お遊びタイム
「俺の手札にはサイドラが三枚、パワボンが一枚、羽箒が一枚……先行は譲ってやるっ!!」
「フォトスラ出してブリキンとサウザンドブレードでラヴァチェからブレードとトリッククラウン落として戻ってきたやつらと魔法カード切ってゼアルまで……お前のターンだ、ゼアル効果発動で後は好きにしろ」
「お前の場のモンスターをコストに神・降臨」
「さっきと手札違うじゃねぇかっ!?」
「神引きしたんだよ、残りのカード五枚伏せてターン終……おい勝手に捲んなよっ!?」
「意味ふめぇ過ぎて直美付いて行けなぁい……ああ、喧嘩しないのぉっ!!」
久しぶりにやったカードゲームはカオスすぎて戦いにならなかった。
仕方なく別のゲームに切り替えることにする。
「仕方ない、スピードでもやるか」
「よぉし、せーの……1・3・4・5・7・2・12・13・5・6・7」
「7・8・9・8・9……ってお前今違う数字出しただろっ!?」
「出してねーよっ!! 11・3・5・7」
「どんどん適当になってるじゃねぇかっ!!」
「あはは、亮おじさんずるぅいっ!! 今度直美も真似しよっとぉっ!!」
またしてもイカサマし放題でゲームにならなかった。
これでは話にならない、今度はテレビゲームを起動した。
『カカカカカカカカカカカカカカカカロ……』
「クソ、二十回も行かなかったっ!! やり直しだっ!!」
「ゲーム始まらないじゃねぇか……」
「ナニコレぇ~っ!! 直美もやってみたぁいっ!!」
ついにはゲームをすることもできなくなった。
審判の直美は俺のベッドに寝転びながら笑って見てるだけで何も仕事をしてくれない。
「直美ちゃん、お願いだから止めてよぉ」
「いいのぉ、面白いからセーフぅ」
「審判がこう言ってるからセーフっ!! いい子だねぇ直美ちゃんは、後でご褒美に史郎が好きだった髪型を教えてあげよう」
「わーいっ!! とーるおじさんだぁいすきぃっ!!」
「いい加減にしろよぉっ!!」
これでは遊びにならないので軽く叱る……別に嫉妬してるわけではない。
「史郎ったら我儘だなぁ……じゃあ別のゲームでもやるか」
「今度こそ真面目にやろうな……」
「へいへい……そうだ、次は直美ちゃんも一緒にやらないかい?」
「えぇ~、直美二人にはついていけないよぉ」
「そう言わずにさぁ……美少女と一緒にゲームするのって夢だったんだよぉ~、なあ史郎?」
「俺に同意を求めるな……」
相変わらず亮は欲求に素直と言うか、自分を飾ろうとしない。
それでいて不思議と嫌悪感などを抱けないのは人徳というやつなのだろうか。
「えぇ~、そぉだったのおじさぁん?」
「そうさ、よく史郎と男二人でゲーセンに行ってはたまにいるカップルを羨んだもんだぜ」
「だから勝手に返事をするな……まあ微妙に居心地が悪かったのは事実だけどよぉ」
幼馴染はゲーセンにまでは付いて来なかった。
煙草の臭いが嫌だと語っていたが後になって普通に吸っていた事を思うと……本当はあの頃から少しずつ俺たちの距離は離れていたのだろう。
それはともかく、だからこそ趣味に理解を示してくれる女の子を羨ましいと思っていた面はないとは言えないのだ。
「へぇ~、じゃぁ今度一緒に行ってあげよっかぁ?」
「マジでっ!! ひゃっほぉっ!! よぉし、ガンVSかギルギアに座るから対戦相手に聞こえるように黄色い声援を……」
「下手しなくても喧嘩になりかねないから止めとけ……というか俺の直美をそんなことに巻き込むな……」
俺と同じで亮もゲーセンの大会なら優勝を狙えれるレベルのゲーマーだ。
