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定休日①

『ピリリリリリリリリリッ』

「あはは、すっごい必死だねぇ……おじさん出てあげたらぁ?」

「勘弁してよぉ」


 最近になって急に携帯電話がひっきりなしに鳴るようになった。

 通知先は前の職場だ、どうやら何かトラブルが発生しているらしい。

 電話を取らずに無視し続けていると、今度はメッセージ攻撃が頻発している。


『早く出ろっ!!』『仕事舐めてんのかっ!!』『今すぐ謝罪して会社に来いっ!!』

「この人上司だった人でしょ? もぉおじさん辞めてるのに何考えてんだろうねぇ……馬鹿じゃないの?」

「変なプライドでもあるのかなぁ……本当に馬鹿だねぇ」


 前なら怯えていただろうが、今となっては笑い話でしかない。


『そろそろ戻ってきませんかっ!?』『今なら俺が口利きして前と同じ待遇で戻ってこれますからっ!!』『他の人たちも待ってますよっ!!』


 こっちは縁故採用された同僚だろう、やはりどうしようもなく無様な文面が送られてきている。


(何で今更、全ての面で劣ってる会社に戻らないといけないんだか)


『個人的に相談があるんですけど時間ありませんか?』『少しだけでも会って話しませんか?』


 これは誰だか分からないが、添付された画像を見る限り女性社員達のようだ。

 色々と無駄に化粧をした顔のアップだとか、あちこちを僅かにはだけさせた格好とかが送られてきている。


「愛する可愛い奥さんがいるからお会いできませんっと、後は写真を……」

「止めてね、直美ちゃん……余計なことしないでね」

「別にいーじゃんっ!! 世界で一番美しくて可愛い直美の写真を送り付ければ一発で黙るってばっ!!」

「良く自分でそこまで言えるねぇ……しかし、困ったなぁこれ」


 このままでは携帯電話を使うこともできない。

 迷惑電話登録をしても、会社の電話やら個人の携帯から果ては公衆電話まで使ってくるので止めきるのは難しい。


「じゃぁ、せっかくだし電話買い替えちゃおっか?」

「それもいいかなぁ」

「よぉし、じゃあ早速お出かけデートだぁっ!!」

「そうだねぇ……じゃあ携帯を買い替えるついでに食事でも行こうか」


 この間、俺の作った各種ツールが会社で採用されたことにより特別手当を貰えたのだ。

 お陰で多少豪遊しようとも平気なぐらいお金が余っている。

 

「わーいっ!! ひっさしぶりだぁっ!!」

「何処に行こうか……この間の寿司屋でもいいし和牛専門の焼き肉屋でもいいよ」

「う~ん、けどお金勿体ないしぃ……フードコートとかファストフード店でいいよぉ」

「たまには使ってもいいじゃないか、あんなに行きたがってたんだから……遠慮しないでいいんだよ?」

「あれはぁ……美味しい物でおじさんを元気づけようと思ってぇ……だけどもぉ必要ないからぁ……」


 もじもじと呟いた直美、その本心を聞いてまた愛おしさが増してしまう。


「そっかぁ、色々心配かけてごめんね……もう大丈夫だからね」

「えへへ、そぉみたいだねぇ……これで直美も安心して甘えられちゃうよぉ」


 直美は俺の腕を引き寄せて、こちらの肩に頭を預けてきた。

 そんな直美を優しく抱きかかえて、街中を並んで歩いていく。


(自然な動作で肩を抱いてしまった……物凄く見られているような……まあ直美ちゃんが嬉しそうだからいいや)


 うっとりと目を閉じたり、俺の手を撫でまわしたり……時折こちらの顔を見上げてはにかんで微笑む直美。


「えへへ……こぉしておじさんとちゃんとデートできる日が来るなんて、直美は幸せだぁ」

「おじさんも直美ちゃんが笑っていてくれて……幸せそうで……とても嬉しいよ」


 目と目が合うと身体中がくすぐったいような、それでいて満たされるような心地の良い感触に包まれる。

 どうやら俺は心底直美のことが好きでたまらないらしい。

 娘と共に歩くとこんな気持ちなのだろうか……あるいは仮にも恋人である異性だからだろうか。


(多分両方だろうなぁ……もう直美ちゃんが居ない生活なんか考えられないよ)


 出来ればずっとこうして隣に居たい……離れたくない。

 だけどやっぱりこれが正しい関係だとも思えない。

 とても可愛く魅力的な直美に対して俺は釣り合いが取れていない……ただのおっさんなのだ。


(直美ちゃんが二十歳になるころには俺はもう四十手前……シャレにならないよなぁ……)


「お~じさぁん……どぉしたのぉ?」

「いや、ちょっとね……」

「最近考え込むこと多いよ……何かあったんなら直美に相談する約束したよね?」

「分かってるよ……大丈夫だから」


 直美に心配をかけないよう笑顔を見せながら、少しだけ強く肩を抱きかかえた。

 すぐに笑顔を取り戻した直美は嬉しそうに、俺の手を頬ずりするのだった。


(もしも直美ちゃんが依存から脱却して……俺を保護者としてしか見なくなっても……大丈夫だからね……)


 直美が笑っていてくれるなら、この笑顔を守れるのなら俺は何でもできるし耐えられる。

 俺は直美が幸せでいてくれれば、それでもう十分なのだから。


「えへへ……だんだんおじさんも素直になってきたみたいだし、そろそろエッチな関係になってもいいころだよねぇ」

「はいはい……ほら、いつものファストフード店が見えてきたよ」

「またごまかすぅ……おじさんはエッチな事興味ないのぉ?」

「まだ俺たちには早すぎるの……さっさと食べて携帯買いに行こうね」

「ぶぅ……直美はお年頃だから興味津々なのにぃ……」


 ぶつくさ文句を言う直美を、いつぞやとは逆に俺が引っ張るようにしてお店へと入っていく。

 何だかんだで食い気も強いようで、直美はすぐにカウンターに取り付いてメニューを眺め始めた。

 そんな直美の隣に並んで、俺たちは仲良く注文をするのだった。 

 

「何食べようかなぁ……おじさんと口移しするためにポテトは必須としてぇ……」

「しないからね……」

「後、飲み物は一つでいいですけどぉストローは二本つけてくださぁい」

「何をするつもりなのかなぁ……はぁ……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 早くこのクソ上司がクレームの後始末で謝罪に来ないかなぁ 勿論対応するのはおじさんで 恐らく最大級の屈辱になるのでは
[一言] ようやくオッサンが幸せそうになってくれてよかったです
[一言] 前の会社の連中は電話してる余裕あるなら仕事しろと なんちゃって実力主義で胡麻すりが上手いのや他人の手柄の乗っ取りが上手いのだけしか残ってないのかな
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