余計なことで悩んでほしくないし、何より俺たちの間で霧島のことはタブー的な扱いになってんだからな」
「了解……しかし何がどうしてお前が直美ちゃんを育ててんだ? 声だっていつ戻ったんだ? それに霧島はどこ行ったんだ?」
亮の疑問に、俺は一旦ドアを開けて廊下の様子を伺った。
そして直美が居ないことを確認した上で静かに話し始めた。
「一つずつ答えるぞ……霧島はどこ行ったか分からん、俺が大学生ぐらいの時にスポーツカーに乗った男について行ったのを見たきりだ」
「あいつ結局進学も就職もしないで男遊びしてたのかよ……高校生で出産までする羽目になってまだ凝りてなかったのか……」
呆れたようにつぶやく亮だが、俺としては正直複雑なところだ。
何せその男遊びのお陰で直美が生まれてきてくれたのだから。
「話を戻すぞ、そんで直美ちゃんは……虐待されて外に追い出されてたんだよ、精神を病んだ霧島の母親にな」
「……胸糞悪い話だな……親父さんはどうしたんだ?」
「霧島が妊娠した時点で責任を放棄して浮気相手のところに逃げたよ……」
霧島が乱れた生活を始めてから、見知らぬ怪しげな男達が頻繁に家を出入りするようになった。
それだけでも親からすればストレスだっただろうに、おまけに霧島は野外に見えるように過激な行為を繰り返した。
すぐにそれは噂となり、周りから後ろ指をさされるようになって段々と霧島家は狂って行った。
(その上で父親まで家を出て行って、娘は誰の子ともわからぬ孫を置いて失踪……そりゃあ母親は正気じゃいられないだろうけどよぉ……)
それからあの女は、直美に行き過ぎた躾をするようになった。
根底にあるのは実の娘のように育ってほしくないという思いだったのだろうが、善悪の分別もつかない幼児にしていい内容ではなかった。
少しでも言うことに逆らえば暴力に食事制限、さらには薄着のまま靴も履かせずに家から閉め出したりもした。
(直美ちゃんはある意味で霧島家崩壊のきっかけだからなぁ、本人には何の罪もないけど憎まれていたのかもなぁ……)
『け、けど……大人は皆、直美を要らないって……お前さえいなければって皆……』
前に直美が言っていたことが思い出される……あれは霧島家の人たちに言われたことだったのではないだろうか。
「なんだよそれっ!? どいつもこいつも最低じゃねぇかっ!!」
「本当に直美ちゃんは辛かったと思う……しかも警察とかも霧島の母親は追い払うし、通報した家にも身の危険を感じるほど粘着してきて……そのうち誰も彼も見て見ぬふりをするようになっていったから……」
「……っ」
亮ははっきりと憎悪の表情を浮かべて隣の家を睨んだ。
「俺も噂は僅かに聞いていたけど手を差し伸べられる状態じゃなかった……上手く喋れないからブラック企業にしか就職できなくて……そこでも疎まれて……」
必死でプログラミングなどのスキルを磨いて、何とか認めてもらおうと努力して……だけどすべて無駄に終わった。
そうして生きる意味も感じられないまま、会社と家を行き来するのが精いっぱいだった。
「だけどある日、俺が帰ってくると直美ちゃんは家の前で倒れてたんだ……」
皮肉にも女性恐怖症まで発症した俺は霧島が帰ってくることに怯えていて、毎日のように戻ってきてないか隣に視線を向ける癖がついていたからこそ気づけたのだ。
「気になって近づいた俺に直美ちゃんは力なく手を伸ばして……服を握ったんだよ……」
そうして何とか顔をこちらに向けた直美は、だけどどうしようもないほどに幼馴染の小さいころにそっくりだった。
一瞬でトラウマが刺激されて、俺は反射的に振り払おうとしてしまった。
『……ごはん』
だけど涙すら枯れ果てた余りにも痛々しい姿で、かすれる声で何とかそれだけ声に出した直美を見てしまったら振り払うことなどできるはずがなかった。
気が付いたら俺は直美を抱き上げていて、自然と口を動かしていた。