そんなやつが女の子に声援を受けながら連勝記録なんぞ伸ばしてたら確実に空気が悪くなる。
「へぇ……『俺の』直美ねぇ……」
「あっ!?」
「……えへへ、おじさん恥ずかしいよぉ」
無意識のうちに呟いてしまった俺の言葉を聞いて亮はニヤニヤと、直美はニマニマと笑うのだった。
「いやぁお熱いですなぁ……」
「おじさぁん、直美もっと言ってほしいなぁ~」
「ほら、お前の直美ちゃんがこう言ってるぞ……撮影は任せろっ!!」
「とーるおじさんって本当に話の分かる人だねぇ~、直美好きになっちゃうかもぉ~」
「……亮、お前本気で追い出されたいのか? 直美ちゃんもそう言うこと気軽に言わないの」
流石に悪乗りが過ぎる二人を咎める……嫉妬してるわけじゃないはずだ。
「じょ、冗談だって……そんな目で睨むなよぉ」
「おじさんたら案外やきもち焼きさんなんだねぇ……えへへ、だけど直美ちょっと嬉しいなぁ」
「はいはい……それより真面目に何すんだよ?」
「そーだなぁ、じゃあTRPGなんかどうだ?」
そう言って亮は勝手知ったるとばかりに俺の部屋を漁り始めた。
「よくわかんないけど、直美にもできるのそれ?」
「まあ直美ちゃんは好きなように会話してサイコロ降ればいいよ、細かいとこは俺と史郎で何とかするからさ」
テーブルトークゲームはその名の通り、会話とダイス目で全てが決まるゲームだ。
最初の設定こそ面倒だが、そこさえ終わってしまえば直美ちゃんでも出来るだろう。
「それはいいけど、どのTRPGやる気なんだ?」
「前にお前が自作したやつ」
「ちょっ!?」
さらっとほざきながら、亮はどこからかホッチキスで止められたコピー用紙を見つけ出してきた。
かつてTRPGのルールがわからない奴と一緒に遊ぶために作ったものだ。
確かにこれなら殆どサイコロを振るだけなので直美でもできる難易度なのは間違いないが……問題がある。
「おじさんが作ったゲームなのぉっ!! 直美やりたぁいっ!!」
「だ、駄目だ……と、亮頼むそれだけはやめてくれ……」
「いやぁ何も問題ないだろぉ、ちなみにストーリーは聖騎士……」
「だぁあああっ!!」
慌てて亮の言葉を遮るが、遅かったようで直美が目を輝かせた。
「あぁーっ!! 直美分かったぁっ!! あれでしょ、悪魔の洗礼を受け……」
「止めてぇえええっ!!」
「おお、知ってるのかっ!! そう、かの有名作家であるアマミィヤシンロォ氏が書き上げた究極の……」
「うるせぇっ!! 他にストーリーが思い浮かばなかったんだよっ!!」
「だからって自作小説のTRPG作って遊ばせんのはハイレベルすぎると当時から思ってましたよ私は」
「あれ面白いじゃんっ!! 直美好きだよっ!! 我が愛刀、究極無滅の錆と消えるかっ!?」
「分かったっ!! 俺が悪かったからっ!! 謝るから勘弁してくれっ!!」
二人掛かりで黒歴史をガシガシ刺激してくる。
こんなの敵うはずがなく、俺は必死で頭を下げた。
(うぅ……なんか俺ばっかり虐められてる気がするぅ……)
酷い話だ、さっきから精神的な疲労がやばい。
「あはは、おじさんってほんとぉにとーるおじさんと仲良しなんだねぇ」
「直美ちゃんさぁ、どこをどう見ればこれが仲良く見えるのぉ?」
「どー見ても仲良しじゃぁん……直美嫉妬しちゃいそぉだなぁ~」
言葉の割に直美はとても楽しそうに笑ってばかりいる。
(困ったもんだ……まあ、打ち解けてくれてよかったけど……)
「史郎、ほら直美ちゃんのご機嫌を取らないと……『俺が愛してるのは君だけさ』『うっせー、あっち行け』さあ選べっ!!」
