定休日②
『もっしもぉし~、直美の旦那様ですかぁ~?』
「はいはい……後は誰に送ろうかなぁ」
「もぉ~、相手してよぉ~」
「これで何度目だと思ってるのぉ、さんざん相手したんだからもういいでしょ」
「駄目ぇ、おじさんの着信履歴を直美で埋め尽くすのぉ~」
せっかく携帯電話を買い替えて前の会社からの連絡が途絶えたというのに、今度は直美が何回も電話を繰り返してくる。
お陰で丸一日過ぎたというのに全然設定が終わらない。
「お願いだから連絡先だけでも登録させてよ……明日は仕事で出来ないんだから……」
「まだ時間あるじゃぁん……直美の相手してよぉ~」
後ろから直美が抱き着いて、胸部を押し当ててくる。
相変わらずとても柔らかくて、非常に魅力的だ。
正直、誘惑に負けて直美と色々な遊びをしたい。
(うぅ……し、しっかりするんだ俺……この程度で負けてたら直美ちゃんが大人になるまで持たないぞ……)
「ふぅ……ほら離れて……すぐ終わらせちゃうから」
「やぁ、直美おじさんから離れたくなぁい」
ぎゅっと腕に力を入れてより一層密着する直美。
同棲してから直美の甘え方が一段と強くなっている気がする。
これが良いことなのか、あるいは悪いことなのか……俺には判断が付かない。
(俺個人としては直美ちゃんが甘えてくれるとすごく嬉しいけど……今だけは勘弁してほしい……)
「ちょっとだけ待ってよ、本当に終わらせたらすぐに相手してあげるから」
「もぉ、しょぉがないなぁ……早く済ませて一緒に腰を動かす運動しようねぇ~」
「しませぇん……」
ようやく直美の拘束から解放された。
この隙に新しい携帯の番号とアドレスを連絡先に送ってしまおうと思い、前の携帯から引き継いだ電話帳を確認する。
(懐かしい名前ばっかり……学生時代からずっと使ってるもんなぁ……)
学生時代の友人に亡くなった両親……そして霧島という苗字のあて先が三件。
うち一つは直美だ、もう一つは直美の祖父……最後の一つはあいつだ。
これのせいで一斉送信で済ませるわけにはいかなかったのだ。
(流石に書類上とは言え直美の保護者である祖父には送らないとなぁ……後は今の会社に誘ってくれた社長と……一応友人にも送っておくかな)
前の会社とあいつ以外の殆どを選び終えて送信を済ませる。
「これでいいな……終わったよ直美ちゃん」
「結構送ったねぇ……意外とおじさんお友達いたんだねぇ」
「そりゃあまぁ……みんな昔のゲーム仲間だけどね」
「それはいいんだけどぉ……その中に女の人は何人いるの?」
にこやかに笑う直美、だけどどこか迫力を感じる気がするのは気のせいだろうか。
「居るわけないでしょ、おじさんは女性恐怖症なんだから」
「ほぇ? そうなの?」
「……そういえば直美ちゃんには言ってなかったっけ?」
「うん、初めて聞いたよぉ……直美全然知らなかったぁ……な、直美のことも怖いのぉ?」
「逆だよ、直美ちゃんだけは平気なんだ……特別な世界で一番大切な女の子だからね」
不安そうにする直美を安心させようと優しく頭を撫でてあげる。
「えへへ……そっかぁ、おじさんは直美以外の女の人は駄目なんだぁ……じゃあ直美をお嫁さんにしないと大変だぁねぇ……えへへ」
「お嫁さんって……おじさんはこうして一緒に居られるだけで十分幸せだよ」
「直美もだけどぉ、もっともぉっと幸せになりたいなぁ……だからぁエッ……あれ、ひょっとしておじさんがエッチな事したがらないのって……っ!?」
『ピリリリリリリリっ!!』
直美の言葉を遮る様に俺の携帯電話が鳴りだした。
(だ、誰だろう……まさか前の会社の奴に間違えて送っちまったのかっ!?)
恐る恐る携帯の画面をのぞき込んで、そこに表示されている名前を確認する。
『嵐野亮』
(っ!?)