「……もう大丈夫だから、安心して……直美ちゃんにそう話しかけたことがきっかけになって俺は声を出せるようになったんだよ」
「お前凄いなぁ……いやマジで偉いと思うが、その後はどうなったんだ?」
「まず家に連れて帰って両親に土下座して協力を求めたよ……隣の噂は知ってたし、俺と幼馴染の関係も何となく察してたから何度も関わるなって言われたけど最後には折れてくれたよ」
俺が再び喋れるようになったのがよほど嬉しかったらしい、だからそのきっかけになった直美のことも渋々と認めてくれたのだ。
それでも幼馴染に似過ぎている直美に対する態度はそっけないものになっていたが、生活する上での最低限の面倒は見てくれていた。
「それで両親にも手伝ってもらって、興信所に依頼して霧島の親父を見つけ出して……無理やり協力させて母親を病院に突っ込んだんだ」
(協力しないと母親に住所ばらすぞって脅したんだよなぁ……まあ代わりに入院費は俺が持つ羽目になったんだが……)
「次に直美ちゃんの暮らす場所だけど親父さんのところに預けてもまた虐待されるのが目に見えてたし、向こうの浮気相手も嫌がってたから自然とこっちで暮らすことに決まったんだよ」
「なるほどなぁ……それでお前が面倒を見ることになったわけか……」
「そう言うこと、ただ最後に霧島家の維持費と直美の養育費は振り込むようにはさせた……これも嫌がってたけど裁判沙汰はもっと嫌みたいで渋々受け入れてたよ」
「……養育費はともかく、家の方は売っぱらってもいいんじゃないか?」
「名目上は他所から突っ込まれないよう直美ちゃんは霧島家で親父さんと暮らしてることになってるし、何より女の子だったからねぇ……年頃になったら一緒に暮らすのは止めろって両親がうるさくてな……」
俺が直美に手を出すのを恐れていたのか、直美に息子が篭絡されるところを見たくなかったのかそれはわからない。
いやひょっとしたら、今俺たちが陥りかけている共依存の兆候を見抜いていたのかもしれない。
とにかくそう言うわけで霧島家は維持されていて、直美は少しずつ一人暮らしの練習をして小学校高学年ぐらいから本格的に隣の家で暮らすようになった……尤もそれからも毎日のように俺の部屋に入り浸っていたけれど。
(それが今じゃ結局一緒に暮らしてて……あの世で怒ってるかなぁ……ごめん、だけど直美ちゃんが本当に大事なんだ俺……)
「そう言えばお前の両親はどうしたんだ? 車も無いけどどっか旅行でも行ってるのか?」
「……直美ちゃんがちょうど高校生になったころかなぁ、買い物帰りに交通事故に巻き込まれてなぁ」
当時声が出せるようになって、会社でも自己主張して少しずつ居場所を確立しかけていた矢先のことだった。
流石に衝撃が強すぎてすぐには立ち直れなかった……だけど直美を養うためにも働くしかなかった。
そして両親を失い精神的に弱っている俺は、もう強く出ることなどできず流されるままにあの会社の人間に利用されて使い潰されそうになっていたのだ。
「……すまん」
「お前が謝ることじゃないって」
「そんな辛いときに俺、何もしてやれなかった……これでも親友のつもりだったのになぁ……はぁ……」
「だからお前が落ち込むなって……俺だって余裕がなかったとはいえお前に連絡を取ろうとも思わなかった……薄情だろ、お前のこと親友だと思ってたのに……」
「そんな波乱万丈な人生送ってたら普通気づかないって……でもまあ、今は大丈夫なんだな?」
亮の言葉に俺は真っ直ぐ顔を向けて、はっきりと頷いて見せた。
「ああ、もう大丈夫だ……直美ちゃんが支えてくれたからね」
「……ならいいけど、今度なんかあったらそれこそ相談してくれよな」
「そうだな、そんときはよろしく頼むよ」
もう一度俺は亮に向かい、はっきりと首を縦に振って見せるのだった。
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