「うっせー、あっち行けっ!!」
「俺に言ってどうす……わ、悪かったから蹴るな冗談だろっ!?」
「あはは、お馬鹿さんだぁ~」
結構本気で蹴り飛ばしてやると、今度こそ亮は反省したようで俺の作ったTRPGのシートを片付けた。
ただそれをジーっと見ている直美がとても恐ろしい……後で違う場所に隠しておこう。
「仕方ない、じゃあフツーにシド星で暴れるか三国志の七か八やるべ?」
「どっちもまた長い奴を……と言うか普通って言うなら64とかにしようぜぇ」
「あれはコントローラーの形状が独特でゲーム慣れしてない子にはムズイんじゃ……直美ちゃんは何かゲームとかやったことある?」
「直美はねぇ、このゲームをじっきょー配信しちゃってるのだぁっ!!」
そう言っていつもやっているソフトのパッケージを見せつける直美。
「へぇ、FPSやってんだ……しかも配信……史郎、お前現役JKで同じ趣味持っててしかも可愛く優しい彼女持ちとか羨ましいんだよこの野郎っ!!」
「ぐほぉっ!? く、首絞めるなぁっ!?」
「あれぇ、とーるおじさんは彼女とかいないのぉ?」
「ぐはぁっ!? な、直美ちゃんそんな綺麗な目で聞かないでくれぇ……」
「いないんだぁ……とーるおじさん面白いから居ても不思議じゃないのにねぇ」
「ごはぁっ!?」
(直美ちゃん、その言い方は俺たちみたいな女の子に縁が無い人間には大ダメージだよ……良いぞもっとやれっ!!)
直美は無邪気に、致命的なクリティカルヒットを繰り返す。
亮はもう虫の息だ……ざまあみろ。
「う、うぐぐ……そんなこと言ってくれるのは直美ちゃんだけだよぉ……良いなぁ、俺もこんな可愛い彼女欲しいわぁ……うぅ……」
「だいじょーぶぃ、とーるおじさんならきっと絶対多分恐らくひょっとしたらいい彼女できるってぇっ!! 直美が保証するふりしてあげちゃうんだからぁっ!!」
「うわぁいって一瞬喜んだ俺が馬鹿だったぁ……直美様ぁどうかこの私めに良い子を紹介してくださらないでしょうか……ほれこの通りでがす」
見栄も外聞も投げ捨てて年下の女の子に土下座する亮……何というか本当に欲求に素直な男だ。
(というか一回り年下の女子高生に彼女を紹介してもらおうとするなよ……ド変態かお前……ああ、変態だったな……)
「うーん、だけど直美あんまり友達いないしなぁ……どんな子が好みなのぉ?」
「物静かでミステリアスで包容力があってオカルトに詳しく紫色のロングヘアをシニヨンにしててゴシックロリータ風の服を好んで着て俺のことを兄君って呼んでくれる子」
「お、お前……まだ千影のことを……」
「す、すっごい早口……とゆーか物凄く具体的過ぎるんだけどぉ……生き別れた妹さんか誰かなのぉ?」
「ああ、産まれた時から俺たちは違う世界で生きているんだ……モニター越しでしか会えないけれど、時折浮かべる笑顔に俺は癒され……」
「直美ちゃん、放っておいてあげて……ただの病人だから……」
呆れたように言いながら俺は、かつてと何一つ変わらない友人と過ごす時間を楽しむのだった。
(まるであの頃と同じ……こんなに離れてたのに……友達っていいなぁ……)
「ちなみにこの画像の子が俺の嫁な、そんでもってこっちのおにいたまって呼ぶ子が史郎の一押しキャラだったぜっ!!」
「えぇっ!? そ、そんなぁ……直美もうこの時期過ぎちゃったよぉっ!! どーして手を出してくれなかったのぉっ!!」
「サラっと大ウソつくんじゃねぇええええっ!! 直美ちゃんも信じないでぇえええっ!!」
(や、やっぱり最悪かもしれない……覚えとけよ亮の馬鹿野郎ぉ……)