俺は反射的に手を伸ばし電話を取っていた。
「と、亮かっ!?」
『史郎っ!! 久しぶりだな史郎っ!!』
「本当に久しぶりだ……元気だったか?」
『まあまあな、お前も……元気になったのか?』
かつて一番親しかった友人の言葉は、別れのきっかけとなったトラウマのことを挿しているのだろう。
俺はちらりと直美を見てからはっきりと答えた。
「ああ、もう大丈夫だ……あの時は悪かった」
『いいんだって、あんな目に合えば誰だって打ちひしがれる……俺の方こそもっと早く連絡すればよかったよ』
「いや、立ち直れたのはつい最近なんだ……こっちこそ連絡すればよかったな、悪い」
どうやらずっと俺のことを気遣ってくれていたらしい友人に、むしろ申し訳なさすら感じてしまう。
幼馴染に振られて自暴自棄になって、自分勝手な感情で縁を切ろうとした俺のことをまだ気にかけてくれていたことが嬉しかった。
『気にすんなって……いやぁしかし本当に懐かしいなぁ……お前まだゲームやってるかぁ?』
「それなりにな、お前もやってんの?」
『そりゃもちろん、俺たちの数少ない趣味だからな……辞められないわ』
「確かに……じゃあ今度一緒になんかやるか?」
恐らく俺が持っているゲームならこいつも大抵持っているはずだ。
ネット越しでも久しぶりに一緒にゲームをやったらとても楽しめそうだ。
『おお、いいねぇ……そういえばお前まだ実家に居るのか?』
「まあな、それがどうかしたのか?」
『いや隣がアレだからってだけでお前が気にしてないんなら別にいいんだが……そうだ、顔も見たいし今度遊びに行っても良いか?』
「ちょっと待って……直美ちゃん、友達呼んでもいいかな?」
「むぅ……好きにすればぁ、おじさんの家なんだしぃ……」
電話口を押さえながら振り返ると、何故か直美はむくれていた。
一体どうしたのだろうか。
「いや直美ちゃんが嫌なら断るよ……ここは直美ちゃんの家でもあるんだからね」
「そーいう言い方ずるいんだからねぇ……久しぶりなんでしょぉ、呼んでもいいよぉ」
「ありがとう……もしもし、許可が下りたぞー」
『おお、そうか……よし久しぶりに徹夜してとこぷよ配信でもやろうぜっ!!』
「ふざけんな、一人でやってろ」
友人の馬鹿な発言を笑い飛ばす……かつてと同じやり取りに心が和む。
『なんだよぉ、じゃあサバイバルゲーのRTA配信でもいいぞ……それとも鬼ごっこゲーで能力封印キラーで最高ランク目指すか?』
「普通に遊ぼうぜ……どこか近い休日にでも会おう」
『了解、積もる話もあるが今日のところはこれで切るぞ、そっちに行けそうな日が決まったら連絡する……またな』
「またな……ふぅ」
「終わったのぉ……それで、どこの誰さんだったのぉ?」
電話を切って改めて直美と向き合うと、ちょっとだけ不機嫌そうに俺を睨みつけている。
「前に少し話したよね……学生時代に遊んでた友達だよ」
「ふぅん、随分と楽しそうだったねぇ……あんなに嬉しそうにしちゃってさぁ……」
「直美ちゃん……ひょっとして嫉妬してるの?」
「べぇつにぃ……その人男なんでしょぉ、だったら直美が嫉妬する必要なんかないもぉん」
言いながらも露骨に顔を背けて拗ねてしまう直美。
(困った子だなぁ……だけどやっぱり可愛いなぁ……)
我儘を言う姿もまた愛おしい、だからついつい子供にするみたいに頭を撫でてしまう。
「何度も言うけどおじさんの一番は直美ちゃんだからね……本当に嫌なら今からでも断るよ」
「も、もぉ……だからそーいう言い方はずるいってばぁ……何でも許したくなっちゃうじゃん……」
「優しいなぁ直美ちゃんは……こんないい子に育っておじさんは嬉しいなぁ……」
「うぅ……最近おじさん直美のこと物凄く子ども扱いしてないっ!? 直美恥ずかしいんだけどぉ……」
直美は口ではそう言いながらも、俺から離れることは愚か抵抗すらしようとしないのだ。
だから俺は思う存分、愛でることにするのだった。
「直美ちゃんが可愛い過ぎるから可愛がってるだけだよ……よぉしよし」
「か、可愛いって言うならぁもっと色々してよぉっ!! 深いかんけーになろうよぉおじさぁん~」
「大人になったらねぇ~、いい子いい子」
「だ、だからぁ……子ども扱いするなぁ~っ!!」
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